2009年03月10日

PAC−3では23区は守れません(5)

 そこで、第3回の話しで出てきた 2001年 というのに戻ってみます。

 あの公表資料が作られた2001年の時点で、米軍が考えていた対弾道弾の防御手段は ↓ の5つでした。

US_MD_System_s.jpg

 この内、大気圏内防禦(Lower Tier)のPAC−3とNA(Navy Area)は、既存のものの応用と言うことで、初期段階の実用化直前というところに来ていました。

 そして次の段階の大気圏外防禦(Upper Tier)でも、米海軍はNTW(Navy Theater Wide)については早期実用化の目算が立っていました。

 それは当然でしょう。 イージス・システムを改良して使うんですから。

 それに対して、新規開発である米陸軍のTHAADの方はもう10年以上かかっているにも関わらず全く目途がたたない状況でした。(20年近く経った未だにダメですが。)

 で、米海軍・海兵隊は業を煮やした んです。

 能力が大してない上に厖大な手間暇のかかるPAC−3や、まともに使い物になるかどうかさえ解らないTHAADなどは後回しにして、海軍のイージスを使うNAとNTWを最優先すべきだ と。

 それはそうでしょう。 SM−2ブロックWAというミサイルを使う Navy Area からして、その有効射程はPAC−3とは全く比較になりません。 これは既に第1回で示したとおりですが、もう少し具体的に現すと ↓ のようになります。

Navy_Area_Cover_s.jpg

 イージス艦の位置をそのまま横須賀なり品川沖に移動して、有効射程の楕円の長軸を北朝鮮の方向に回転させてみて下さい。 どれだけの能力があるのかお解りになると思います。

 これ、既存のイージス・システムに若干の改良をすれば、あとはWAというミサイル弾を積むだけで、全てのイージス艦が、艦・装備・人員をそっくりそのまま使えるんです。 イージス艦本来の能力を何等制限すること無しに。

 それどころか、PAC−3では決定的に弱点であるC4Iについては、元々が強力な能力を持っています。

 しかも、PAC−3のように厖大な手間暇がかかることは全くありません。 全世界の海洋に前方展開している艦隊から、所要のところへイージス艦を “自分で少し移動” させればよいだけです。

 加えて、イージス艦そのものが多目的・多用途であり、自分で洋上機動し、自己防禦能力があり、後方・補給関係の基地機能は自ら保有、という “軍艦” の特性をそのまま持っていることは言うまでもありません。

 パトリオット部隊などは自立出来ない上に、早い話が “防空” しか使い道がないんですから。
posted by 桜と錨 at 13:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月09日

PAC−3では23区は守れません(4)

 そのPAC−3ですが、皆さんよくご存じのように、システムとしての構成は基本的に元々の対空ミサイルの時と同じです。

 即ち、最小限の1射撃単位(FU、Fire Unit)は、数基の発射機(LS、Launching Station)とレーダー装置(RS、Radar Set)、射撃管制装置(ECS、Engagement Control Station)、発電機が各1基などです。

 当然これだけでは何の役にも立ちません。

 まず、レーダーはフェイズド・アレイ1面だけですから、そのカバー範囲は限定されたものでしかありません。

 そして、そう、指揮管制システムがありません。 ECCというのは艦艇で言えば射撃指揮装置ですから、CIC/CDCに相当する部分が無いわけです。

 したがって、少しでもまともに機能させるためには、これら射撃単位(FU)を数個と、それらを統制するものが必要になります。

 後者については、情報調整装置(ICC、Information Coordination Central)、そして場合によっては(各FUとUHFが直接通じなければ)無線中継装置が必要になります。

 これでやっと始めて何とか“多少は”使い物になるものになる部隊・システムになりますが、1個大隊(Battalion)という大きな構成になってしまいます。

 それでもまだ指揮管制に必要な対空(空域)情報機能がありません。 これらは他のもの(例えばAWACSや本格的な上位防空組織)からの情報が必要となります。

 で、考えてみて下さい。 やっとこれだけの機能を保持するために、予備品や整備機材も含めてどれだけの機材と人員が必要なのかを。

 しかもその人員には食と住が最低限必要になりますし、部隊・個人としての日常的な品々も相当な量になります。

(当然ながら、更にこの1個大隊自身に対する展開地での防護措置・兵力や補給組織・部隊などが必要になりますが、これについては取り敢えず別にしておきます。)

 したがって、その再展開・再配置には、その都度厖大な手間暇がかかることになるのは言うまでもありません。

 一例を示しますと ↓ と言うことになります。

Patriot_Air_Deploy_s.jpg


 これだって、単に物を運び終わったというのに過ぎません。

 その航空輸送能力でさえ、危機発生・有事の猫の手も借りたい時に、たったこれだけの能力のPAC−3のためにどれだけ占有されることになるのか。

 勿体ない、もっと他の方法・手段はないの? と考えるのは別に米海軍だけではないでしょう。
posted by 桜と錨 at 18:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月08日

PAC−3では23区は守れません(3)

 まあ一国家であろうと陸・空各軍であろうと、自分を守るための手段は自分で持ちたい、これはごく自然な要求でしょう。

 では米国はMD(ミサイル防衛)についてどの様に考えているのか? それはその米国に対する脅威がどの様なものであると考えているのかを見れば解ります。

 世界中で、というより米国の同盟国・友好国以外の国々で、長距離から短距離までの少なくともいずれかの弾道弾を保有している国及びその種類は、1972年では ↓ とされていました。

BM_Prolif_1972_s.jpg

 しかしこれが2001年には ↓ の様になったとされています。(ちょっと古いですが何故2001年のものなのかは後で。)

BM_Prolif_2001_s.jpg

 これが “弾道弾の脅威の拡散” といわれるものです。

 しかしながら、これらの弾道弾の内訳をみると ↓ の様になります。 つまり、射程3000km以下の戦域弾道弾の“数”が弾道弾全体の75〜80%を占めていることが解ります。

Navy_MD_Capablty_s.jpg

 これは何を意味するか?

 米国にとっては、直接米本土に飛来するようなものは長距離(大陸間、戦略)弾道弾しか考えられません。 しかもそんなものを保有するのは極めて限定された国だけですし、もしそんなものを使うとなったらそれこそ第3次世界大戦です。

(従来の大国に加えて、最近は北朝鮮のような訳の判らない“ならず者国家”がこの能力を持とうとしているから、米国が躍起になっているんですが。)

 加えて、射程3000kmを越える戦略弾道弾は飛翔経路のほとんどが大気圏外であり、かつ弾頭の突入速度がそれ以下の射程の戦域弾道弾に比べて格段に速くなることは、それに対する技術的対処が非常に難しいことになりますから、弾道弾そのものを直接阻止するMD方策は後回しになります。

 それより、米国が超大国としての発言力を維持し、諸外国に軍事的コミットメントをするためには、先ず短距離弾道弾の脅威にさらされる遠征軍(海外展開部隊)の防禦が最優先になります。 そして、技術的にはこちらの方が容易です。

 ですから、既存のものの改良であろうが新規開発であろうが、こちらの方、即ちそれらを大気圏内で迎撃するシステムの配備が最優先となるのは自然の成り行きです。

 例えPAC−3の様な極めて有効射程の短いものであろうとも。
posted by 桜と錨 at 17:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月07日

PAC−3では23区は守れません(2)

 ついでですので、もう少し。

 そもそもPAC−3とは何のためのシステムなのか?

 これも米軍の公表資料 ↓ で示されているとおり、米軍が遠征先(国外展開先)で自軍を防禦するためのものです。

PAC-3_Msn_s.jpg


( まあパトリオット・システムそのものが元々陸上部隊の防空用ですから、当たり前と言えば当たり前ですが。)


 つまり、アメリカ本土でこんなものを使うつもりなど毛頭ありませんし、展開先においてさえ自軍が守れれば良いのであって、その外周にある展開国の人口密集地などは全くの考慮外です。

 そもそも先に示したとおりPACー3にはそんな能力はありませんから。

 早い話が、艦艇の対艦ミサイル防禦でいう “CIWS” みたいなものです。

 従って、部隊が移動したり、予想脅威方向が変化した時などには、常にそれに応じて最も効果が得られるようにその都度再展開・再配置し直さなければなりません。

 ですから車載の移動型になっている。 当たり前のことなんです。
posted by 桜と錨 at 15:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月06日

PAC−3では23区は守れません

 まあ、解っていないというか、何というか。

 PAC−3を朝霞に置こうと日比谷公園に置こうと、このシステムではとてもではありませんが東京23区全部を守ることは出来ません。

 公表されているだけでも ↓ 程度の有効射程しかないんです。

PAC-3_Engmnt_s.jpg

 しかもこの図は弾道弾が発射機の方位に向かって飛んで来る最良の場合を示しているのであって、横方向のクロスレンジがある場合にはもっと小さくなることはお解りですか?

 そしてこれ、朝霞に置いたら後ろの千代田区は到底守れないことも解っておられますか?

 移動式がどうのこうの言う前に、もう少しよくお勉強をして欲しいものと思いますねぇ。
posted by 桜と錨 at 00:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと