2010年08月15日

米海兵隊の大改革の必要性?

 どうもマスコミの記者には理解できないものの一つに 「海兵隊」 というものがあるようです。

 昨日の朝日新聞のニュースに次のような記事がありました。


 ネットから落ちてしまうといけませんので、全文をここに引用させていただきます。

(当該記事全文引用ここから)
----------------------------------------------------

 【ワシントン=村山祐介】ゲーツ米国防長官は12日、サンフランシスコで講演し、高性能対艦ミサイルの普及や海兵隊の運用の実態を踏まえ、海兵隊のあり方を抜本的に見直すようメイバス海軍長官らに指示したことを明らかにした。在沖縄海兵隊の将来像にも影響する可能性がある。

 海兵隊は陸海空軍と並ぶ4軍の一つで、主に最前線で海などから上陸し、後から来る陸軍部隊などのために拠点を築く部隊。ゲーツ長官は、対艦ミサイルの長距離化や高精度化が進んだことで、海兵隊は「100キロ以上離れた艦船から上陸する必要があるかもしれない」と状況の変化を指摘。近年はイラクやアフガニスタンなど内陸部での長期駐留が増えたことで陸軍との違いが薄れたり、部隊の肥大化が進んだりしていることにも触れ、「今後数年、数十年の脅威に備えるために改革する必要がある」と強調した。

 改革案は、コンウェイ海兵隊総司令官の後任として指名されているアモス副司令官を中心にまとめる。ゲーツ長官は改革の方向性について、「海兵隊特有の上陸能力は今後も必要になる」と説明。陸海空軍と重なる任務を整理する一方、最新兵器への対応や暴動・テロなど多様化する脅威への即応能力を強化するものとみられる。

 海兵隊は約20万人規模で、日本には約1万7千人が駐留する。在日米軍再編で司令部中心に隊員約8千人とその家族がグアムに移転することになっている。

----------------------------------------------------
(引用ここまで)

 私に言わせれば “何を今さら” です。

 このゲーツ長官の講演内容は、長官がやっと海兵隊というものを理解し、現状の誤った運用の方向から海兵隊の本来のあり方に戻すべきだ、と発言したと解釈すべきものなのです。

 そして米陸軍の余りにもその頼りなさの故に、イラクでもアフガンでも本来任務ではないことに “使わざるを得ない” 現状を、そして米海兵隊がその特徴と能力の故に “便利屋” としてこき使われている現状を嘆いたと言うべきです。

 対艦ミサイル云々、などと言っていますが、揚陸侵攻部隊にとって経空脅威の存在などは元から周知のことであって、それに対する措置が考えられていないはずが無いでしょう。

 実際に、そのようなことは米海軍・海兵隊において既に10年も前から 「STOM (Ship to Object Maneuver)」 と 「OMFTS (Operational Maneuver from the Sea)」 という2つの新しいコンセプトを中核とする Transformation を実施中です。

USMarine_01_s.jpg

USMarine_02_s.jpg

 そしてその実現の一部が、ハードとしてはAAAVであったりオスプレイなどであり、またソフトとしては 「SPMAGFT (Special Purpose Marine Air Ground Task Force)」 であり、「ESF (Expeditionary Strike Force)」 構想なのです。

USMarine_04_s.jpg

USMarine_03_s.jpg

 ここで何故 「米海軍・海兵隊」 と言ったかと言いますと、米海兵隊というものが米海軍の一部であって、その両方を併せて 「Naval Forces」 あるいは「Naval Services」と称するからで、その実態については海軍の作戦の中で考えるべきものだからです。

 これは、米海兵隊のトップである海兵隊総監の最も重要な役割と責任が、教育訓練と装備の整った実戦部隊である 「艦隊海兵隊 (Fleet Marines) 」 を米海軍のトップである海軍作戦部長に提供することであることを考えれば明らかでしょう。

 そして上記の Transformation も、米海軍の新しいコンセプト 「Naval Power 21」 の一部として実現しようとしているものなのです。

 これらのこと、そして米海軍・海兵隊が世界中で発生する危機に対してどの様に対応するのか、が判らないければ、米海兵隊のことは理解できません。

 だから沖縄のこともトンチンカンな報道となるのです。

---------------------------------------------------------

(注) : 本項で引用した画像は全て米軍の公式史料より。
posted by 桜と錨 at 16:57| Comment(2) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月23日

PAC−3では23区は守れません(9・完)

 最後に、では日本のTMDはどうなんだ? 上手くいくのか? ということになります。

 日本は米軍の事情とは全く異なり、純粋に “本土防衛” です。 どうすればその本土防衛という目的でTMDができるのか?

 その為には可能な限り “日本全土をカバーできる” 態勢が必要です。 そしてこれはイージス艦の大気圏外防禦 (Navy Theater Wide) と大気圏内防禦 (Navy Area) の縦深防禦によって可能となってきます。

(まあ、空自のPAC−3は、それでも撃ち洩らした場合の、皇居や国会議事堂などの拠点を守るための最終用と考えればよいでしょうし、第一、それしか使い道がありません。 そんなものが “本土防衛” と呼べるかどうかは別として。)

 しかし、この能力を上手く機能させるにはどうやったら良いのでしょうか?

 現在防衛省・自衛隊が考えているTMD構想は簡単な図にすると ↓ のとおりであるとされています。

Japan_TMD_1_s.jpg
( 防衛省広報資料より )

 考えてみて下さい。 こんなもの本当に有効に機能すると思いますか?

 空自の航空総隊司令官が指揮官? ことTMDに関して、“目”も“耳”も“手”も“足”も満足に持っていない人が?

 空自のバッジシステムなど、一体何時になったらイージスに並ぶ弾道弾の監視・探知・追尾能力を持つのか。 いま開発中の国産のシステムなどでも、恐らく無理かとの懸念も強いのです。

(それに、空自はその能力も、組織も、体質も、思考方法も、 “陸軍防空戦闘機隊” 以外の何ものでもありません。)

 日本海にイージス艦を2〜3隻配備し、これらとAWACSを直接(バッジ抜きで)リンクで繋げば、今及び近い将来でもバッジシステムより余程能力が高いのです。

 空自戦闘機の要撃管制でさえ、恐らくイージス艦の方が能力が高いでしょう。 (未だに空自はイージス艦にこれを実施させるテストさえしていません。 要撃管制こそは空自だけの特権であり、空自総隊司令官の存在理由だ、という(へ)理屈から。)

 そのリンクを主体とする通信。 空自のバッジシステムは基本的にその中だけでクローズするように作られています。

 したがって、これにイージス艦 (米艦も含めて) をリンクで繋ぐと、イージス艦が手足を縛られた格好になりその能力を封じられてしまいます。 十分に能力の発揮できない、極めておかしな通信システムしか持っていません。

 米海軍艦艇 (とその上級司令部) と海自艦艇 (とその上級司令部) とはリンクで繋がっている方が十分にその能力を発揮できます。 それどころか、何れかの海自艦艇又は米海軍艦艇がバッジシステムとリンクを結ぶと、その艦艇は本来の艦艇間のリンク・ネットに入れない (=構成できない) のです。

 しかも、この米海軍・海自のリンク内に入って来れるように空自のバッジシステムは出来ていません。 即ち、空自のバッジシステムは米海軍や海自のリンク・ネットと情報の共有をする機能・能力が無いのです。

(もしかして LINK-11 だけではなく LINK-16 があるではないか? と言う方もおられるかもしれません。 しかしこの LINK-16、如何に使いづらい、制約・制限の多いシステムであるかご存じでしょうか?)

 そして何よりも “手” も “足” もありません。 PAC−3 しか無いのですから。

 ハッキリ断言します。 日本を弾道弾から守れるシステムを持っているのは、米海軍と海自であって、在日米空軍も、そして勿論空自も “無い” んです。

 これで空自総隊司令官がTMDで日本防衛を指揮する? 冗談でしょう。

 空自が日本本土防空と言う任務を持つから? 前路続航だから? 縄張り、プライド、既得権だから? そんな名目や肩書きなど何の役にも立ちません。 少々汚い言葉で言えば “屁の突っ張りにもならない” ですね。 実際の実力・能力が何も伴っていないのですから。

 では誰がやれば良いのか? これは実にハッキリしています。 目も耳も手も足も十分に備えている海自の 「自衛艦隊司令官」 です。

 米海軍 (=米軍) の態度はハッキリしています。 例えばこうやって ↓ やるんです。

Japan_Air_Def_s.jpg


 これらの全てがリアルタイムのリンクで繋がっています。

 必要があれば、海自のイージス艦も普通の対空警戒から、瞬時にして米艦のようなTMD併用へ切り替えることも可能です。 縦深防禦態勢として。

(もう一度言いますが、空自のバッジシステムは物理的にこの中に入って来れないんです。 そういうシステムなんです。)

 そしてこれの米側指揮官であり、実際にそのTMD兵力を持っている第7艦隊司令官と、通信が直接繋がっており、情報を共有でき、能力・兵力の相互補完ができる。 これは海自の自衛艦隊司令官しかいません。

 こう言うと必ず質問する人がいます。 米軍が日本を守ってくれるという保証はあるのか? と。

 あります。 在日米軍がいる限り、そして米大使館や企業が存在し、多数の米国市民がいる限り。

 例え米国の領域外であろうとも、それらを守ることが米国の国家安全保障のトップに位置するからでり、その為には米国はその軍事力を行使することに何の躊躇もしないからです。

 そして、それらを守るためのカバー・エリア内に日本全土が含まれる限り。 それが結果的に “間接的な防禦” であるとしても。

(この項終わり)

posted by 桜と錨 at 13:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月22日

PAC−3では23区は守れません(8)

 それでは、日本の場合に戻ってみましょう。

 海自のイージス艦が持とうとしている、いえ既に持ちつつあるものは、この大気圏内防禦(Navy Area)システムなんでしょうか? それとも大気圏外防禦(Navy Theater Wide)システムなんでしょうか?

 そう、後者のNTWなんです。 何故、前者は選択しなかったのでしょう?

 実は、簡単で、海自が実に上手く立ち振る舞った結果なんです。

 つまり、NAの能力は、米海軍は全てのイージス艦が持つことになります。 それに対してNTWは、米海軍でも特定のイージス艦のみ改造されてその能力を持つことになっています。

 当初、米海軍では4隻のみがこれに改造されることになっていました。 勿論、NTWの成功により、現在はもっと隻数が増えましたが。

 ということはどういうことになるのでしょうか?

 ご存じのとおり、海自のイージス・システムは “ブラックボックス”、即ちその維持管理の全てを米海軍に任せる方式を採っています。

 したがって、米海軍の全イージス艦がNAの能力を持つと言うことは、海自イージス艦と同時期の米海軍のイージス艦がNAの能力を有するようにシステムが更新されると、海自のイージス艦も “自動的に” この能力を持つことになります。

 つまり、国会でわざわざ “イージス艦をTMD用に改造する” と言わなくても、黙っていても通常の米海軍による維持管理の中でこのNAの能力を持つのです。 PAC−3など問題にさえならない能力を。

 後はまだ海自が持っていない SM−2 Block WA というミサイル弾だけを購入すればいいのです。 しかもこの弾は通常の対空用にも全く同じように使えますから、SM−2ミサイル弾の補充名目でも買うことは可能でしょう。

 これに対してNTWの方は、イージス艦を“改造する” と言って防衛予算を新規に取らなければなりませんし、米海軍に対して “特別に改造してくれ” と注文を出さなければならないのです。

 ですから、空自がまだ開発中のTHAADでなはしに、既に実戦化に進みつつあるPAC−3を選択したのに対し、海自は当時まだ開発中だったNTWを選択しました。 これがTMDについての防衛庁(当時)の防衛政策として決定されたのです。

 海自は行く行くは全てのイージス艦をこのNTWに改造することにしています。 即ち、全艦がNTWとNAの両方の能力を有することになります。

 これは凄いことです。

 もう一度その能力を見てみましょう ↓ この両方の能力を全イージス艦が保有するのです。

Navy_TMD_s.jpg

 それに対して空自は、既に示してきたように、TMDではせいぜい拠点防禦にしか役に立たないPAC−3 “しか” この先当分は持たないのです。

 海上自衛隊は実に上手くやっていると思いませんか?

posted by 桜と錨 at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月18日

PAC−3では23区は守れません(7)

 先の2001年の段階でこの状況を見通せた米海軍が、いかにイライラしたかがお解りいただけたと思います。

 そこで業を煮やした当時の米海軍作戦部長(CNO)と米海兵隊総監(CMC)は、連名で統合幕僚会議議長(CJCS)に意見書 ↓ を出したんです。

CNO_Endors_s.jpg

 要は、海外への展開・遠征とならざるを得ない米軍にとってのミサイル防衛は、能力が低い上に手間暇がかかるPAC−3や訳のわからないTHAADなどは放っておいて、それらよりは遙かに能力が高くかつ既に実用化の目処が立っているNAとNTWでいいじゃないか、ということです。

 実に的を得た正論であったわけです。

 ところが、これに対するCJCSの返答 ↓ は予想通りというか、実に政治的・官僚的なものでした。

CJCS_res_s.jpg

 形式的にはNAとNTWの能力を認めたものの、可及的速やかに陸上と海上の両方の大気圏内防御(Lower Tier)システムが必要としたのです。

 縦深防御といえば聞こえはいいですが、早い話が“縄張り”“既得権”を認めたと言うことです。

 がしかし、これは言い換えれば、いかに今後の兵力再編の中で、米陸軍が海軍・海兵隊に比較して兵力削減の危機感を抱いているか、の現れでもあります。

(その危機感の元は、冷戦終結後の今日、生起予想脅威に対する米国の必要軍事力の見積もりで、海軍・海兵隊(= 通常両者を合わせて「Naval Forces」と言います。)に対して、陸軍という元々の本質がいかに、即応性、柔軟性、多用途・多機能性、自立性、機動性と言った現代戦遂行上必須な点に欠けるかと言うことなんですが。 まっ、これの詳細については別の機会に。)
posted by 桜と錨 at 13:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月11日

PAC−3では23区は守れません(6)

 先のNA(Navy Area)システムは、あっさりと開発できてしまいまして、2003年には仮配備、2004年からは本格的な実戦配備が始まりました。

 この能力は新造艦のみならず、就役済みのものも順次改造されて全イージス艦が保有することになります。

( このため、改造だけでは済まない古い機器で構成されるシステムを保有するイージス艦は、早期退役に追い込まれています。 例えばイージス艦の代名詞的な1番艦である有名な「タイコンデロガ」など初期のものです。)

 そして、米海軍は次の大気圏外防禦システム(Upper Tier)であるNTW(Navy Theater Wide)の本格的な開発に移行しました。

 しかし、これもその第1段階のものは予想を遙かに超えて早く出来上がってしまい、2005年には実験艦がそのまま仮配備、2006年には本格的な実戦配備が始まってしまいました。

 もちろん、性能・能力向上のための改善・改良が第2段階及びそれ以降のものとして今も続いています。

 これを裏返すと、イージス・システムというのは現有能力のみならず、その潜在能力もそれぐらい高い、極めて優れたものであるということです。

 このNTWの有効迎撃範囲がどれくらいか、というと ↓ のとおりです。

Navy_thaterwide_Cover_s.jpg

 ここで注意していただきたいのは、ここで示す有効範囲は、図の位置のイージス艦が北朝鮮が発射した弾道弾を “この中で迎撃できる” (SM−3が命中する) というのではありません。

 この範囲内に落下(弾着)するように北朝鮮から飛翔して来るものを “途中の大気圏外で” 迎撃することができる、という意味ですのでお間違えのないように。

 SM−3を使用するイージス・システムによるNTWの有効範囲が如何に広いものかがお解りいただけると思います。
posted by 桜と錨 at 17:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月10日

PAC−3では23区は守れません(5)

 そこで、第3回の話しで出てきた 2001年 というのに戻ってみます。

 あの公表資料が作られた2001年の時点で、米軍が考えていた対弾道弾の防御手段は ↓ の5つでした。

US_MD_System_s.jpg

 この内、大気圏内防禦(Lower Tier)のPAC−3とNA(Navy Area)は、既存のものの応用と言うことで、初期段階の実用化直前というところに来ていました。

 そして次の段階の大気圏外防禦(Upper Tier)でも、米海軍はNTW(Navy Theater Wide)については早期実用化の目算が立っていました。

 それは当然でしょう。 イージス・システムを改良して使うんですから。

 それに対して、新規開発である米陸軍のTHAADの方はもう10年以上かかっているにも関わらず全く目途がたたない状況でした。(20年近く経った未だにダメですが。)

 で、米海軍・海兵隊は業を煮やした んです。

 能力が大してない上に厖大な手間暇のかかるPAC−3や、まともに使い物になるかどうかさえ解らないTHAADなどは後回しにして、海軍のイージスを使うNAとNTWを最優先すべきだ と。

 それはそうでしょう。 SM−2ブロックWAというミサイルを使う Navy Area からして、その有効射程はPAC−3とは全く比較になりません。 これは既に第1回で示したとおりですが、もう少し具体的に現すと ↓ のようになります。

Navy_Area_Cover_s.jpg

 イージス艦の位置をそのまま横須賀なり品川沖に移動して、有効射程の楕円の長軸を北朝鮮の方向に回転させてみて下さい。 どれだけの能力があるのかお解りになると思います。

 これ、既存のイージス・システムに若干の改良をすれば、あとはWAというミサイル弾を積むだけで、全てのイージス艦が、艦・装備・人員をそっくりそのまま使えるんです。 イージス艦本来の能力を何等制限すること無しに。

 それどころか、PAC−3では決定的に弱点であるC4Iについては、元々が強力な能力を持っています。

 しかも、PAC−3のように厖大な手間暇がかかることは全くありません。 全世界の海洋に前方展開している艦隊から、所要のところへイージス艦を “自分で少し移動” させればよいだけです。

 加えて、イージス艦そのものが多目的・多用途であり、自分で洋上機動し、自己防禦能力があり、後方・補給関係の基地機能は自ら保有、という “軍艦” の特性をそのまま持っていることは言うまでもありません。

 パトリオット部隊などは自立出来ない上に、早い話が “防空” しか使い道がないんですから。
posted by 桜と錨 at 13:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月09日

PAC−3では23区は守れません(4)

 そのPAC−3ですが、皆さんよくご存じのように、システムとしての構成は基本的に元々の対空ミサイルの時と同じです。

 即ち、最小限の1射撃単位(FU、Fire Unit)は、数基の発射機(LS、Launching Station)とレーダー装置(RS、Radar Set)、射撃管制装置(ECS、Engagement Control Station)、発電機が各1基などです。

 当然これだけでは何の役にも立ちません。

 まず、レーダーはフェイズド・アレイ1面だけですから、そのカバー範囲は限定されたものでしかありません。

 そして、そう、指揮管制システムがありません。 ECCというのは艦艇で言えば射撃指揮装置ですから、CIC/CDCに相当する部分が無いわけです。

 したがって、少しでもまともに機能させるためには、これら射撃単位(FU)を数個と、それらを統制するものが必要になります。

 後者については、情報調整装置(ICC、Information Coordination Central)、そして場合によっては(各FUとUHFが直接通じなければ)無線中継装置が必要になります。

 これでやっと始めて何とか“多少は”使い物になるものになる部隊・システムになりますが、1個大隊(Battalion)という大きな構成になってしまいます。

 それでもまだ指揮管制に必要な対空(空域)情報機能がありません。 これらは他のもの(例えばAWACSや本格的な上位防空組織)からの情報が必要となります。

 で、考えてみて下さい。 やっとこれだけの機能を保持するために、予備品や整備機材も含めてどれだけの機材と人員が必要なのかを。

 しかもその人員には食と住が最低限必要になりますし、部隊・個人としての日常的な品々も相当な量になります。

(当然ながら、更にこの1個大隊自身に対する展開地での防護措置・兵力や補給組織・部隊などが必要になりますが、これについては取り敢えず別にしておきます。)

 したがって、その再展開・再配置には、その都度厖大な手間暇がかかることになるのは言うまでもありません。

 一例を示しますと ↓ と言うことになります。

Patriot_Air_Deploy_s.jpg


 これだって、単に物を運び終わったというのに過ぎません。

 その航空輸送能力でさえ、危機発生・有事の猫の手も借りたい時に、たったこれだけの能力のPAC−3のためにどれだけ占有されることになるのか。

 勿体ない、もっと他の方法・手段はないの? と考えるのは別に米海軍だけではないでしょう。
posted by 桜と錨 at 18:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月08日

PAC−3では23区は守れません(3)

 まあ一国家であろうと陸・空各軍であろうと、自分を守るための手段は自分で持ちたい、これはごく自然な要求でしょう。

 では米国はMD(ミサイル防衛)についてどの様に考えているのか? それはその米国に対する脅威がどの様なものであると考えているのかを見れば解ります。

 世界中で、というより米国の同盟国・友好国以外の国々で、長距離から短距離までの少なくともいずれかの弾道弾を保有している国及びその種類は、1972年では ↓ とされていました。

BM_Prolif_1972_s.jpg

 しかしこれが2001年には ↓ の様になったとされています。(ちょっと古いですが何故2001年のものなのかは後で。)

BM_Prolif_2001_s.jpg

 これが “弾道弾の脅威の拡散” といわれるものです。

 しかしながら、これらの弾道弾の内訳をみると ↓ の様になります。 つまり、射程3000km以下の戦域弾道弾の“数”が弾道弾全体の75〜80%を占めていることが解ります。

Navy_MD_Capablty_s.jpg

 これは何を意味するか?

 米国にとっては、直接米本土に飛来するようなものは長距離(大陸間、戦略)弾道弾しか考えられません。 しかもそんなものを保有するのは極めて限定された国だけですし、もしそんなものを使うとなったらそれこそ第3次世界大戦です。

(従来の大国に加えて、最近は北朝鮮のような訳の判らない“ならず者国家”がこの能力を持とうとしているから、米国が躍起になっているんですが。)

 加えて、射程3000kmを越える戦略弾道弾は飛翔経路のほとんどが大気圏外であり、かつ弾頭の突入速度がそれ以下の射程の戦域弾道弾に比べて格段に速くなることは、それに対する技術的対処が非常に難しいことになりますから、弾道弾そのものを直接阻止するMD方策は後回しになります。

 それより、米国が超大国としての発言力を維持し、諸外国に軍事的コミットメントをするためには、先ず短距離弾道弾の脅威にさらされる遠征軍(海外展開部隊)の防禦が最優先になります。 そして、技術的にはこちらの方が容易です。

 ですから、既存のものの改良であろうが新規開発であろうが、こちらの方、即ちそれらを大気圏内で迎撃するシステムの配備が最優先となるのは自然の成り行きです。

 例えPAC−3の様な極めて有効射程の短いものであろうとも。
posted by 桜と錨 at 17:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月07日

PAC−3では23区は守れません(2)

 ついでですので、もう少し。

 そもそもPAC−3とは何のためのシステムなのか?

 これも米軍の公表資料 ↓ で示されているとおり、米軍が遠征先(国外展開先)で自軍を防禦するためのものです。

PAC-3_Msn_s.jpg


( まあパトリオット・システムそのものが元々陸上部隊の防空用ですから、当たり前と言えば当たり前ですが。)


 つまり、アメリカ本土でこんなものを使うつもりなど毛頭ありませんし、展開先においてさえ自軍が守れれば良いのであって、その外周にある展開国の人口密集地などは全くの考慮外です。

 そもそも先に示したとおりPACー3にはそんな能力はありませんから。

 早い話が、艦艇の対艦ミサイル防禦でいう “CIWS” みたいなものです。

 従って、部隊が移動したり、予想脅威方向が変化した時などには、常にそれに応じて最も効果が得られるようにその都度再展開・再配置し直さなければなりません。

 ですから車載の移動型になっている。 当たり前のことなんです。
posted by 桜と錨 at 15:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2009年03月06日

PAC−3では23区は守れません

 まあ、解っていないというか、何というか。

 PAC−3を朝霞に置こうと日比谷公園に置こうと、このシステムではとてもではありませんが東京23区全部を守ることは出来ません。

 公表されているだけでも ↓ 程度の有効射程しかないんです。

PAC-3_Engmnt_s.jpg

 しかもこの図は弾道弾が発射機の方位に向かって飛んで来る最良の場合を示しているのであって、横方向のクロスレンジがある場合にはもっと小さくなることはお解りですか?

 そしてこれ、朝霞に置いたら後ろの千代田区は到底守れないことも解っておられますか?

 移動式がどうのこうの言う前に、もう少しよくお勉強をして欲しいものと思いますねぇ。
posted by 桜と錨 at 00:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと