2016年12月26日

朝雲新聞 (2)


朝雲新聞の12月22日号が届きました。

「世界の新兵器」 コーナーでは私が担当する艦艇編の2回目として、今回はアルジェリア海軍の MEKO A-200AN 「エルラディ」 級を採り上げました。

Asagumo_Shinbun_h281222.jpg

( 文字が小さくて内容は読めないかもしれませんが ・・・・ 自衛隊及びミリタリー関係に興味のある方は是非定期購読を )

お馴染みドイツの MEKO シリーズの最新型で、満載排水量 3,700トンの船体に斬新なアイデアと多彩な兵器を盛り込んだ大変有力なフリゲートで、しかも建造費約500億円というものです。

日本の護衛艦の調達・建造形態からみると驚くべきものですね。


さて、次回は何にしましょうか。

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2016年12月05日

シースパロー用射撃指揮装置 Mk91


ネットネタからです。 次の様なことが話題になっていました。

シースパロー艦対空ミサイル用のMk95イルミネーターには、2基のアンテナが横並びに配置されていまが、これを用いる目的は?

これですね。

Dir_Mk95_NSSMS_photo_02_s.jpg
( 注 : 左 (向かって右) が送信用、右 (向かって左) が受信用のアンテナ )

Dir_Mk95_NSSMS_sche_01_s.jpg

NSSMS (Nato Sea Sparrow Missile System) の射撃指揮装置 (MFCS、Missile Fire Control System) Mk91には、Mk95というミサイル用方位盤 (Missile Director) が用いられています。

通常のセミ・アクティブ方式のミサイル・システムでは目標追尾用のレーダーと、ミサイルを目標に誘導するための誘導波 (イルミネーター) との2種を使用しています。

発射されたミサイルはこの誘導波の目標からの反射波を受信してその方向に向かうようになっており、通常は連続波 (CW、Continuous Wave) が使われます。 シースパロー・ミサイルの元の空対空用のスパローも同じです。

このスパローを艦載用にしたのがシースパローですが、射程そのものが短い近接防御用ですので、その射撃指揮装置もターターやテリアなどのように大がかりなものにすることはできません。

このためこの誘導用のものを目標の追尾にも使うことにしました。 これが BPDSMS (Basic Point Defense Missile System) の射撃指揮装置Mk−116で、その方位盤がMk76です。

Dir_Mk76_BPDMS_01_2.jpg

このMk76の架台は元々が40ミリ機銃や3インチ砲用の射撃指揮装置であったMk63のものを流用しています。

そしてこれに送信用 (左) と受信用 (右) のアンテナを、そしてその中間上部に光学照準器を装備しました。 これにより元のMK63と同じように人力操作で目標を捜索し追尾するようになっています。

このMk76を自動操縦にしたものが NSSMS の米海軍バージョンのMk95です。

送信・受信用アンテナの中間上部にあるのはMk76の光学照準器に換わる LLLTV (Low Light Level TV)、つまり高感度テレビカメラで、FCS操作員がコンソールでこれの映像を見ながら目標の捜索・確認と追尾補助に使うことができます。


では、このCW波でどうやって目標の位置、特に距離を測るのでしょうか?

通常のパルス・レーダーでは、パルスを発信してから目標に反射して戻ってくるまでの時間を計測して距離を算出します。

そして1つのアンテナを使い、パルスを送信する時以外は受信モードにすることによりこれを行っています。

したがって電波が出っぱなしになるCWレーダーの場合は、必然的に送信アンテナとは別に受信アンテナの2つが必要になります。

また、当然ながら連続波では発信から受信までの時間差が測れませんので、これで目標の追尾を行うためにパルスに換わって連続波にFM変調をかけることにより、この周波数が変わるところを測って距離を出すのです。


実はこのMK95を使用した 米海軍の NSSMSですが、TAS Mk23と組み合わせた IPDMS (Improved PDMS)として、大変に素晴らしい近接防禦システムを構築しています。

もう40年近く前にそのプロトタイプを見る機会がありましたが、その時既にNTDSや三次元レーダーMK48C (受信データをディジタル化して目標の自動探知自動追尾機能を付加したもの) と組み合わせた改良型とすることが決まっておりました。

NSSMS_Report_Cover_s.jpg
(後に後輩への啓蒙活動のために纏めたもの)


ハッキリ申し上げて、ハードウェアはともかくとしてソフトウエアにおいて、そのプロトタイプ当時でも現在の海自の短SAMシステムより思想的に進んでいると思います。
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2016年09月25日

艦内電話装置配置図


本家サイトの50万名ご来訪感謝記念企画の第4弾のコンテンツを作らなければならないところですが、ちょっと変なものに捕まってしまいまして延期させていただきます。

その変なものとは 「あさかぜ」 就役時の 『艦内電話装置配置図』 です。

Asakaze_Intcomm_cover_01_s.jpg

昔コピーしておいたものをディジタル化しようとしたのですが、コピーの写りが大変に悪いため、ゴミ取りなどの加工とよく見えないところを何とかと作業を始めましたが、これが大変に手間暇を要することがわかりました。

下図は艦橋構造物の第02甲板 (3層目) で、航海艦橋やCICがあるところですが、この図面だけでもやっとここまでです。

Asakaze_Intcomm_02deck_s.jpg

船体内の各甲板になるとちょっと完成は何時になることやら ・・・・ (^_^;

Asakaze_Intcomm_1deck_01_s.jpg
( 第2甲板 まだ未加工です )

この 『艦内電話装置配置図』 というのは、艤装工事の時に各種の艦内通信装置について “ここにこういうものを取り付けますよ” というもので、一般艤装図の上にこれを書き加えたものです。

Asakaze_Intcomm_02deck_01_s.jpg
( 上の第02甲板図の一部 航海艦橋艦長席付近 )

確か当時でも10部程度しか作られなかったと記憶していますので、その意味でも大変にめずらしく、一般の方々がご覧になったことはまず無いと思います。

この図を元に工事がなされますが、艤装員の艤装要望などにより変更されることもあります。 このため就役時の最終的なものはこの図を修正した縮小版と各通信系統ごとの一覧表が一緒になって完成図書の中に綴じられることになります。

既に退役した古い艦のものですが、艦艇の艤装時の図面の中にはこういうものも含まれていますという、取り敢えずご参考までにご紹介を。
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2016年07月24日

米海軍テキスト 『潜水艦戦』


月刊誌 『世界の艦船』 の8月号から、私の朋友の一人、同期の小林正男氏の手になる 『現代の潜水艦』 と題する連載が始まりました。

cover_SoW_No842.jpg


小林氏は潜水艦隊司令官まで務めあげた潜水艦のプロですので、まさに打って付けのテーマと言えます。

私も早速8月号の記事を拝見しましたが、大変に面白く、続きが楽しみな内容となっています。


・・・・ そこで、今回のこの連載と勝手にコラボしてこんな資料を公開することにしました (^_^)

cover_Sub-Warfare_usnwc_s.jpg


1959年の米海軍大学校の通信教育用テキストを邦訳したものです。 もちろん、米海軍らしく本資料には秘密に関わるものは全く含まれておりませんで、それらはまた別になっておりますので、この邦訳版も秘密文書でも何でもありません。

60年頃というと、米海軍でもまだ改良が施された 「ガピー」 級などの在来型が現役として艦隊に残っており、丁度在来型から原潜への移行期でした。

したがって、現在のような潜水艦の運用法などは確立しておらず、ある意味まだまだ原潜についての試行錯誤の段階でもあったと言えます。

現代の潜水艦については小林氏がこれから詳しく解説してくれると思いますし、その一方で大戦中の在来型潜水艦については戦史など色々なものが出ておりますので、本資料は丁度その中間を解説するものになります。 小林氏の連載の 「前章」 として お読みいただければと思います。

また、巻末に付録として 潜水艦についての基礎的な用語解説集 が掲載されており、これなどは初心者の方々には便利なものでしょう。

ただ、本資料の第5章 「気象と海象の影響」 の本文2頁が欠落、というか白紙になっております。 私のコピーでは頁は連続しておりますので、おそらくこの邦訳版の製本ミスではないかと思います。

ちょっと残念ですが、今となってはこの邦訳版もどこにどれだけ残っているものかと ・・・・ ?


で、取り敢えず本資料だけを単独で公開しますが、これに関連して現在新しいコーナーを考えているところです。

私の本来の専門である 『現代戦』 についてですが ・・・・ 本家サイトの中の一つとして作るか、別室的に分けるか、あるいは全く新しいサイトとするか、などなどでちょっと悩んでおりまして、まだ決めかねています。

もちろん、この新しいコーナーでは、こういう資料などの公開も順次行っていきたいですね。
posted by 桜と錨 at 14:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2016年06月12日

艦内配置図2つ


今週の本家サイトの更新はお休みですが、数日前にご来訪49万名を越えましたのでこれでは少し淋しいので、その代わりと言ってはなんですがかつて海自唯一の給油艦だった 「はまな」 と既に退役したミサイル艇 「1号」 の艦内配置図を公開いたします。

画像をクリックしていただければ、PDF版で大きなものを表示いたします。

AO-411_Inner_01.jpg

PG-821_Inner_01.jpg

艦内配置図は一般艤装図などとは使用目的が違いますので形状そのものはそれほど精確なものではありませんが、艦内がどのような区画に別れているのかがお判りいただけると思います。

別に秘密のものではありませんがやはりそれはそこ、現役艦では艦内保全上のこともありますので、退役艦については他のものも機会を見つけて公開していきたいと思います。


なお本家サイトは次の50万名で大台に乗りますので、その時のご来訪感謝企画は少し大きなものをと考えております。

posted by 桜と錨 at 17:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと

2016年05月25日

戦後艦艇の戦闘システム


先日 『世界の艦船』 6月号特集の 『現代の艦隊防空』 記事の所感で “各ハードウェーアの内容について少々物足りない” と書きました。

もちろん、特集そのものが非常に広汎なものであり、かつ月刊誌として他の記事との関係も併せると、紙幅的にこの要求には無理があることは承知の上です。

それはそれで致し方ないことであり、また当該誌で採り上げられたそれぞれの記事も限られた紙幅の中で良く纏められたものであると思います。

しかしながら、これらのハードウェーアの詳細について書かれたものはあまり見当たらないのもまた事実です。

本誌についても、例えば艦載対空ミサイルについてはかつて岩狭源晴氏が24回にわたり連載 (通刊47号〜98号) された 『艦載用対空誘導弾について』 などは一般読者向けとして秀逸の記事であったと思っていますが、その後の続きの話しについては、残念ながらこの連載に匹敵するものは他の執筆者からもいまだに出てきていないといって過言ではないでしょう。

また、本誌の性格からしてあくまでも 「艦船」 が主体であって、例え連載の形を採ったとしても、搭載武器などについて多くの紙幅を割くことには色々な制約があるかもしれません。


で、ではそれならば、と言うことで、本ブログとしてこの戦後艦艇の戦闘システムについてもう少しその詳細を紹介していくのも一つのテーマになるかと。

当然ながら、個々のハードウェーアといっても、それに関係する他のシステムやその運用法、そして戦術思想などの変遷も含めなければ、個々及び全体の意味・意義は見えてこないでしょう。

いつ、どれだけのものを紹介できることになるのか判りませんが、それこそ “気ままに” UPしていければと。

・・・・ こういう ↓ 古い資料をディジタル化しながら、ふと考えた今日この頃 (^_^)

DDG-2_JPTDS_ss.jpg


因みにこのブロック・ダイアグラムにある DDG−TDS (JPTDS) ってご存じでしょうか?

かつて米海軍が初めてミサイル駆逐艦として建造した 「DDG-2 Charls F. Adams」 型のシステムが古くなってきた時、その近代化の一つとしてそれまでのミサイル指揮システム 「WDS」 の換装用として新たに開発したものです。

実はこれ、海上自衛隊が 「あまつかぜ」 の後継艦として建造した 「たちかぜ」 型に 「WES」 という初のディジタル・コンピューターを使った武器指揮システムを導入しましたが、逆に米海軍がこのアイデアを元にして、これにNTDSの機能も含めた形に纏め上げたものなんです。

対空ミサイルについても、それだけでは意味はないのであって、個艦として、部隊としてこういうシステムと組み合わされて初めてその機能・能力が十分かつ有効に発揮できることになります。

こういう話しも含めて紹介していければと思っていますが ・・・・

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2016年05月09日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (10・終)


弾道の誤差 (承前)

(3) 速力誤差

ここでいう 「速力」 とは speed、つまり単に早さのことで、方向の要素を含んだ速度 vector のことではありませんのでご注意を。

推進ロケット燃焼終了時における弾道弾の速力の誤差もまた弾着の誤差になることはお判りでしょう。

この速力誤差が生ずると、その後の真空中における楕円軌道が変わり、下図に示すように意図した軌道から長軸を誤差による Δθだけ回転させた新しい楕円軌道になり、その結果弾着には2Δθの誤差を生じることになります。

BM_Error_07a.jpg

このことは弾道の “高い” “低い” ということと同じ意味になり、これは次の (4) で説明する仰角誤差よりも更に重要な問題となります。


(4) 仰角誤差

推進ロケット燃焼終了時における弾道の仰角の誤差も弾着時の距離誤差となります。

これも上記の(3)と同じく、意図した軌道から長軸を誤差による Δθ だけ回転させた新しい楕円軌道になり、その結果弾着には 2Δθ の誤差を生じることになります。

BM_Error_07b.jpg

ただし、当初の意図した弾道は所要の射程まで飛翔するに要する最少のエネルギーによるものですから、この仰角誤差は結果的に常に射程の減少となって現れることになります。


弾道誤差の要約

これまでに説明してきた弾道弾の弾道誤差について、一言で言うと、第一段階の推力飛翔において誘導システムはこれらの誤差を補正する、あるいは最小限に抑えるように機能しなければならない、と言うことに尽きます。

つまり、弾道弾が所要の目標範囲内に弾着するためには、推進ロケット燃焼終了時の速度ベクトルを極めて精密にコントロールして、所望の弾道軌跡での飛翔を達成できる必要があると言うことです。

一般的な弾道弾において要求される推進ロケット燃焼終了時の各要素の精度は下表のとおりであり、これを達成し得て初めて99.9%の有効性が発揮可能とされています。

誤差要素要求精度
位置誤差 1/2マイル以下
方位誤差 ±1分以下
速力誤差 1〜2フィート/秒以下
仰角誤差 ±1分以下



地球自転の影響

さて、弾道弾の飛翔技術の基礎について説明してきましたが、最後にもう一つ重要な事項が残っています。

そうです、地球自転の影響の問題です。 射程が長く、飛行秒時も長いので、この問題への対応は弾道弾の飛翔技術としては必須のことです。

しかしながら、この地球自転の影響の問題は既に艦砲射撃の場合について本家サイトの『砲術の話題あれこれ 第7話』として採り上げております。


射表などの細かいことを除けば、基本的な理論については同じですのでそちらをご参照いただくとして、本項では省略することといたしますのでご了承下さい。


終わりに

さる2月に北朝鮮が行った弾道弾発射実験についての報道を機にこの項を進めてきましたが、ここにきて北朝鮮はSLBMやムスダンなど立て続けに打ち上げ実験を行い、そしてそのほぼ全てで失敗しております。

弾道のことや弾頭の再突入のこと以前に、技術的にはまだまだ打ち上げの初期段階さえ満足に完成していない状態であることが判明しました。

米国本土どころか、日本にとっても真の脅威となるような本当の弾道弾の完成はまだ当分先のように思われます。

もちろん連載冒頭に書きましたように、どこに飛んでいくのかわからない、本当に核弾頭の小型化に成功しているのかも判らない、という状況での単なる政治的なプロパガンダやブラフとしては別の話ですが ・・・・

(この項終わり)

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2016年05月08日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (9)


弾道の誤差 (承前)

(2) 位置誤差

もし燃焼終了時の速度ベクトルの誤差が位置だけの誤差であるならば、下図に示すように軌道上の全てのポイントを同じ量だけずらしたものと考えることが出来ます。

BM_Error_04.jpg

したがって、燃焼終了時の位置がΔθだけずれたとするならば、弾着点も又Δθと同じ量だけずれることになります。 このことは先の (1) の方位誤差の現れ方とは異なりますので注意が必要です。

この燃焼終了時の位置誤差は、次の要素の誤差に起因します。

   目標位置データ
   打ち上げ位置
   誘導

もし目標位置データに誤差があるならば、下図のようにその誤差の距離にほぼ等しい弾着誤差となって現れます。

BM_Error_05a.jpg

したがって、目標の正確な地理的位置を知ることが必要であることは論を待たないところでしょう。

例えば強固なICBM発射サイトを破壊するには、ほとんど直撃するに足る精密な位置情報が必要になってきます。

またもし移動式発射台を使用する場合、実際の打ち上げ位置が計算位置から1マイルずれているならば、例え弾道が正確に計算されていたとしても、その弾着点は1マイルずれます。

BM_Error_05b.jpg

これは、艦船、航空機、あるいは潜水艦から弾道弾を発射するためには、精密な航法機器を装備する必要があることを意味します。

更に、誘導システムが適正な位置で推進ロケットの燃焼を終了させることができなければ、これも正確な弾着を得ることができません。

特に垂直位置の誤差はこの誘導装置の不正確さに起因します。

即ち、例え燃焼終了時に意図した速度 V* 及び仰角 φ* を得たとしも、下図のように燃焼終了位置が高すぎた場合、あるいは低すぎた場合には、弾着位置に誤差を生じることになります。

BM_Error_06a.jpg

BM_Error_06b.jpg

この燃焼終了時の高度誤差は、それによる弾着誤差の決定が他の要素のように1対1的に単純に表されるものではなく、より複雑な方法が必要になります。

例えば、意図した弾道で打ち上げたものの推進ロケットの燃焼終了時が早すぎた場合、本来の燃焼終了位置に達した時点での速度が遅くなることになります。

これによって本来の燃焼終了地点以降の弾道は意図したものより短くなり、これが弾着誤差となります。

したがって、目標位置に弾着させるためには、誘導システムによる燃焼終了位置の極めて正確なコントロールが必要であることをお判りいただけるでしょう。

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2016年05月07日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (8)


弾道の誤差

しばらく時間が開いてしまいましたが、今回はいよいよ弾道弾の飛翔の誤差、即ち弾道誤差の問題です。 この弾道の誤差はそのまま弾着の誤差に直結することは申し上げるまでもありません。

そして弾道弾が正確に所望の弾道を飛翔するかどうかは、ひとえにその誘導システムの良否にかかってきます。

飛翔第一段階のロケット推進の間に、誘導システムは推進ロケットの燃焼終了時点において弾道弾の速力と方向が所望の速度ベクトルとなるようにコントロールします。

この時に誘導システムが正しく機能しなければ、以後の飛翔において弾道弾の速度ベクトルに次の一つ、あるいはそれ以上の要素の不良を生じることになります。

   方位誤差
   位置誤差
   速力誤差
   仰角誤差

当然のことながら、第二段階の自由飛翔においてはこの燃焼終了時点での速度ベクトルの誤差の全てを引き継ぐことになりますが、この段階中に新たな誤差を生じることはありません、

最後の第三段階の大気圏再突入においては、弾道弾は大気の風及び空気密度の変化によって誤差を生じますが、基本的に (GPS等による誘導機能を有しない限り) これらの再突入時の誤差を修正することはできません。

そして風及び空気密度の変化による弾着誤差は一般的に約1マイル程度以内であるとされています。


(1)方位誤差

方位誤差は、燃焼終了時の速度ベクトル V が意図する弾道軌道面上から外れることにより生じる誤差です。

この誤差は、結果として下図に示すように予期弾着点に対して横方向の距離誤差となって現れることになります。

BM_Error_01.jpg

もちろん地球は平面ではありませんから問題はもう少しややこしく、球面三角法によってこの誤差の方程式を求めると次のようになります。

 a = A x sin 2θ

  a : 横方向距離誤差 (Cross Range Error) (単位 : マイル)
  A : 方位誤差 (単位 : 分)
  θ : 燃焼終了時の本来の弾道方位 (単位:度)

次の図は、この方程式により計算された弾着誤差の一例です。

BM_Error_02.jpg

この方程式によりいくつかの方位誤差について作図すると下図のようになります。

BM_Error_03.jpg

ここで注意していただきたいのは、射程5500マイルのICBMの場合、1度の方位誤差では60マイルの弾着誤差を生じますが、10800マイル (地球周回の約半分) の射程の場合は弾着誤差は0 (ゼロ) になることです。

これは本来の弾道弾の軌跡と誤差による軌跡は共に地球中心を含む垂直面内にあり、地球の大圏の円を横切ることになるためです。

( これは、例えば1/4や1/8などで切り売りされているスイカなどの皮の表面の形を考えていただければこの理屈がお判りになると思います。)

そしてこの図から、弾着時の誤差を1マイル程度とするためには、誘導システムは燃焼終了時の速度ベクトルにおいて方位誤差を ±1分の精度でコントロールする必要があることが判ります。

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2016年04月13日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (7)


高熱対策 − 再突入体設計上の重要事項

再突入体は大気圏に突入して地球表面に落下するまでの間に、空気抵抗によって再突入時の速度を大きく減少し、その運動エネルギーのほとんどを失います。

その結果として運動エネルギーは空気抵抗による摩擦熱に変わるわけですが、再突入の速度が極めて高い、即ち運動エネルギーが非常に大きいため、発生する熱エネルギーも極めて大きく、既にお話ししたように一般的に華氏約1万度 (摂氏約5600度) 近くまでになります。

したがって、再突入体に何らかの耐熱措置を施して、この発生した高温の影響をどのようにして最小限に留めるかが重要な問題となります。


大気中を超音速で飛翔する物体は、下図のように衝撃波層 (shock Envelope) の内側には弾体頭部に押されて音速以下の空気の流域が生じますので、衝撃波面 (shock wave front) は超音速の流れとこの音速以下の領域との境界に生じることになります。

Supersonic_01.jpg

そしてこの衝撃波面において、大気分子の相対的な速度の減少によって非常な高温が発生し、これが音速以下の空気の流れを経由して再突入体の表面に伝わることになるのです。

(つまり超音速の飛翔体の場合、一般的に空気抵抗による“摩擦熱”と言われるものには、この境界層における空気の分子同士の衝突によりその運動エネルギーが熱に変わることも含まれます。)

この音速以下の流れがカバーする領域は、頭部の淀み点 (stagnation point) に関係してきます。

もし再突入体の頭部が尖鋭な形状であった場合には、それによって形成された衝撃波により弾体表面の空気の流れは極めて高温となり、その弾体表面に極度な熱伝達をもたらすことになります。

この影響は弾体の頭部で顕著であり、特に尖鋭な先端部分は急速に溶けるか、あるいは気化するおそれが出てきます。

しかしながら、頭部先端を尖鋭でなく鈍い (blunt) 形状とした場合は、少し異なった現象となります。

つまり先端が鈍い形状では、衝撃波は弾体表面からより離れた位置となりますので、そこでは依然として高温であるものの、単位面積当たりの熱吸収能力はより効率的となり、尖鋭形状よりは過熱を減少させる傾向があります。

これにより、鈍い頭部形状の再突入体は、運動エネルギーにより発生した熱の99%までを空気内に吸収するようにすることができると言われています。

頭部前端の淀み点における熱伝達率は、次の式で表されます。

BM_heat_form_01.jpg

ここで、

     g : 熱伝達の時間比率
     K : 比例定数
     ρ : 衝撃波前面の乱れのない空気の密度
     V : 再突入体の速度
     R : 再突入体の淀み点の半径

この式から、g の値を小さくするには、K、ρ、V を小さくするか、または R を大きくすれば良いことが判ります。

を大きくするということは即ち、先端部の形状をより鈍くして面積を拡げれば良いということです。 また、これにより高再突入速度による大きな運動エネルギーを散逸させることができます。

もちろん総体的な摩擦熱の点からは、再突入の際の速度を出来る限り遅くし、かつ降下角度を大きくすることが望ましいといえますが、これについては、弾道弾の打ち上げの際にその弾道の頂点における運動エネルギーが小さくなるような軌跡を選択することにより実現可能です。

しかしながら、長距離弾道弾において如何に鈍い形の再突入体の形状を採用しようとも、大量の熱を弾体そのもので受けなければならないことには変わりはありません。 したがって、再突入体には何らかの耐熱対策 (保護策) を施すことが必要になります。

現在までのところ、この耐熱対策の方法として次の7つが知られています。

  1.固形熱容器(Solid Heat Sinks)
    再突入体に被せる金属製の容器で、その熱容量を利用して再突入体への
    熱の伝導を吸収するとともに、周囲の空気へ放熱する方法

Heat_Sink_01.jpg

  2.除去冷却 (Ablation Cooling)
    弾体の表面物質を気化させることにより、熱エネルギーを再突入体から
    引き離す方法
  3.機構的冷却 (Mechanical Cooling)
    液体の冷却剤を循環させることにより、再突入体の内側の弾体表面から
    吸収する方法
  4.発散冷却 (Transpiration Cooling)
    弾体表面からガス又は液体を放出して熱を運び去る方法
  5.絶縁 (Insulation)
    加熱効果を減少させて、再突入体の構造物及びペイロードを遮蔽する方法
  6.放熱システム (Radiative System)
    再突入体の表面から熱を放射することにより、熱の伝達を拡散させる方法
  7.磁界 (Magnetic Fields)
    再突入体の周囲のイオン化されたガスにより熱を弾く方法

これらのうち、3の機構的冷却、4の発散冷却及び7の磁界の3つの方法は、簡単かつ信頼性の高いものとする点で一般的にその要求からは外れます。

6の放熱システムの方法は、適切な絶縁を確保する点であまり実用的ではありません。

1の固形熱容器による方法は、その熱容量、使用する金属の熱伝導率、及び融点によって限界が出てきます。 つまり熱発生率のピークが高くなるにつれ、容器の外側表面の熱を制御し、かつそれを金属容器全体に分散することが次第に困難となってくるからです。

このため、最大の熱発生の可能性によっては、それを十分に早く放熱することが不可能となって、容器自体が溶けるおそれが出てきます。

したがって、この熱容器方式は中距離の弾道弾まででは上手く機能しますが、射程が長くなる(=速度が速くなる)につれて、この方式の適用は限定されたものとなります。

2の除去冷却は、容器又はシールドを用いて、その固形熱容量によって熱を吸収するだけでなく、それ自体の溶融及び気化によってシールドの素材をガス状に変化させることにより、大量の熱を再突入体から持ち去る方法として有効です。

それに加えて、気化した素材は境界層において再突入体の絶縁シールドとしても機能すると言う利点もあります。

固形熱容器方式に対して、適切な素材を用いることにより低い熱伝導率とより良い絶縁体となります。 特にセラミック、耐火性の酸化物、及びプラスチックなどが大量の熱を取り扱うものとして有効な素材です。

例えば、酸化ベリリウム (Beryllia、BeO) は耐火性の酸化物としての一例であり、1ポンドあたり10,600 BTU (約1120万ジュール、2670kcal)の熱を吸収することができます。 したがって、酸化ベリリウムの薄く軽量な層を再突入体の先端部分に用いることは有効な耐熱方法となります。

このような軽量の耐熱システムを用いることによって、ペイロードを熱から保護すると同時に、再突入体の重量をよりペイロードに割くことを可能とします。

下図をご覧いただければ、除去冷却の方法が固形熱容器方式よりもより効率的であり、また再突入体の全重量に対する達成可能な W/CA はかなり増加することがお判りいただけると思います。

Heat_protection_01.jpg

ここで、
     Wp : 有効ペイロード重量
     W : 再突入体の全重量
     C : 再突入体の空気抵抗係数
     A : 再突入体の有効前面面積

この W/CA は再突入体の 「弾道パラメーター」 (ballistic parameter) とも呼ばれ、その形状にも関係してきます。

つまり、高い重量対空気抵抗比で、かつ高い W/CA とすることにより、再突入体はより流線型となり、同じ再突入体の重量であれば、低い W/CA のものより再突入から弾着までの所要秒時はより短いものとなります。

そして図の曲線からは、除去シールドの大きな利点が判ります。 即ち、再突入体の重量が同一であるならば、より大きな W/CA の値は再突入体の飛翔のブレが少なく、したがって武器としての有効性が高くなると言うことです。

このため、有効な熱除去防護システム方式は、その開発と生産が大変難しいものの、弾道弾の武器としての全体的な有効性において相当な改善を与えるものと言えます。

特に最近では、スペースシャトルなどのように、この耐熱の対策としてセラミックを主とする耐熱タイルの技術が用いられていることはご承知のとおりです。


先日北朝鮮が行った再突入模擬実験と称するものがニュースに流れましたが、映像を見る限りではこの耐熱試験だけであったようです。 しかし果たして、地上実験だけで本当に上手く行ったのでしょうか?


さて次は、弾道弾の飛翔誤差の問題についての予定です。

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2016年04月04日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (6)


(2) 再突入弾道の決定 (続)

次ぎに、再突入段階における弾着までの速度の変化との飛翔秒時についてです。

当然ながら空気密度が高くなるにつれて再突入体の速度は空気抵抗のために低下していきますが、再突入第2段階の減速段階途中の高度10万フィート (3万m) まではまだそれ程急激に低下するわけではありません。

再突入からこの高度10万フィートまでは、平均で 再突入速度 (V) の 95% であると見なして大差がないことが実証されています。

しかしながら、この高度10万フィート以下になりますと、再突入体の形状や有効面積などによって大変複雑な関数となります。

とはいっても、一般的に用いられる弾道弾の形状において、再突入速度が 10000 〜 25000 フィート/秒の範囲である場合には、その平均速度は 60 X √V フィート/秒 としてそれ程大きな誤差とならないことも知られています。

もちろんより正確な値を求めようとすると、だんだん複雑な計算式になりますが ・・・・

BM_re-entry_flight_04.jpg

これにより、再突入高度(h)から高度1万フィートまでの水平飛翔距離は

BM_re-entry_form_06a.jpg

となり、その間に要する飛翔秒時は平均速度95%を用いて、

BM_re-entry_form_06b.jpg

となります。

そして、高度1万フィートから弾着点までの飛翔秒時の計算には、水平飛翔距離として

BM_re-entry_form_07a.jpg

を使用します。 もちろん前述のようにこれでは大きな誤差となりますが、秒時誤差としてはそれ程大きなものとはならないことに注意して下さい。

この水平飛翔距離を用いての飛行秒時は

BM_re-entry_form_07b.jpg

となります。

したがって、再突入から弾着までの飛翔秒時は次の式で得られることになります。

BM_re-entry_form_08.jpg


なお、実際の代表的な弾道弾におけるものとして、射程500マイル (約900km) の SRBM の場合の例と、射程5500マイル (約10200km) の ICBM の場合の例を示しますと、次のようになります。

BM_re-entry_flight_05.jpg

BM_re-entry_flight_06jpg

この程度のデータでも、刊行物やネットなどにはまず見当たりませんので、十分ご参考になるものと思います。

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2016年04月02日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (5)


2.大気圏再突入段階 (Re-entry Phase)(続)

(2)再突入弾道の決定

本連載では説明を平易にするため数式などは極力使わない方針ですが、この項だけは少し。 ただし簡単なものですし、読み流していただいても構いません。

といいますのも、既にお話ししたように再突入によって急激な空気抵抗を受けますので弾道の軌跡がどのようになるかを求めなければ、この段階において弾道弾がどれくらいの距離を飛翔するのかが分かりません。

これは即ち、肝心な弾道弾の発射から弾着までの射程が正確に決められないということになります。

このため再突入体の運動についての方程式を求めることが必要になります。 とは言っても弾道弾の具体的な実際の例を挙げての詳細な説明では頭が痛くなるでしょうから、ここでは一般論としてごく簡単に。


再突入体はその頭部を文字通り頭にして飛翔し、かつピッチ (縦動揺) 及びロール (横動揺) を無視できるような形状に設計します。

これにより、再突入体は弾道に対して小さな迎角を維持するものと仮定することができますから、高速の再突入体に働く外力は重力と空気抵抗がその大部分となります。

ここで、とりあえずは地球は自転していないものと仮定し、そして弾道軌跡の完全な解析には含まれるべき副次的な要素は全て無視して考えることにします。

すると、容積 m、速力 V の再突入体について、弾道軌跡方向の運動方程式は次のように表されます。

BM_re-entry_form_01.jpg

ここで、

    ψ : 再突入体の弾軸(縦)方向と水平面とのなす角
    ρ : 空気密度
    A : 再突入体の有効弾面積
    C : 再突入体の抵抗係数

そして、弾道軌跡に対して直角方向の運動方程式は、次のようになります。

BM_re-entry_form_02.jpg

ここで、

    C : 再突入体の揚力係数

再突入の最初の姿勢再変換の段階では弾体の速度はまだ空気密度は小さく、かつ弾体は極めて高速ですので、この段階での飛翔軌跡は直線と見なすことができます。

また、次の減速段階でも再突入体の迎角 (ψ) は小さいので、上の方程式中の右辺の揚力の項はゼロに近くなりますので、この方程式は次のように表すことが可能です。

BM_re-entry_form_03.jpg

これらのことから、再突入の3段階のうち、初めの2つの間、再突入体の飛翔軌跡は直線と見なしても差し支えないものとされ、実際の検証においてもそれ程大きな誤差は生じないことが明らかとなっています。

なお、この再突入第2段階終期の高度 5万フィート (1.5万m) にける弾体の速度はまだ 約1万フィート/秒 (約3000m/秒) であることに注意して下さい。

そして、最後の高度5万フィート以下の終末段階においては、弾体の軌跡は再突入の速度にはほとんど関係しません。

したがって、もしこの終末段階においてもその前の第1及び第2段階と同様に直進である見なした場合との差は、打ち上げ時の燃焼終了点 (Burnout Point) と同高度における再突入角 (φ) だけに関係することになります。

このことから、通常の弾道弾の速度の範囲においては、 21000フィート/tan φ (あるいは 3.5マイル/tan φ) として実際の値とほとんど誤差がないことが知られています。

つまり、再突入段階におい飛翔軌跡の全体が直進であるとすると、その水平距離は次の式となります。

BM_re-entry_form_04.jpg

そしてこれに終末段階における弾道軌跡の上記の差を加味すると、

BM_re-entry_form_05.jpg

で表されることになります。

BM_re-entry_flight_03.jpg


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2016年03月23日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (4)


2.大気圏再突入段階 (Re-entry Phase)

中間の第2段階である大気圏外における自由飛翔についての説明は省略して、第3段階の大気圏再突入に移ります。

この再突入の段階も、更に次の3つの段階に細分されます。

     姿勢再変換段階 (Reorientation Phase)
     減速段階 (Deceleration Phase)
     終末段階 (Terminal Phase)

BM_re-entry_flight_01.jpg
( 図 : re-entry path phases )


(1) 各段階の概要

姿勢再変換段階 (Reorientation Phase)

第2段階の大気圏外での飛翔においては、誘導弾に作用する外力は地球の重力だけですから弾道弾の姿勢は変わらず、したがって第3段階の大気圏再突入時は第1段階最後の燃焼終了時とほぼ同じ姿勢を維持しており、また自由落下の速力 (speed) は燃焼終了時とほぼ同じです。

そして大気圏に再突入し始めると次第に空気抵抗の影響が強くなりますので、この第3段階の最初はこの空気抵抗による弾道弾の姿勢の変換となります。

つまり、空気密度が濃くなるに従ってその抵抗により弾体は徐々に迎え角がゼロ、即ち弾軸が速度 (verocity) 方向に一致するごとく回転します。

しかしながら、このままでは弾道軌跡に対して多少の誤差が生じてくることはまぬがれませんので、最近では小さなガス噴射装置又はロケット噴射装置を装備して、これにより第1段階で打ち上げロケット最終段の分離直前に弾体を回転させて、姿勢を再突入時の最適姿勢に修正するやり方が一般的です。

また、古くは打ち上げの最終段のまま再突入する弾道弾もありましたが、最近では単弾頭といえどもロケット燃焼終了段階から再突入までの何れかの時に弾頭を放出する機構になっているものも多く、この場合一般的には放出時に弾頭の姿勢変換を行います。

もちろんこのためにはより複雑な機構と高度な制御技術が必要となることは言うまでもありません。

北朝鮮のテポドンなどの場合も、ロケット燃焼終了段階の直後に弾頭部を放出するようになっているようですが、この辺の詳細は不明で (秘密事項ですので (^_^; )、どれ程の精度で制御できているのかは判りません。

( ただし、この弾頭部放出により、当然ながらその最終段の弾体なども引き続き弾道軌跡に沿って飛翔することになります。 これらは 「デブリス」 (debris) と呼ばれ、弾道弾迎撃の際に弾頭部との識別が必要になってきます。)


減速段階 (Deceleration Phase)

続く再突入第2段階は、高度20万フィート (6.1万m) から5万フィート (1.5万m) までの間です。

この領域では次第に空気密度が濃くなるため、再突入体は空気抵抗により急激に減速することとなり、このため極めて大きな荷重がかかることになります。 この減速加重は、ICBMの場合では −40g を越えるのが普通とされています。

また同時に、空気の摩擦により非常な高温に晒されます。 一般的に再突入体の表面は華氏約1万度 (摂氏約5600度) 近くになるいう過酷な状況であるとされています。

つい先日 (3月15日)、北朝鮮が弾道弾の再突入模擬実験を行ったとする報道がなされていましたが、その実験はどうもこの耐熱試験だけであったようです。


終末段階 (Terminal Phase)

再突入の第3段階は、最後の高度5万フィート (1.5万m) から弾着までで、再突入体は重力加速度と釣り合う程度にまで減速した後、最終的にはほぼ垂直に降下します。

この段階まで来ると再突入体の表面温度は下がってきますので、この終末段階での主たる関心事は、音速領域での安定性と、弾頭の安全解除及び起爆になります。

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2016年03月19日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (3)


1.ロケット推力による飛翔段階 (続)

(2) 無揚力飛翔 (Zero-Lift Flight)

前回の (1) で説明したように、中距離弾道弾以上は垂直に打ち上げられることになりますが、とは言っても限られた搭載燃料を有効に使うには出来るだけ早い時期に所要の速度まで加速して本来の弾道軌跡に乗せるようにすることが好ましいことには変わりはありません。

そこで、まだ大気圏内ではありますが、空気密度がそれなりに薄くなったところまで上昇したところで、“徐々に徐々に” 弾道弾を旋回させていくことになります。

徐々にといいますのは、これも (1) で説明したように、弾体の構造は横からの荷重に対しては強くできていませんので、薄くなったとはいえ空力的に生じる旋回荷重の影響を出来るだけ小さくしなければならないからです。

このため、ロケットの推力の方向を少し変えては元の弾軸 (縦) 方向に戻し、また少し変えては戻すということを幾度か繰り返すという方法をとります。

推力のバランスをとりながら弾道弾の重心をゆっくり移動させて、少量かつ一時的な旋回モーメントとなるようにして、弾体に出来るだけ横荷重がかからないように制御システムによって慎重にコントロールしていくのです。

この旋回のことを 「無揚力旋回」 (zero-lift turn) あるいは 「重力旋回」 (gravity turn) と言います。


(3) 定姿勢飛翔 (Constant Attitude Flight)

ほぼ大気圏を抜けだし、かつ無揚力旋回を終えて射角 (φ) となったならば、今度は直進して所要の弾道を描くに必要な速度 (V) まで加速することになります。

この時、空気抵抗はほぼ無視できるようになりますので、下図のように弾道弾は重力に応じた分だけの上向き姿勢で直進します。

BM_constant_01.jpg
( 図 : constant attitude flight outside earth's atmosphere )

弾道弾は飛翔経路に対して一定の上向き姿勢を維持して飛翔しますので、この段階を 「定姿勢飛翔」 と言います。

この時の射角 (φ) は、所要の弾道軌跡となるための最終的なロケット燃焼終了時の仰角 (burnout angle) (φ) とほぼ同じとなります。

両者の差はその大部分が僅かとはいえ空気抵抗に対する修正ですが、これによる弾体に対する横荷重は既に無視できる程度のものとなっています。


ロケットの燃焼終了時に近くなると、誘導システムよって推力の向きを僅かに変えて、最終的に弾道弾が正確な速度方向となるように微修正します。

そして所要の速度で所要の弾道軌跡に乗ったところで、誘導システムによりロケットの燃焼を停止します。

第1段階における最終的な燃焼終了高度 (burnout altitude) (h) と飛翔水平距離 (R) は、個々の弾道弾に関する具体的なデータがあれば計算、あるいは作図が可能です。

一般的なIRBMの場合を例にとると、下図に示すようになります。

BM_powered_flight_02.jpg
( 図 : typical powered trajectory for an IRBM )

大体において、燃焼終了高度 (h) は約40万フィート (約12.2km) 前後、飛翔水平距離 (R) は約70マイル (約130km) 程度です。

これがICBMになりますと、ロケット推進の時間はより長くなり、射角は小さくなります。

一般的なICBMの場合、h は大凡100万フィート (約30km)、R は100〜125マイル (約185〜232km) 程度です。


この定姿勢飛翔から先は、弾道弾は真空中における弾道軌跡を描く、第2段階の 「自由飛翔」 (Free Flight) になります。

この自由飛翔段階については、中学や高校の物理で習われた放物線のことと同じですので、説明は不要でしょう。


次回は第3段階の大気圏への再突入の問題です。

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2016年03月16日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (2)


1.ロケット推力による飛翔段階 (Powered Flight Phase)

弾道弾打ち上げの第1段階は、地上の発射機からロケット推進により大気圏外まで打上げて、所定の速度で所定の弾道軌道に乗せる (= ロケット・エンジンの燃焼終了) までの期間です。

この第1段階は、更に次の3つの段階に細分されます。

     発射と垂直飛翔 (Launch and Vertical Flight)
     無揚力飛翔 (Zero-Lift Flight)
     定姿勢飛翔 (Constant Attitude Flight)

BM_powered_flight_01.jpg
( 図 : Typical powered trajectory for IRBM )

(1) 発射と垂直飛翔 (Launch and Vertical Flight)

飛翔距離が短くその大部分が大気圏内であるSRBMを除くと、基本的にIRBM以上の弾道弾は地上の発射台から垂直に発射され、引き続き短期間そのまま垂直に上昇します。

そこで前回お尋ねしたこの “何故垂直に打ち上げるのか” ということです。

これについては多くの場合、大気圏を早く抜けて空気抵抗を受けることのない真空弾道 (放物線) 軌跡に乗せるためため、という説明が見受けられることをご存じの方もおられると思います。

確かにこれも正解の一つではあります。 しかしながら、本当の理由は次の3つの方がより重要なのです。


まず一つ目が、空気抵抗と燃料の関係です。

ロケットに搭載すべき必要な燃料の量は、速度と飛翔距離、そして弾道弾の打ち上げ重量に比例します。 そしてこのいずれにも大きく影響するのが空気抵抗です。

このため、空気密度が濃い、即ち空気抵抗が大きい地表近くを可能な限り早く抜けるために垂直に打ち上げることが求められます。

これによって燃料の量を少なくて済むようにし、かつ打ち上げ重量を減らすことができます。 そして空気による摩擦熱の影響を最少にすることができます。

逆に、もし打ち上げ重量を同一とするならば、燃料の必要量を減らせればその分より大きな搭載物 (payload) を積むことが可能になることを意味します。


二つ目が弾体の構造の問題です。

可能な限りペイロードを大きくし、かつ打ち上げ重量をできるだけ小さくするためには、弾道弾の弾体構造そのものを可能な限り軽くする必要があります。

このため、弾体の弾軸 (縦) 方向の強度は高く、横方向の強度は比較的低くして限定的な耐加重の範囲で設計されることになります。

そして、これを垂直に打ち上げることによって、荷重や空気抵抗、重力を弾軸方向で受けることでこれに対処することが可能になります。


そして三つ目が発射機の問題です。

弾道弾が大きくなればなるほど、発射機の構造が複雑となり重量が増えます。 これを最少に押さえるためには、弾道弾を垂直に保持してこの状態から打ち上げることです。

言われればすぐに納得できることばかりですが、これらの理由をキチンと整理して説明しているものは少ないですね。


この垂直発射方式ですが、発射機に垂直に置かれるが故に弾道弾の全重量は下の発射台 (Launch Pad) で支えられ、かつロケット・エンジンに点火後、推力が十分なレベルに上昇するまでの間、発射台により弾道弾の下部を拘束するようになっています。

そしてこの垂直発射において最も重要な点は、ロケット・エンジンに点火直後の速度がまだゼロに近い最初の数秒間、弾道弾の姿勢を垂直に保たなければならないことです。

これは、発射時の弾体の横方向に加わる外力、例えば突風による偏位や傾きなどに対して、エンジン後部に取り付けた偏向板 (deflecter vanes) を操作してロケット噴射の流れの向きを変化させ、あるいはロケット・エンジンそのものを垂直に保つ機構にすることにより、弾体の縦軸に対する推力方向を変えて弾体の姿勢のバランスを取ることで制御します。

弾道弾によっては、これに加えて小さな補助ロケットを装備して、これにより一時的なサイド・スラスターとして使うものもあります。

これらによる姿勢保持は弾道弾の制御システムによって自動的に行われますが、打ち上げ重量が大きくなればなるほど高度な技術を要することはお判りいただけると思います。

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2016年03月14日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (1)


始めに

今回は現代戦のことについての話題を少しお話しすることにします。 旧海軍の艦砲射撃は私のライフワークの一つですが、“気ままなブログ” ですので元々の本来の専門に関連するものもたまには (^_^;


先月の2月7日に北朝鮮が打上げたロケット (北朝鮮名 「 銀河 (ウンハ、Unha)」 については、1993年以降これまで8回の打ち上げ実験を行った時と同様に、当の北鮮は衛星打上げだといい、諸外国は弾道弾 (Ballistic Missile) の実験と主張しています。

NK_unha_photo_01_s.jpg
( 元画像 : 朝鮮中央テレビ放映の画像から )

そして今回のロケット技術としては、搭載物 (それが本当の衛星であるかどうかは別として) を大気圏外へ運び、そこでこれを切り離すところまで行ったことは確かなようです。 もちろんそれが意図した速度で意図した軌道に乗ったのかどうかは判りませんが。

ではこれを諸外国が言う弾道弾の実験として見た場合はどうなんでしょう。

確かにロケットとしての基礎的な技術には両者で同一のところ、似たところがかなりありますが、しかしながら異なるところも多いのです。

その際たるものが弾頭の放出と大気圏への再突入でしょう。 これが上手く行かなければ弾道弾としての意味はありません。

そしてもう一つが飛翔経路です。 衛星ならば最終的にその所要の衛星軌道に乗せるための高度と方向となるように打ち上げますが、弾道弾なら大気圏外において弾頭が目的地に到達するための放物線を画く軌道に乗るように打ち上げます。

これらの違いについて、きちんと踏まえた上での論評・報道かどうかを判断する必要があるでしょう。

実際のところは大気圏外まで物を運ぶロケットとして十把一絡げにして、これらを曖昧なままにしたニュース・メディアなどが多いのですが ・・・・


弾道弾の飛翔については、打ち上げから弾頭の弾着まで大きくは次の3つの段階に別かれます。

     ロケット推力による飛翔 (Powered Flight)
     大気圏外における自由飛翔 (Free Flight)
     大気圏再突入 (Re-entry)

BM_total_traj_01.jpg
( 図 : 米海軍資料より Total Ballistic Missile Trajectory )

北朝鮮の今回の打ち上げが例え弾道弾の実験であったとしても、実はこの3段階について第2段階の始めまでしか実証し得ておりません。 ハッキリいえば、まだまだ弾道弾としての実用化にはほど遠い段階と言えます。

今回の成功 (?) によって、何がしかの搭載物 (ペイロード、Payload) を大気圏外まで運び、それを切り離して軌道 (それが意図したものかどうかは別として) に乗せるまでの技術があることを証明しましたが、それでもまだまだここまでです。

したがって、弾道弾として肝心なその後のことは不明です。 まだ一度も実証したことがないのですから。

確かに、例えどこへ飛んでいくか (弾着するか) 解らない、そしてもしかすると小型化に成功した核弾頭を搭載しているかもしれない、というものであっても、政治的なプロパガンダとして、あるいはブラフとしてはそれなりに有効かもしれませんが、実際の実用兵器として見るならば中途半端なもです。


そこで、弾道弾として要求される飛翔の基礎的な理論・技術については、案外一般出版物にも、またネット上でもあまり見られないものですので、この機会に私なりにお話しをしてみたいと思います。

もっとも、現在の米ロの近代的な大陸間弾道弾 (ICBM、Inter-continental Ballistic Missile) では多弾頭 (MIRV、Multiple Independently-targetable Re-entry Vehicle) 化されているが普通です。 この複数の弾頭をそれぞれの標的に正確に命中させるためにこれを順次放出していくのは、これまた高度な技術を要します。

Peacekeeper_Re-entry_photo_s.jpg
( LGM-180 Peacekeeper 多弾頭の再突入写真 米陸軍SMDCの公式サイトより )

この話しも大変に面白いものですが、今回はこのことはひとまず横に置いておいて、取り敢えず北朝鮮がその開発を目指しているであろう単弾頭の場合に絞らせていただきます。

もちろん私のブログですから、一般文献からの引用などではなく、ご来訪の皆さんに興味を持っていただくために米軍の資料を根拠としますが、具体的なデータなどになりますと秘密事項に関わりますので、海軍兵学校やNROTCなどでも教えている一般的な説明の範囲とします。 しかしながら一般の方々にはこれでも十分なレベルの内容と思います。


それでは本論に入りますが、その前に、

弾道弾の打上げの時に (衛星などの打ち上げでも同じですが)、短距離弾道弾 (SRBM、Short Range BM) の場合は地上の発射機から射距離に応じた弾道軌跡の射角をもって発射されるのが多いですが、中距離弾道弾 (IRBM、Intermediate Range BM) 以上の場合は発射台から垂直に打上げられます。

SRBM_Launch_01.jpg  ICBM_launch_01.jpg

これは何故なのかその理由をご存じでしょうか?

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2014年09月25日

『世界の艦船』 11月号

『世界の艦船』 11月号 (通刊806号) の特集は 「現代の艦砲」 です。

SoW_No806_cover_s.jpg

その特集記事について次の項目を受け持たせていただきました。

  「155ミリAGS 脅威のメカニズム

ご存じのとおり、本砲は来年就役予定で現在艤装が進められている 「DDG-1000 Zumwalt」 に2基搭載されるものです。

AGS (Advanced Gun System) と呼ばれているとおり、従来の艦載砲とはかなりその趣を異にするもので、米海軍・海兵隊の新しい作戦構想にしたがった、陸上射撃能力向上を狙いとするものです。

ただ、本砲はまだ開発の途中にあり、「Zumwalt」 による実艦装備の海上試験が終わるまでは最終的な形態 (性能要目など) がどの様なものになるのかは不確定なところがあります。

このため、記事の内容は執筆時点で公表されている内容によって纏めたものです。

もっとも不確定なところの一つが、LRLAP (Long Range Land Attack Projectile) と呼ばれ、最終的に最大射程100マイルを目標とする誘導砲弾です。

これの信管には現在までの試験弾では着発信管が付いているようですが、近接信管や最終誘導などについては確たる情報がありません。

確かにメーカーなどから以前公表されていたイラストでは弾頭にHOB 「Height of Burst Sensor」 と呼ばれるものが描かれているものがあります。 あるいは構想として、SAL (Semi Active Laser) やIRなどが挙げられているものもあります。

しかしながら、現在までところどのようなものになるのかの具体的なことは公表されておりませんし、これまでの陸上試験での情報にもありません。

したがって、記事ではこれらの信管は “現在までのところではない” としています。 もちろんこのままでは砲弾の能力は不充分ですので、今後何某かの近接信管などが装着されるであろうことは間違いないでしょうが ・・・・

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2014年07月05日

『世界の艦船』 8月号


既に発売になっておりますので、ご覧になられた方もおられると思います。

SoW_201408_cover_s.jpg

『世界の艦船』 8月号は海自DDGの特集で 「ミサイル護衛艦50年史」 です。 「あまつかぜ」 に始まって最新のイージス護衛艦までのDDGの歴史ですが、編集部からご依頼がありましたので私も一文を書かせていただきました。

題して 『 DDG “きりしま” 艦長時代の思い出 』

特集記事として純粋なハードウェアとしてのDDG各艦やミサイル・システムについてはもちろんですが、中にこういう肩の凝らない気軽な読み物が一つあっても良いかとお引き受けしたものです 。

折角の機会ですので、一般にはいままで知られていないエピソードも入れてみました。 是非手にとってご一読いただけると嬉しいです。

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2013年10月19日

米海兵隊の運用法 (13)

海兵遠征軍 MEF

さて、MEU 、MEB に続いて MAGTF 編成の最大のものが海兵遠征軍 MEF (Marine Expeditionary Force) です。

これは、次のとおり、フル装備の1個海兵師団や1個海兵航空団などを主体とする極めて大規模なもので、標準編成でも約4万6千名となります。

USAmphib_Ops_37_s.jpg

USAmphib_Ops_38_s.jpg

USAmphib_Ops_39_s.jpg

USAmphib_Ops_40_s.jpg

MAGTF の編成としてはこれが最大ですが、当然のこととしてその状況・事態に合わせてその兵力は最少で2万名規模から最大で9万名規模まで変化します。 これが “scalability” と言われるものです。

そしてもしこの兵力でも不足するような大規模な事態が生起した場合には、2個あるいは3個の MEF の投入、あるいは VI MEF の予備役部隊を動員しての増強ということになります。

実際のところ、先のイラク戦争では I MEF に VI MEF を含む他の MEF からの増強を加えた約6万名規模 (これに英軍の第1機甲師団2万名が参加) をもって戦ったとされています。

陸軍の兵力が約5万5千名と言われていますので、極めて強力な戦力であったわけです。

( 実際のところ、テレビで実況中継されて世界中が信じてしまったような、あたかも西側のハイウェイを突き進む陸軍部隊が主力だったのではなく、本当は東側の河川・湿地帯を進撃した海兵隊が主力・主軸であったわけですが。)

そしてこれを支援するため、海上輸送に MSC をフル活用したほか、現地での戦闘支援に2個両用戦部隊 ATF (Amphibious Task Force) 及び3個両用即応群 ARG が集められ、加えて5個空母戦闘群 CVBG (Aircraft Carrier Battle Group) が加わっています。

Iraq_War_NavyMarine_01.jpg


以上、米海軍・海兵隊の危機対応態勢を見るにつけ、ARG / MEU がいつでもどこでもの “火消し役”、MEB + MPSRON が本格的な危機対応の “いい気になるな、いい加減にしろ”、そして MEF は海軍・海兵隊の全力をあげての “国を潰すつもりならやってやるぞ” と言えるでしょう。

こういう段階・状況に応じた態勢が整っているからこそ、軍事力としての真価が発揮できるのであって、今の陸自さんの構想では後がないことを見透かされるだけですね。


さて、流石に MEF ともなると規模が規模ですから、その遠征には兵員のみならず膨大な装備・機材・物資の輸送と戦闘支援のために、巨大な組織と兵力が必要になります。

そこで次は、先の MPSRON の説明で出てきました、その海上輸送を支える軍事海上輸送軍団 MSC (Military Sealift Command) についてです。
(この項続く)

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前 : 「その12 海上事前配備船隊 MPSRON」

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2013年10月10日

米海兵隊の運用法 (12)

海上事前配備船隊 MPSRON

前回お話しした MEB は標準編成で総計約18000名にもなり、しかもその装備、機材、補給物資なども膨大なものになります。

したがって、MEU の様にこれらの全てを洋上即応態勢とすることは、いくら米軍といえども不可能なことですし、例えその様なことをしても不経済です。

とはいっても、危機発生の場合には可能な限り速やかに所要兵力を米本土又は沖縄から目的地へ展開しなければなりません。 この迅速さが軍事においては最も重要なことの一つだからです。

このため、米海軍・海兵隊が採っている方策が海上事前配備船隊 MPSRON (Maritime Prepositioning Ships Squadron) と言うものです。

これは、民間の大型輸送船の各種タイプのものを傭入して、4〜6隻で1個船隊を組み、これに1個 MEB の装備 (個人装備を除く)、機材及び30日分の弾薬・補給物資を搭載して、予想される地域近くの洋上で即応待機させるものです。

そして、何かあれば所要の地近くの港湾に急行し、その地で海上又は航空輸送された MEB の兵員に搭載物件を引き渡すわけです。

もちろん、MPSRON は迅速な陸揚げのために設備の整った港湾に入ることが求められますが、その任務の性格上、ある程度自力での揚陸が可能な能力を考慮した船舶が選定されていることは申し上げるまでもありません。

この MPSRON は 軍事海上輸送軍団 MSC (Military Sealift Command) の下に3個船隊で構成されており、MPSRON 1 は 2 MEB (II MEF) 用として地中海・大西洋に、MPSRON 2 は 1 MEB (II MEF) 用としてディエゴ・ガルシア近傍に、 そして MPSRON 3 は 31 MEB (III MEF) 用としてグァム・テニアン近傍の洋上で即応待機の態勢を採って “いました”。

しかしながら、現在では大西洋及び地中海方面での危機発生の可能性は極めて低くなったと見積もられることから、米軍の Transformation と軍事費削減もあって、昨年の2012年9月に MPSRON 1 は解隊されてしまいました。

下の図は従来のものですが、各 MPSRON が7日及び14日で対応可能な範囲が示されています。

MPF_response_zone_s.jpg

これを見ると、MPSRON 1 は中東方面に対する MPSRON 2 の後詰めとしてもその価値は非常に高いことが判ります。 (実際、先のイラク戦争ではそれが遺憾なく発揮されたわけですが。)

残念ながら米海軍・海兵隊といえども流石に昨今の軍事費削減には堪えられないものと言えます。 そして現在再編中の MPF (Maritime Prepositioning Force) 及び MSC 全体の今後が注目されるところでもあります。

現在の MPSRON 2 は6隻、MPSRON 3 は4隻の編成ですが、所属船舶は固定されたものではなく、前者が12隻、後者が8隻の中から順次配属され、残りは修理や他の任務に就きながら定期的にローテーションします。

USNS_Charlton_s.jpg   USNS_kocak_s.jpg

USNS_martin2_s.jpg   USNS_stockham6_s.jpg
( MPSRON を構成する船舶の例  元画像 : 米海軍公式サイトより )

MPSRON の船舶は、その乗組員と共に海軍に傭入されており (もちろん傭入に伴いヘリコプター甲板の設置など所要の改造がなされています)、各船の運航は船長以下元々の船会社からの乗組員により行われていますが、船隊司令 (通常は海軍大佐) 及びその司令部要員だけは海軍軍人です。 (最近は少数ですが海軍軍人が乗員として乗り組んでいる船もあるようです。)

つまり、船隊及びその所属各船の運航・運用は船隊司令の指揮の下に行われており、また軍事的な情報などは全て司令部のみが取り扱います。

そして各船隊は洋上待機が基本で、止むを得ず近くの港湾に入る場合、あるいは錨泊する場合は、指示があってから24時間以内に全船が出港できることが条件となっています。 もちろん、各船の船長といえども自分の船を勝手に運航することはできませんで、全て船隊司令の指示と許可に基づきます。

また、各船の船長以下乗組員の交代についてはその傭船元の船会社によりますが、司令部の海軍軍人は1勤務1年間とされています。

因みに、2003年のイラク戦争の時には、ディエゴ・ガルシアの MPSRON 2 がカルフォルニアの 1 MEB と共に、I MEF FWD としていち早くクウェートに駆けつけたことは記憶に新しいところです。
(この項続く)

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posted by 桜と錨 at 21:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 現代戦のこと