まあ、解っていないというか、何というか。
PAC−3を朝霞に置こうと日比谷公園に置こうと、このシステムではとてもではありませんが東京23区全部を守ることは出来ません。
公表されているだけでも ↓ 程度の有効射程しかないんです。
しかもこの図は弾道弾が発射機の方位に向かって飛んで来る最良の場合を示しているのであって、横方向のクロスレンジがある場合にはもっと小さくなることはお解りですか?
そしてこれ、朝霞に置いたら後ろの千代田区は到底守れないことも解っておられますか?
移動式がどうのこうの言う前に、もう少しよくお勉強をして欲しいものと思いますねぇ。
2009年03月06日
2009年03月07日
PAC−3では23区は守れません(2)
ついでですので、もう少し。
そもそもPAC−3とは何のためのシステムなのか?
これも米軍の公表資料 ↓ で示されているとおり、米軍が遠征先(国外展開先)で自軍を防禦するためのものです。
つまり、アメリカ本土でこんなものを使うつもりなど毛頭ありませんし、展開先においてさえ自軍が守れれば良いのであって、その外周にある展開国の人口密集地などは全くの考慮外です。
そもそも先に示したとおりPACー3にはそんな能力はありませんから。
早い話が、艦艇の対艦ミサイル防禦でいう “CIWS” みたいなものです。
従って、部隊が移動したり、予想脅威方向が変化した時などには、常にそれに応じて最も効果が得られるようにその都度再展開・再配置し直さなければなりません。
ですから車載の移動型になっている。 当たり前のことなんです。
そもそもPAC−3とは何のためのシステムなのか?
これも米軍の公表資料 ↓ で示されているとおり、米軍が遠征先(国外展開先)で自軍を防禦するためのものです。
( まあパトリオット・システムそのものが元々陸上部隊の防空用ですから、当たり前と言えば当たり前ですが。)
つまり、アメリカ本土でこんなものを使うつもりなど毛頭ありませんし、展開先においてさえ自軍が守れれば良いのであって、その外周にある展開国の人口密集地などは全くの考慮外です。
そもそも先に示したとおりPACー3にはそんな能力はありませんから。
早い話が、艦艇の対艦ミサイル防禦でいう “CIWS” みたいなものです。
従って、部隊が移動したり、予想脅威方向が変化した時などには、常にそれに応じて最も効果が得られるようにその都度再展開・再配置し直さなければなりません。
ですから車載の移動型になっている。 当たり前のことなんです。
2009年03月08日
PAC−3では23区は守れません(3)
まあ一国家であろうと陸・空各軍であろうと、自分を守るための手段は自分で持ちたい、これはごく自然な要求でしょう。
では米国はMD(ミサイル防衛)についてどの様に考えているのか? それはその米国に対する脅威がどの様なものであると考えているのかを見れば解ります。
世界中で、というより米国の同盟国・友好国以外の国々で、長距離から短距離までの少なくともいずれかの弾道弾を保有している国及びその種類は、1972年では ↓ とされていました。
しかしこれが2001年には ↓ の様になったとされています。(ちょっと古いですが何故2001年のものなのかは後で。)
これが “弾道弾の脅威の拡散” といわれるものです。
しかしながら、これらの弾道弾の内訳をみると ↓ の様になります。 つまり、射程3000km以下の戦域弾道弾の“数”が弾道弾全体の75〜80%を占めていることが解ります。
これは何を意味するか?
米国にとっては、直接米本土に飛来するようなものは長距離(大陸間、戦略)弾道弾しか考えられません。 しかもそんなものを保有するのは極めて限定された国だけですし、もしそんなものを使うとなったらそれこそ第3次世界大戦です。
(従来の大国に加えて、最近は北朝鮮のような訳の判らない“ならず者国家”がこの能力を持とうとしているから、米国が躍起になっているんですが。)
加えて、射程3000kmを越える戦略弾道弾は飛翔経路のほとんどが大気圏外であり、かつ弾頭の突入速度がそれ以下の射程の戦域弾道弾に比べて格段に速くなることは、それに対する技術的対処が非常に難しいことになりますから、弾道弾そのものを直接阻止するMD方策は後回しになります。
それより、米国が超大国としての発言力を維持し、諸外国に軍事的コミットメントをするためには、先ず短距離弾道弾の脅威にさらされる遠征軍(海外展開部隊)の防禦が最優先になります。 そして、技術的にはこちらの方が容易です。
ですから、既存のものの改良であろうが新規開発であろうが、こちらの方、即ちそれらを大気圏内で迎撃するシステムの配備が最優先となるのは自然の成り行きです。
例えPAC−3の様な極めて有効射程の短いものであろうとも。
では米国はMD(ミサイル防衛)についてどの様に考えているのか? それはその米国に対する脅威がどの様なものであると考えているのかを見れば解ります。
世界中で、というより米国の同盟国・友好国以外の国々で、長距離から短距離までの少なくともいずれかの弾道弾を保有している国及びその種類は、1972年では ↓ とされていました。
しかしこれが2001年には ↓ の様になったとされています。(ちょっと古いですが何故2001年のものなのかは後で。)
これが “弾道弾の脅威の拡散” といわれるものです。
しかしながら、これらの弾道弾の内訳をみると ↓ の様になります。 つまり、射程3000km以下の戦域弾道弾の“数”が弾道弾全体の75〜80%を占めていることが解ります。
これは何を意味するか?
米国にとっては、直接米本土に飛来するようなものは長距離(大陸間、戦略)弾道弾しか考えられません。 しかもそんなものを保有するのは極めて限定された国だけですし、もしそんなものを使うとなったらそれこそ第3次世界大戦です。
(従来の大国に加えて、最近は北朝鮮のような訳の判らない“ならず者国家”がこの能力を持とうとしているから、米国が躍起になっているんですが。)
加えて、射程3000kmを越える戦略弾道弾は飛翔経路のほとんどが大気圏外であり、かつ弾頭の突入速度がそれ以下の射程の戦域弾道弾に比べて格段に速くなることは、それに対する技術的対処が非常に難しいことになりますから、弾道弾そのものを直接阻止するMD方策は後回しになります。
それより、米国が超大国としての発言力を維持し、諸外国に軍事的コミットメントをするためには、先ず短距離弾道弾の脅威にさらされる遠征軍(海外展開部隊)の防禦が最優先になります。 そして、技術的にはこちらの方が容易です。
ですから、既存のものの改良であろうが新規開発であろうが、こちらの方、即ちそれらを大気圏内で迎撃するシステムの配備が最優先となるのは自然の成り行きです。
例えPAC−3の様な極めて有効射程の短いものであろうとも。
2009年03月09日
PAC−3では23区は守れません(4)
そのPAC−3ですが、皆さんよくご存じのように、システムとしての構成は基本的に元々の対空ミサイルの時と同じです。
即ち、最小限の1射撃単位(FU、Fire Unit)は、数基の発射機(LS、Launching Station)とレーダー装置(RS、Radar Set)、射撃管制装置(ECS、Engagement Control Station)、発電機が各1基などです。
当然これだけでは何の役にも立ちません。
まず、レーダーはフェイズド・アレイ1面だけですから、そのカバー範囲は限定されたものでしかありません。
そして、そう、指揮管制システムがありません。 ECCというのは艦艇で言えば射撃指揮装置ですから、CIC/CDCに相当する部分が無いわけです。
したがって、少しでもまともに機能させるためには、これら射撃単位(FU)を数個と、それらを統制するものが必要になります。
後者については、情報調整装置(ICC、Information Coordination Central)、そして場合によっては(各FUとUHFが直接通じなければ)無線中継装置が必要になります。
これでやっと始めて何とか“多少は”使い物になるものになる部隊・システムになりますが、1個大隊(Battalion)という大きな構成になってしまいます。
それでもまだ指揮管制に必要な対空(空域)情報機能がありません。 これらは他のもの(例えばAWACSや本格的な上位防空組織)からの情報が必要となります。
で、考えてみて下さい。 やっとこれだけの機能を保持するために、予備品や整備機材も含めてどれだけの機材と人員が必要なのかを。
しかもその人員には食と住が最低限必要になりますし、部隊・個人としての日常的な品々も相当な量になります。
(当然ながら、更にこの1個大隊自身に対する展開地での防護措置・兵力や補給組織・部隊などが必要になりますが、これについては取り敢えず別にしておきます。)
したがって、その再展開・再配置には、その都度厖大な手間暇がかかることになるのは言うまでもありません。
一例を示しますと ↓ と言うことになります。
これだって、単に物を運び終わったというのに過ぎません。
その航空輸送能力でさえ、危機発生・有事の猫の手も借りたい時に、たったこれだけの能力のPAC−3のためにどれだけ占有されることになるのか。
勿体ない、もっと他の方法・手段はないの? と考えるのは別に米海軍だけではないでしょう。
即ち、最小限の1射撃単位(FU、Fire Unit)は、数基の発射機(LS、Launching Station)とレーダー装置(RS、Radar Set)、射撃管制装置(ECS、Engagement Control Station)、発電機が各1基などです。
当然これだけでは何の役にも立ちません。
まず、レーダーはフェイズド・アレイ1面だけですから、そのカバー範囲は限定されたものでしかありません。
そして、そう、指揮管制システムがありません。 ECCというのは艦艇で言えば射撃指揮装置ですから、CIC/CDCに相当する部分が無いわけです。
したがって、少しでもまともに機能させるためには、これら射撃単位(FU)を数個と、それらを統制するものが必要になります。
後者については、情報調整装置(ICC、Information Coordination Central)、そして場合によっては(各FUとUHFが直接通じなければ)無線中継装置が必要になります。
これでやっと始めて何とか“多少は”使い物になるものになる部隊・システムになりますが、1個大隊(Battalion)という大きな構成になってしまいます。
それでもまだ指揮管制に必要な対空(空域)情報機能がありません。 これらは他のもの(例えばAWACSや本格的な上位防空組織)からの情報が必要となります。
で、考えてみて下さい。 やっとこれだけの機能を保持するために、予備品や整備機材も含めてどれだけの機材と人員が必要なのかを。
しかもその人員には食と住が最低限必要になりますし、部隊・個人としての日常的な品々も相当な量になります。
(当然ながら、更にこの1個大隊自身に対する展開地での防護措置・兵力や補給組織・部隊などが必要になりますが、これについては取り敢えず別にしておきます。)
したがって、その再展開・再配置には、その都度厖大な手間暇がかかることになるのは言うまでもありません。
一例を示しますと ↓ と言うことになります。
これだって、単に物を運び終わったというのに過ぎません。
その航空輸送能力でさえ、危機発生・有事の猫の手も借りたい時に、たったこれだけの能力のPAC−3のためにどれだけ占有されることになるのか。
勿体ない、もっと他の方法・手段はないの? と考えるのは別に米海軍だけではないでしょう。
2009年03月10日
PAC−3では23区は守れません(5)
そこで、第3回の話しで出てきた 2001年 というのに戻ってみます。
あの公表資料が作られた2001年の時点で、米軍が考えていた対弾道弾の防御手段は ↓ の5つでした。
この内、大気圏内防禦(Lower Tier)のPAC−3とNA(Navy Area)は、既存のものの応用と言うことで、初期段階の実用化直前というところに来ていました。
そして次の段階の大気圏外防禦(Upper Tier)でも、米海軍はNTW(Navy Theater Wide)については早期実用化の目算が立っていました。
それは当然でしょう。 イージス・システムを改良して使うんですから。
それに対して、新規開発である米陸軍のTHAADの方はもう10年以上かかっているにも関わらず全く目途がたたない状況でした。(20年近く経った未だにダメですが。)
で、米海軍・海兵隊は業を煮やした んです。
能力が大してない上に厖大な手間暇のかかるPAC−3や、まともに使い物になるかどうかさえ解らないTHAADなどは後回しにして、海軍のイージスを使うNAとNTWを最優先すべきだ と。
それはそうでしょう。 SM−2ブロックWAというミサイルを使う Navy Area からして、その有効射程はPAC−3とは全く比較になりません。 これは既に第1回で示したとおりですが、もう少し具体的に現すと ↓ のようになります。
イージス艦の位置をそのまま横須賀なり品川沖に移動して、有効射程の楕円の長軸を北朝鮮の方向に回転させてみて下さい。 どれだけの能力があるのかお解りになると思います。
これ、既存のイージス・システムに若干の改良をすれば、あとはWAというミサイル弾を積むだけで、全てのイージス艦が、艦・装備・人員をそっくりそのまま使えるんです。 イージス艦本来の能力を何等制限すること無しに。
それどころか、PAC−3では決定的に弱点であるC4Iについては、元々が強力な能力を持っています。
しかも、PAC−3のように厖大な手間暇がかかることは全くありません。 全世界の海洋に前方展開している艦隊から、所要のところへイージス艦を “自分で少し移動” させればよいだけです。
加えて、イージス艦そのものが多目的・多用途であり、自分で洋上機動し、自己防禦能力があり、後方・補給関係の基地機能は自ら保有、という “軍艦” の特性をそのまま持っていることは言うまでもありません。
パトリオット部隊などは自立出来ない上に、早い話が “防空” しか使い道がないんですから。
あの公表資料が作られた2001年の時点で、米軍が考えていた対弾道弾の防御手段は ↓ の5つでした。
この内、大気圏内防禦(Lower Tier)のPAC−3とNA(Navy Area)は、既存のものの応用と言うことで、初期段階の実用化直前というところに来ていました。
そして次の段階の大気圏外防禦(Upper Tier)でも、米海軍はNTW(Navy Theater Wide)については早期実用化の目算が立っていました。
それは当然でしょう。 イージス・システムを改良して使うんですから。
それに対して、新規開発である米陸軍のTHAADの方はもう10年以上かかっているにも関わらず全く目途がたたない状況でした。(20年近く経った未だにダメですが。)
で、米海軍・海兵隊は業を煮やした んです。
能力が大してない上に厖大な手間暇のかかるPAC−3や、まともに使い物になるかどうかさえ解らないTHAADなどは後回しにして、海軍のイージスを使うNAとNTWを最優先すべきだ と。
それはそうでしょう。 SM−2ブロックWAというミサイルを使う Navy Area からして、その有効射程はPAC−3とは全く比較になりません。 これは既に第1回で示したとおりですが、もう少し具体的に現すと ↓ のようになります。
イージス艦の位置をそのまま横須賀なり品川沖に移動して、有効射程の楕円の長軸を北朝鮮の方向に回転させてみて下さい。 どれだけの能力があるのかお解りになると思います。
これ、既存のイージス・システムに若干の改良をすれば、あとはWAというミサイル弾を積むだけで、全てのイージス艦が、艦・装備・人員をそっくりそのまま使えるんです。 イージス艦本来の能力を何等制限すること無しに。
それどころか、PAC−3では決定的に弱点であるC4Iについては、元々が強力な能力を持っています。
しかも、PAC−3のように厖大な手間暇がかかることは全くありません。 全世界の海洋に前方展開している艦隊から、所要のところへイージス艦を “自分で少し移動” させればよいだけです。
加えて、イージス艦そのものが多目的・多用途であり、自分で洋上機動し、自己防禦能力があり、後方・補給関係の基地機能は自ら保有、という “軍艦” の特性をそのまま持っていることは言うまでもありません。
パトリオット部隊などは自立出来ない上に、早い話が “防空” しか使い道がないんですから。
2009年03月11日
PAC−3では23区は守れません(6)
先のNA(Navy Area)システムは、あっさりと開発できてしまいまして、2003年には仮配備、2004年からは本格的な実戦配備が始まりました。
この能力は新造艦のみならず、就役済みのものも順次改造されて全イージス艦が保有することになります。
( このため、改造だけでは済まない古い機器で構成されるシステムを保有するイージス艦は、早期退役に追い込まれています。 例えばイージス艦の代名詞的な1番艦である有名な「タイコンデロガ」など初期のものです。)
そして、米海軍は次の大気圏外防禦システム(Upper Tier)であるNTW(Navy Theater Wide)の本格的な開発に移行しました。
しかし、これもその第1段階のものは予想を遙かに超えて早く出来上がってしまい、2005年には実験艦がそのまま仮配備、2006年には本格的な実戦配備が始まってしまいました。
もちろん、性能・能力向上のための改善・改良が第2段階及びそれ以降のものとして今も続いています。
これを裏返すと、イージス・システムというのは現有能力のみならず、その潜在能力もそれぐらい高い、極めて優れたものであるということです。
このNTWの有効迎撃範囲がどれくらいか、というと ↓ のとおりです。
ここで注意していただきたいのは、ここで示す有効範囲は、図の位置のイージス艦が北朝鮮が発射した弾道弾を “この中で迎撃できる” (SM−3が命中する) というのではありません。
この範囲内に落下(弾着)するように北朝鮮から飛翔して来るものを “途中の大気圏外で” 迎撃することができる、という意味ですのでお間違えのないように。
SM−3を使用するイージス・システムによるNTWの有効範囲が如何に広いものかがお解りいただけると思います。
この能力は新造艦のみならず、就役済みのものも順次改造されて全イージス艦が保有することになります。
( このため、改造だけでは済まない古い機器で構成されるシステムを保有するイージス艦は、早期退役に追い込まれています。 例えばイージス艦の代名詞的な1番艦である有名な「タイコンデロガ」など初期のものです。)
そして、米海軍は次の大気圏外防禦システム(Upper Tier)であるNTW(Navy Theater Wide)の本格的な開発に移行しました。
しかし、これもその第1段階のものは予想を遙かに超えて早く出来上がってしまい、2005年には実験艦がそのまま仮配備、2006年には本格的な実戦配備が始まってしまいました。
もちろん、性能・能力向上のための改善・改良が第2段階及びそれ以降のものとして今も続いています。
これを裏返すと、イージス・システムというのは現有能力のみならず、その潜在能力もそれぐらい高い、極めて優れたものであるということです。
このNTWの有効迎撃範囲がどれくらいか、というと ↓ のとおりです。
ここで注意していただきたいのは、ここで示す有効範囲は、図の位置のイージス艦が北朝鮮が発射した弾道弾を “この中で迎撃できる” (SM−3が命中する) というのではありません。
この範囲内に落下(弾着)するように北朝鮮から飛翔して来るものを “途中の大気圏外で” 迎撃することができる、という意味ですのでお間違えのないように。
SM−3を使用するイージス・システムによるNTWの有効範囲が如何に広いものかがお解りいただけると思います。
2009年03月18日
PAC−3では23区は守れません(7)
先の2001年の段階でこの状況を見通せた米海軍が、いかにイライラしたかがお解りいただけたと思います。
そこで業を煮やした当時の米海軍作戦部長(CNO)と米海兵隊総監(CMC)は、連名で統合幕僚会議議長(CJCS)に意見書 ↓ を出したんです。
要は、海外への展開・遠征とならざるを得ない米軍にとってのミサイル防衛は、能力が低い上に手間暇がかかるPAC−3や訳のわからないTHAADなどは放っておいて、それらよりは遙かに能力が高くかつ既に実用化の目処が立っているNAとNTWでいいじゃないか、ということです。
実に的を得た正論であったわけです。
ところが、これに対するCJCSの返答 ↓ は予想通りというか、実に政治的・官僚的なものでした。
形式的にはNAとNTWの能力を認めたものの、可及的速やかに陸上と海上の両方の大気圏内防御(Lower Tier)システムが必要としたのです。
縦深防御といえば聞こえはいいですが、早い話が“縄張り”“既得権”を認めたと言うことです。
がしかし、これは言い換えれば、いかに今後の兵力再編の中で、米陸軍が海軍・海兵隊に比較して兵力削減の危機感を抱いているか、の現れでもあります。
(その危機感の元は、冷戦終結後の今日、生起予想脅威に対する米国の必要軍事力の見積もりで、海軍・海兵隊(= 通常両者を合わせて「Naval Forces」と言います。)に対して、陸軍という元々の本質がいかに、即応性、柔軟性、多用途・多機能性、自立性、機動性と言った現代戦遂行上必須な点に欠けるかと言うことなんですが。 まっ、これの詳細については別の機会に。)
そこで業を煮やした当時の米海軍作戦部長(CNO)と米海兵隊総監(CMC)は、連名で統合幕僚会議議長(CJCS)に意見書 ↓ を出したんです。
要は、海外への展開・遠征とならざるを得ない米軍にとってのミサイル防衛は、能力が低い上に手間暇がかかるPAC−3や訳のわからないTHAADなどは放っておいて、それらよりは遙かに能力が高くかつ既に実用化の目処が立っているNAとNTWでいいじゃないか、ということです。
実に的を得た正論であったわけです。
ところが、これに対するCJCSの返答 ↓ は予想通りというか、実に政治的・官僚的なものでした。
形式的にはNAとNTWの能力を認めたものの、可及的速やかに陸上と海上の両方の大気圏内防御(Lower Tier)システムが必要としたのです。
縦深防御といえば聞こえはいいですが、早い話が“縄張り”“既得権”を認めたと言うことです。
がしかし、これは言い換えれば、いかに今後の兵力再編の中で、米陸軍が海軍・海兵隊に比較して兵力削減の危機感を抱いているか、の現れでもあります。
(その危機感の元は、冷戦終結後の今日、生起予想脅威に対する米国の必要軍事力の見積もりで、海軍・海兵隊(= 通常両者を合わせて「Naval Forces」と言います。)に対して、陸軍という元々の本質がいかに、即応性、柔軟性、多用途・多機能性、自立性、機動性と言った現代戦遂行上必須な点に欠けるかと言うことなんですが。 まっ、これの詳細については別の機会に。)
2009年03月22日
PAC−3では23区は守れません(8)
それでは、日本の場合に戻ってみましょう。
海自のイージス艦が持とうとしている、いえ既に持ちつつあるものは、この大気圏内防禦(Navy Area)システムなんでしょうか? それとも大気圏外防禦(Navy Theater Wide)システムなんでしょうか?
そう、後者のNTWなんです。 何故、前者は選択しなかったのでしょう?
実は、簡単で、海自が実に上手く立ち振る舞った結果なんです。
つまり、NAの能力は、米海軍は全てのイージス艦が持つことになります。 それに対してNTWは、米海軍でも特定のイージス艦のみ改造されてその能力を持つことになっています。
当初、米海軍では4隻のみがこれに改造されることになっていました。 勿論、NTWの成功により、現在はもっと隻数が増えましたが。
ということはどういうことになるのでしょうか?
ご存じのとおり、海自のイージス・システムは “ブラックボックス”、即ちその維持管理の全てを米海軍に任せる方式を採っています。
したがって、米海軍の全イージス艦がNAの能力を持つと言うことは、海自イージス艦と同時期の米海軍のイージス艦がNAの能力を有するようにシステムが更新されると、海自のイージス艦も “自動的に” この能力を持つことになります。
つまり、国会でわざわざ “イージス艦をTMD用に改造する” と言わなくても、黙っていても通常の米海軍による維持管理の中でこのNAの能力を持つのです。 PAC−3など問題にさえならない能力を。
後はまだ海自が持っていない SM−2 Block WA というミサイル弾だけを購入すればいいのです。 しかもこの弾は通常の対空用にも全く同じように使えますから、SM−2ミサイル弾の補充名目でも買うことは可能でしょう。
これに対してNTWの方は、イージス艦を“改造する” と言って防衛予算を新規に取らなければなりませんし、米海軍に対して “特別に改造してくれ” と注文を出さなければならないのです。
ですから、空自がまだ開発中のTHAADでなはしに、既に実戦化に進みつつあるPAC−3を選択したのに対し、海自は当時まだ開発中だったNTWを選択しました。 これがTMDについての防衛庁(当時)の防衛政策として決定されたのです。
海自は行く行くは全てのイージス艦をこのNTWに改造することにしています。 即ち、全艦がNTWとNAの両方の能力を有することになります。
これは凄いことです。
もう一度その能力を見てみましょう ↓ この両方の能力を全イージス艦が保有するのです。
それに対して空自は、既に示してきたように、TMDではせいぜい拠点防禦にしか役に立たないPAC−3 “しか” この先当分は持たないのです。
海上自衛隊は実に上手くやっていると思いませんか?
海自のイージス艦が持とうとしている、いえ既に持ちつつあるものは、この大気圏内防禦(Navy Area)システムなんでしょうか? それとも大気圏外防禦(Navy Theater Wide)システムなんでしょうか?
そう、後者のNTWなんです。 何故、前者は選択しなかったのでしょう?
実は、簡単で、海自が実に上手く立ち振る舞った結果なんです。
つまり、NAの能力は、米海軍は全てのイージス艦が持つことになります。 それに対してNTWは、米海軍でも特定のイージス艦のみ改造されてその能力を持つことになっています。
当初、米海軍では4隻のみがこれに改造されることになっていました。 勿論、NTWの成功により、現在はもっと隻数が増えましたが。
ということはどういうことになるのでしょうか?
ご存じのとおり、海自のイージス・システムは “ブラックボックス”、即ちその維持管理の全てを米海軍に任せる方式を採っています。
したがって、米海軍の全イージス艦がNAの能力を持つと言うことは、海自イージス艦と同時期の米海軍のイージス艦がNAの能力を有するようにシステムが更新されると、海自のイージス艦も “自動的に” この能力を持つことになります。
つまり、国会でわざわざ “イージス艦をTMD用に改造する” と言わなくても、黙っていても通常の米海軍による維持管理の中でこのNAの能力を持つのです。 PAC−3など問題にさえならない能力を。
後はまだ海自が持っていない SM−2 Block WA というミサイル弾だけを購入すればいいのです。 しかもこの弾は通常の対空用にも全く同じように使えますから、SM−2ミサイル弾の補充名目でも買うことは可能でしょう。
これに対してNTWの方は、イージス艦を“改造する” と言って防衛予算を新規に取らなければなりませんし、米海軍に対して “特別に改造してくれ” と注文を出さなければならないのです。
ですから、空自がまだ開発中のTHAADでなはしに、既に実戦化に進みつつあるPAC−3を選択したのに対し、海自は当時まだ開発中だったNTWを選択しました。 これがTMDについての防衛庁(当時)の防衛政策として決定されたのです。
海自は行く行くは全てのイージス艦をこのNTWに改造することにしています。 即ち、全艦がNTWとNAの両方の能力を有することになります。
これは凄いことです。
もう一度その能力を見てみましょう ↓ この両方の能力を全イージス艦が保有するのです。
それに対して空自は、既に示してきたように、TMDではせいぜい拠点防禦にしか役に立たないPAC−3 “しか” この先当分は持たないのです。
海上自衛隊は実に上手くやっていると思いませんか?
2009年03月23日
PAC−3では23区は守れません(9・完)
最後に、では日本のTMDはどうなんだ? 上手くいくのか? ということになります。
日本は米軍の事情とは全く異なり、純粋に “本土防衛” です。 どうすればその本土防衛という目的でTMDができるのか?
その為には可能な限り “日本全土をカバーできる” 態勢が必要です。 そしてこれはイージス艦の大気圏外防禦 (Navy Theater Wide) と大気圏内防禦 (Navy Area) の縦深防禦によって可能となってきます。
(まあ、空自のPAC−3は、それでも撃ち洩らした場合の、皇居や国会議事堂などの拠点を守るための最終用と考えればよいでしょうし、第一、それしか使い道がありません。 そんなものが “本土防衛” と呼べるかどうかは別として。)
しかし、この能力を上手く機能させるにはどうやったら良いのでしょうか?
現在防衛省・自衛隊が考えているTMD構想は簡単な図にすると ↓ のとおりであるとされています。
( 防衛省広報資料より )
考えてみて下さい。 こんなもの本当に有効に機能すると思いますか?
空自の航空総隊司令官が指揮官? ことTMDに関して、“目”も“耳”も“手”も“足”も満足に持っていない人が?
空自のバッジシステムなど、一体何時になったらイージスに並ぶ弾道弾の監視・探知・追尾能力を持つのか。 いま開発中の国産のシステムなどでも、恐らく無理かとの懸念も強いのです。
(それに、空自はその能力も、組織も、体質も、思考方法も、 “陸軍防空戦闘機隊” 以外の何ものでもありません。)
日本海にイージス艦を2〜3隻配備し、これらとAWACSを直接(バッジ抜きで)リンクで繋げば、今及び近い将来でもバッジシステムより余程能力が高いのです。
空自戦闘機の要撃管制でさえ、恐らくイージス艦の方が能力が高いでしょう。 (未だに空自はイージス艦にこれを実施させるテストさえしていません。 要撃管制こそは空自だけの特権であり、空自総隊司令官の存在理由だ、という(へ)理屈から。)
そのリンクを主体とする通信。 空自のバッジシステムは基本的にその中だけでクローズするように作られています。
したがって、これにイージス艦 (米艦も含めて) をリンクで繋ぐと、イージス艦が手足を縛られた格好になりその能力を封じられてしまいます。 十分に能力の発揮できない、極めておかしな通信システムしか持っていません。
米海軍艦艇 (とその上級司令部) と海自艦艇 (とその上級司令部) とはリンクで繋がっている方が十分にその能力を発揮できます。 それどころか、何れかの海自艦艇又は米海軍艦艇がバッジシステムとリンクを結ぶと、その艦艇は本来の艦艇間のリンク・ネットに入れない (=構成できない) のです。
しかも、この米海軍・海自のリンク内に入って来れるように空自のバッジシステムは出来ていません。 即ち、空自のバッジシステムは米海軍や海自のリンク・ネットと情報の共有をする機能・能力が無いのです。
(もしかして LINK-11 だけではなく LINK-16 があるではないか? と言う方もおられるかもしれません。 しかしこの LINK-16、如何に使いづらい、制約・制限の多いシステムであるかご存じでしょうか?)
そして何よりも “手” も “足” もありません。 PAC−3 しか無いのですから。
ハッキリ断言します。 日本を弾道弾から守れるシステムを持っているのは、米海軍と海自であって、在日米空軍も、そして勿論空自も “無い” んです。
これで空自総隊司令官がTMDで日本防衛を指揮する? 冗談でしょう。
空自が日本本土防空と言う任務を持つから? 前路続航だから? 縄張り、プライド、既得権だから? そんな名目や肩書きなど何の役にも立ちません。 少々汚い言葉で言えば “屁の突っ張りにもならない” ですね。 実際の実力・能力が何も伴っていないのですから。
では誰がやれば良いのか? これは実にハッキリしています。 目も耳も手も足も十分に備えている海自の 「自衛艦隊司令官」 です。
米海軍 (=米軍) の態度はハッキリしています。 例えばこうやって ↓ やるんです。
これらの全てがリアルタイムのリンクで繋がっています。
必要があれば、海自のイージス艦も普通の対空警戒から、瞬時にして米艦のようなTMD併用へ切り替えることも可能です。 縦深防禦態勢として。
(もう一度言いますが、空自のバッジシステムは物理的にこの中に入って来れないんです。 そういうシステムなんです。)
そしてこれの米側指揮官であり、実際にそのTMD兵力を持っている第7艦隊司令官と、通信が直接繋がっており、情報を共有でき、能力・兵力の相互補完ができる。 これは海自の自衛艦隊司令官しかいません。
こう言うと必ず質問する人がいます。 米軍が日本を守ってくれるという保証はあるのか? と。
あります。 在日米軍がいる限り、そして米大使館や企業が存在し、多数の米国市民がいる限り。
例え米国の領域外であろうとも、それらを守ることが米国の国家安全保障のトップに位置するからでり、その為には米国はその軍事力を行使することに何の躊躇もしないからです。
そして、それらを守るためのカバー・エリア内に日本全土が含まれる限り。 それが結果的に “間接的な防禦” であるとしても。
日本は米軍の事情とは全く異なり、純粋に “本土防衛” です。 どうすればその本土防衛という目的でTMDができるのか?
その為には可能な限り “日本全土をカバーできる” 態勢が必要です。 そしてこれはイージス艦の大気圏外防禦 (Navy Theater Wide) と大気圏内防禦 (Navy Area) の縦深防禦によって可能となってきます。
(まあ、空自のPAC−3は、それでも撃ち洩らした場合の、皇居や国会議事堂などの拠点を守るための最終用と考えればよいでしょうし、第一、それしか使い道がありません。 そんなものが “本土防衛” と呼べるかどうかは別として。)
しかし、この能力を上手く機能させるにはどうやったら良いのでしょうか?
現在防衛省・自衛隊が考えているTMD構想は簡単な図にすると ↓ のとおりであるとされています。
( 防衛省広報資料より )
考えてみて下さい。 こんなもの本当に有効に機能すると思いますか?
空自の航空総隊司令官が指揮官? ことTMDに関して、“目”も“耳”も“手”も“足”も満足に持っていない人が?
空自のバッジシステムなど、一体何時になったらイージスに並ぶ弾道弾の監視・探知・追尾能力を持つのか。 いま開発中の国産のシステムなどでも、恐らく無理かとの懸念も強いのです。
(それに、空自はその能力も、組織も、体質も、思考方法も、 “陸軍防空戦闘機隊” 以外の何ものでもありません。)
日本海にイージス艦を2〜3隻配備し、これらとAWACSを直接(バッジ抜きで)リンクで繋げば、今及び近い将来でもバッジシステムより余程能力が高いのです。
空自戦闘機の要撃管制でさえ、恐らくイージス艦の方が能力が高いでしょう。 (未だに空自はイージス艦にこれを実施させるテストさえしていません。 要撃管制こそは空自だけの特権であり、空自総隊司令官の存在理由だ、という(へ)理屈から。)
そのリンクを主体とする通信。 空自のバッジシステムは基本的にその中だけでクローズするように作られています。
したがって、これにイージス艦 (米艦も含めて) をリンクで繋ぐと、イージス艦が手足を縛られた格好になりその能力を封じられてしまいます。 十分に能力の発揮できない、極めておかしな通信システムしか持っていません。
米海軍艦艇 (とその上級司令部) と海自艦艇 (とその上級司令部) とはリンクで繋がっている方が十分にその能力を発揮できます。 それどころか、何れかの海自艦艇又は米海軍艦艇がバッジシステムとリンクを結ぶと、その艦艇は本来の艦艇間のリンク・ネットに入れない (=構成できない) のです。
しかも、この米海軍・海自のリンク内に入って来れるように空自のバッジシステムは出来ていません。 即ち、空自のバッジシステムは米海軍や海自のリンク・ネットと情報の共有をする機能・能力が無いのです。
(もしかして LINK-11 だけではなく LINK-16 があるではないか? と言う方もおられるかもしれません。 しかしこの LINK-16、如何に使いづらい、制約・制限の多いシステムであるかご存じでしょうか?)
そして何よりも “手” も “足” もありません。 PAC−3 しか無いのですから。
ハッキリ断言します。 日本を弾道弾から守れるシステムを持っているのは、米海軍と海自であって、在日米空軍も、そして勿論空自も “無い” んです。
これで空自総隊司令官がTMDで日本防衛を指揮する? 冗談でしょう。
空自が日本本土防空と言う任務を持つから? 前路続航だから? 縄張り、プライド、既得権だから? そんな名目や肩書きなど何の役にも立ちません。 少々汚い言葉で言えば “屁の突っ張りにもならない” ですね。 実際の実力・能力が何も伴っていないのですから。
では誰がやれば良いのか? これは実にハッキリしています。 目も耳も手も足も十分に備えている海自の 「自衛艦隊司令官」 です。
米海軍 (=米軍) の態度はハッキリしています。 例えばこうやって ↓ やるんです。
これらの全てがリアルタイムのリンクで繋がっています。
必要があれば、海自のイージス艦も普通の対空警戒から、瞬時にして米艦のようなTMD併用へ切り替えることも可能です。 縦深防禦態勢として。
(もう一度言いますが、空自のバッジシステムは物理的にこの中に入って来れないんです。 そういうシステムなんです。)
そしてこれの米側指揮官であり、実際にそのTMD兵力を持っている第7艦隊司令官と、通信が直接繋がっており、情報を共有でき、能力・兵力の相互補完ができる。 これは海自の自衛艦隊司令官しかいません。
こう言うと必ず質問する人がいます。 米軍が日本を守ってくれるという保証はあるのか? と。
あります。 在日米軍がいる限り、そして米大使館や企業が存在し、多数の米国市民がいる限り。
例え米国の領域外であろうとも、それらを守ることが米国の国家安全保障のトップに位置するからでり、その為には米国はその軍事力を行使することに何の躊躇もしないからです。
そして、それらを守るためのカバー・エリア内に日本全土が含まれる限り。 それが結果的に “間接的な防禦” であるとしても。
(この項終わり)
2010年08月15日
米海兵隊の大改革の必要性?
どうもマスコミの記者には理解できないものの一つに 「海兵隊」 というものがあるようです。
昨日の朝日新聞のニュースに次のような記事がありました。
ネットから落ちてしまうといけませんので、全文をここに引用させていただきます。
【ワシントン=村山祐介】ゲーツ米国防長官は12日、サンフランシスコで講演し、高性能対艦ミサイルの普及や海兵隊の運用の実態を踏まえ、海兵隊のあり方を抜本的に見直すようメイバス海軍長官らに指示したことを明らかにした。在沖縄海兵隊の将来像にも影響する可能性がある。
海兵隊は陸海空軍と並ぶ4軍の一つで、主に最前線で海などから上陸し、後から来る陸軍部隊などのために拠点を築く部隊。ゲーツ長官は、対艦ミサイルの長距離化や高精度化が進んだことで、海兵隊は「100キロ以上離れた艦船から上陸する必要があるかもしれない」と状況の変化を指摘。近年はイラクやアフガニスタンなど内陸部での長期駐留が増えたことで陸軍との違いが薄れたり、部隊の肥大化が進んだりしていることにも触れ、「今後数年、数十年の脅威に備えるために改革する必要がある」と強調した。
改革案は、コンウェイ海兵隊総司令官の後任として指名されているアモス副司令官を中心にまとめる。ゲーツ長官は改革の方向性について、「海兵隊特有の上陸能力は今後も必要になる」と説明。陸海空軍と重なる任務を整理する一方、最新兵器への対応や暴動・テロなど多様化する脅威への即応能力を強化するものとみられる。
海兵隊は約20万人規模で、日本には約1万7千人が駐留する。在日米軍再編で司令部中心に隊員約8千人とその家族がグアムに移転することになっている。
私に言わせれば “何を今さら” です。
このゲーツ長官の講演内容は、長官がやっと海兵隊というものを理解し、現状の誤った運用の方向から海兵隊の本来のあり方に戻すべきだ、と発言したと解釈すべきものなのです。
そして米陸軍の余りにもその頼りなさの故に、イラクでもアフガンでも本来任務ではないことに “使わざるを得ない” 現状を、そして米海兵隊がその特徴と能力の故に “便利屋” としてこき使われている現状を嘆いたと言うべきです。
対艦ミサイル云々、などと言っていますが、揚陸侵攻部隊にとって経空脅威の存在などは元から周知のことであって、それに対する措置が考えられていないはずが無いでしょう。
実際に、そのようなことは米海軍・海兵隊において既に10年も前から 「STOM (Ship to Object Maneuver)」 と 「OMFTS (Operational Maneuver from the Sea)」 という2つの新しいコンセプトを中核とする Transformation を実施中です。
そしてその実現の一部が、ハードとしてはAAAVであったりオスプレイなどであり、またソフトとしては 「SPMAGFT (Special Purpose Marine Air Ground Task Force)」 であり、「ESF (Expeditionary Strike Force)」 構想なのです。
ここで何故 「米海軍・海兵隊」 と言ったかと言いますと、米海兵隊というものが米海軍の一部であって、その両方を併せて 「Naval Forces」 あるいは「Naval Services」と称するからで、その実態については海軍の作戦の中で考えるべきものだからです。
これは、米海兵隊のトップである海兵隊総監の最も重要な役割と責任が、教育訓練と装備の整った実戦部隊である 「艦隊海兵隊 (Fleet Marines) 」 を米海軍のトップである海軍作戦部長に提供することであることを考えれば明らかでしょう。
そして上記の Transformation も、米海軍の新しいコンセプト 「Naval Power 21」 の一部として実現しようとしているものなのです。
これらのこと、そして米海軍・海兵隊が世界中で発生する危機に対してどの様に対応するのか、が判らないければ、米海兵隊のことは理解できません。
だから沖縄のこともトンチンカンな報道となるのです。
(注) : 本項で引用した画像は全て米軍の公式史料より。
昨日の朝日新聞のニュースに次のような記事がありました。
ネットから落ちてしまうといけませんので、全文をここに引用させていただきます。
(当該記事全文引用ここから)
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【ワシントン=村山祐介】ゲーツ米国防長官は12日、サンフランシスコで講演し、高性能対艦ミサイルの普及や海兵隊の運用の実態を踏まえ、海兵隊のあり方を抜本的に見直すようメイバス海軍長官らに指示したことを明らかにした。在沖縄海兵隊の将来像にも影響する可能性がある。
海兵隊は陸海空軍と並ぶ4軍の一つで、主に最前線で海などから上陸し、後から来る陸軍部隊などのために拠点を築く部隊。ゲーツ長官は、対艦ミサイルの長距離化や高精度化が進んだことで、海兵隊は「100キロ以上離れた艦船から上陸する必要があるかもしれない」と状況の変化を指摘。近年はイラクやアフガニスタンなど内陸部での長期駐留が増えたことで陸軍との違いが薄れたり、部隊の肥大化が進んだりしていることにも触れ、「今後数年、数十年の脅威に備えるために改革する必要がある」と強調した。
改革案は、コンウェイ海兵隊総司令官の後任として指名されているアモス副司令官を中心にまとめる。ゲーツ長官は改革の方向性について、「海兵隊特有の上陸能力は今後も必要になる」と説明。陸海空軍と重なる任務を整理する一方、最新兵器への対応や暴動・テロなど多様化する脅威への即応能力を強化するものとみられる。
海兵隊は約20万人規模で、日本には約1万7千人が駐留する。在日米軍再編で司令部中心に隊員約8千人とその家族がグアムに移転することになっている。
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(引用ここまで)
(引用ここまで)
私に言わせれば “何を今さら” です。
このゲーツ長官の講演内容は、長官がやっと海兵隊というものを理解し、現状の誤った運用の方向から海兵隊の本来のあり方に戻すべきだ、と発言したと解釈すべきものなのです。
そして米陸軍の余りにもその頼りなさの故に、イラクでもアフガンでも本来任務ではないことに “使わざるを得ない” 現状を、そして米海兵隊がその特徴と能力の故に “便利屋” としてこき使われている現状を嘆いたと言うべきです。
対艦ミサイル云々、などと言っていますが、揚陸侵攻部隊にとって経空脅威の存在などは元から周知のことであって、それに対する措置が考えられていないはずが無いでしょう。
実際に、そのようなことは米海軍・海兵隊において既に10年も前から 「STOM (Ship to Object Maneuver)」 と 「OMFTS (Operational Maneuver from the Sea)」 という2つの新しいコンセプトを中核とする Transformation を実施中です。
そしてその実現の一部が、ハードとしてはAAAVであったりオスプレイなどであり、またソフトとしては 「SPMAGFT (Special Purpose Marine Air Ground Task Force)」 であり、「ESF (Expeditionary Strike Force)」 構想なのです。
ここで何故 「米海軍・海兵隊」 と言ったかと言いますと、米海兵隊というものが米海軍の一部であって、その両方を併せて 「Naval Forces」 あるいは「Naval Services」と称するからで、その実態については海軍の作戦の中で考えるべきものだからです。
これは、米海兵隊のトップである海兵隊総監の最も重要な役割と責任が、教育訓練と装備の整った実戦部隊である 「艦隊海兵隊 (Fleet Marines) 」 を米海軍のトップである海軍作戦部長に提供することであることを考えれば明らかでしょう。
そして上記の Transformation も、米海軍の新しいコンセプト 「Naval Power 21」 の一部として実現しようとしているものなのです。
これらのこと、そして米海軍・海兵隊が世界中で発生する危機に対してどの様に対応するのか、が判らないければ、米海兵隊のことは理解できません。
だから沖縄のこともトンチンカンな報道となるのです。
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(注) : 本項で引用した画像は全て米軍の公式史料より。
2010年09月02日
電子戦のこと
某巨大掲示板での質疑応答を見ていて思ったのですが、当然と言えば当然なのかも知れませんが、あまり細かい話しは出てきません。
この分野については、実戦面での戦術的なことについては秘密程度が高いものの一つですから無理はありませんが、技術的・理論的なことについてもあまり知られていないのでしょう。
私達は職業柄色々な資料がありますから困ることは無いのですが ・・・・ 一般の方々にとってはやはりそれを一般刊行物に求めるしかないのか思いますが、そういえば日本語でこれを解説したものは、あまりいいものは見たことがないよね〜、っと。
英語版でしたら、一般刊行物にも良いものがあります。 と言うより大変に素晴らしいものが。 ちょっと高いですが。 ただ、英語になるとまず最初にその専門用語が少々難点かと。
そしてその次に問題となるのが、電子戦での最も対象となるレーダーのことについてでしょう。 これは基礎的理論のものでしたら日本語でもかなりのものがありますが、やはり少々お高い。 そして良いのはどうしても洋書になります。
ということで、もし皆さん方がお持ちで、あるいは読まれたもので、書籍やそれ以外で、これはいいよ〜というものがありましたらご紹介下さい。 どのようなものでこの方面の知識を吸収されているのか知りたいもので。
この分野については、実戦面での戦術的なことについては秘密程度が高いものの一つですから無理はありませんが、技術的・理論的なことについてもあまり知られていないのでしょう。
私達は職業柄色々な資料がありますから困ることは無いのですが ・・・・ 一般の方々にとってはやはりそれを一般刊行物に求めるしかないのか思いますが、そういえば日本語でこれを解説したものは、あまりいいものは見たことがないよね〜、っと。
英語版でしたら、一般刊行物にも良いものがあります。 と言うより大変に素晴らしいものが。 ちょっと高いですが。 ただ、英語になるとまず最初にその専門用語が少々難点かと。
そしてその次に問題となるのが、電子戦での最も対象となるレーダーのことについてでしょう。 これは基礎的理論のものでしたら日本語でもかなりのものがありますが、やはり少々お高い。 そして良いのはどうしても洋書になります。
ということで、もし皆さん方がお持ちで、あるいは読まれたもので、書籍やそれ以外で、これはいいよ〜というものがありましたらご紹介下さい。 どのようなものでこの方面の知識を吸収されているのか知りたいもので。
2010年11月17日
電子戦のこと (2)
前回、電子戦やその主たる対象となるレーダーのことについて、ご来訪の皆さんがどの様な刊行物や資料をお使いかをお訪ねしました。 が、考えてみれば実際にこれの実務に携わる専門家の方ならともかく、一般の研究家の方々がそう簡単に手の内を曝すはずがないわけで (^_^;
そこで初心者の方を対象に少しご紹介を。 まずはレーダーの基礎について。
◎ 『改訂 レーダ技術』 (電子情報通信学会編)
現在出ておりますのは1996年の改訂版ですが、レーダーに関して日本語で書かれた数少ない入門書で、まともなものとしては唯一と言えるでしょう。 今のところまだ新刊で入手できます。
非常に判りやすく書かれていますので、数式があまり得意でない方々にも理解し易いものです。 少々高い(4830円)ですが、これからレーダーを勉強される方にはまずお薦めの1冊です。
私が現役時代に使っていたのは、これの初版です。 もし最新の情報に拘らなければ、レーダーの基礎ならばこれの古本を入手されても充分でしょう。
◎ 『 Introduction to Radar Systems, 3rd Edition 』 (Merrill I. Skolnik)
2000年に第3版が出た、英語の入門書としてはベスト・セラーと言えるものでしょう。 上記 『レーダ技術』 のネタ本とも言えるもので、レーダーについて幅広い項目を網羅し、基礎から中級レベルまでの内容が判りやすく書かれています。
専門用語を除けば中学・高校レベルの英語で充分読みこなせると思いますが、多少の電子工学の知識があればなおベターです。 普通の方でしたらこれ1冊あればまず充分かと。
新刊でハードカバーですと約1万5千円ですが、ペーパーバックですと約7千円くらいでアマゾンなどから入手可能です。
私が現役時代に使っていたのは、これの第2版です。 同じくもし最新の情報に拘らなければ、これの古本を入手されても充分でしょう。
現在ではこの第2版の全文がネットで読めますが、解像度に少々難があるものの、これでも充分です。 興味のある方は探してみてください。 ただし、ファイル・トップの表紙画像が何故か第3版になっています(^_^;
◎ 『 Radar Handbook, 3rd Edition』 (Merrill I. Skolnik)
同じく Skolnik の著で、レーダーについての各項目についての詳細な技術解説書です。 2008年に現在の第3版が出ております。
まあ余程の人でない限りこの内容までは、とも思いますが ・・・・ それでも、それぞれの項目を眺めていくだけでもレーダーに興味がある方ならば、結構面白いものがあります。
ハードカバーしか出ていませんが、アマゾンなどから新刊で約1万4千円で入手可能です。
私が現役時代に使っていたのは、これの初版です。 これになるとやはり最新版が欲しいところですね (^_^)
で、この最新の第3版もフリー・オンラインで手に入りますので、必要な方は探してみてください
◎ 米海軍部内教育用テキスト
米海軍教育訓練コマンド (Navy Education and Training Command, NAVEDTRACOM) が出している米海軍における下士官兵用の基礎的な教育テキストで、レーダー関係では次のものなどがネットでも公開されています。
普通の方々の勉強用としては、これらのものでも充分と思います。 これらも興味のある方は探してみてください。
『 NAVEDTRA-14089 Electronics Technician, Volume 4 - Radar Systems 』
『 NAVEDTRA-14092 Electronics Technician, Volume 7 - Antennas and Wave Propagation 』
『 NAVEDTRA-14099 Fire Controlman, Volume 2 - Fire-Control Radar Fundamentals 』
『 NAVEDTRA-14099 Introduction to Electronic Emissions, Tubes, and Power Supplies 』
『 NAVEDTRA-14179 Introduction to Solid-State Devices and Power Supplies 』
『 NAVEDTRA-14180 Introduction to Amplifiers 』
『 NAVEDTRA-14181 Introduction to Wave-Generation and Wave-Shaping 』
『 NAVEDTRA-14182 Introduction to Wave Propagation, Transmission Lines, and Antennas 』
『 NAVEDTRA-14183 Microwave Principles 』
『 NAVEDTRA-14184 Modulation 』
『 NAVEDTRA-14186 Introduction to Microelectronics 』
『 NAVEDTRA-14187 Introduction to Synchros, Servos, and Gyros 』
『 NAVEDTRA-14190 Radar Principles 』
以上の他、レーダーに関する専門書は、やはり英語のものが多数出ており、しかも良いものが沢山あります。 上記の入門及び基礎以外ものは、皆さんの必要性及び興味に応じて入手されると宜しいかと。
そこで初心者の方を対象に少しご紹介を。 まずはレーダーの基礎について。
◎ 『改訂 レーダ技術』 (電子情報通信学会編)
現在出ておりますのは1996年の改訂版ですが、レーダーに関して日本語で書かれた数少ない入門書で、まともなものとしては唯一と言えるでしょう。 今のところまだ新刊で入手できます。
非常に判りやすく書かれていますので、数式があまり得意でない方々にも理解し易いものです。 少々高い(4830円)ですが、これからレーダーを勉強される方にはまずお薦めの1冊です。
私が現役時代に使っていたのは、これの初版です。 もし最新の情報に拘らなければ、レーダーの基礎ならばこれの古本を入手されても充分でしょう。
◎ 『 Introduction to Radar Systems, 3rd Edition 』 (Merrill I. Skolnik)
2000年に第3版が出た、英語の入門書としてはベスト・セラーと言えるものでしょう。 上記 『レーダ技術』 のネタ本とも言えるもので、レーダーについて幅広い項目を網羅し、基礎から中級レベルまでの内容が判りやすく書かれています。
専門用語を除けば中学・高校レベルの英語で充分読みこなせると思いますが、多少の電子工学の知識があればなおベターです。 普通の方でしたらこれ1冊あればまず充分かと。
新刊でハードカバーですと約1万5千円ですが、ペーパーバックですと約7千円くらいでアマゾンなどから入手可能です。
私が現役時代に使っていたのは、これの第2版です。 同じくもし最新の情報に拘らなければ、これの古本を入手されても充分でしょう。
現在ではこの第2版の全文がネットで読めますが、解像度に少々難があるものの、これでも充分です。 興味のある方は探してみてください。 ただし、ファイル・トップの表紙画像が何故か第3版になっています(^_^;
◎ 『 Radar Handbook, 3rd Edition』 (Merrill I. Skolnik)
同じく Skolnik の著で、レーダーについての各項目についての詳細な技術解説書です。 2008年に現在の第3版が出ております。
まあ余程の人でない限りこの内容までは、とも思いますが ・・・・ それでも、それぞれの項目を眺めていくだけでもレーダーに興味がある方ならば、結構面白いものがあります。
ハードカバーしか出ていませんが、アマゾンなどから新刊で約1万4千円で入手可能です。
私が現役時代に使っていたのは、これの初版です。 これになるとやはり最新版が欲しいところですね (^_^)
で、この最新の第3版もフリー・オンラインで手に入りますので、必要な方は探してみてください
◎ 米海軍部内教育用テキスト
米海軍教育訓練コマンド (Navy Education and Training Command, NAVEDTRACOM) が出している米海軍における下士官兵用の基礎的な教育テキストで、レーダー関係では次のものなどがネットでも公開されています。
普通の方々の勉強用としては、これらのものでも充分と思います。 これらも興味のある方は探してみてください。
『 NAVEDTRA-14089 Electronics Technician, Volume 4 - Radar Systems 』
『 NAVEDTRA-14092 Electronics Technician, Volume 7 - Antennas and Wave Propagation 』
『 NAVEDTRA-14099 Fire Controlman, Volume 2 - Fire-Control Radar Fundamentals 』
『 NAVEDTRA-14099 Introduction to Electronic Emissions, Tubes, and Power Supplies 』
『 NAVEDTRA-14179 Introduction to Solid-State Devices and Power Supplies 』
『 NAVEDTRA-14180 Introduction to Amplifiers 』
『 NAVEDTRA-14181 Introduction to Wave-Generation and Wave-Shaping 』
『 NAVEDTRA-14182 Introduction to Wave Propagation, Transmission Lines, and Antennas 』
『 NAVEDTRA-14183 Microwave Principles 』
『 NAVEDTRA-14184 Modulation 』
『 NAVEDTRA-14186 Introduction to Microelectronics 』
『 NAVEDTRA-14187 Introduction to Synchros, Servos, and Gyros 』
『 NAVEDTRA-14190 Radar Principles 』
以上の他、レーダーに関する専門書は、やはり英語のものが多数出ており、しかも良いものが沢山あります。 上記の入門及び基礎以外ものは、皆さんの必要性及び興味に応じて入手されると宜しいかと。
2010年11月19日
電子戦のこと (3)
続いて電子戦の基礎というか、入門用のものですが ・・・・ これが市販のものではなかなかこれというのが無いですね。
特に日本語のものとなると非常に難しいです。 例えば、アマゾンでも 「電子戦」 「電子兵器」 で検索してみると、次のものが出てきます。
『電子兵器 −見えない火花を散らす頭脳戦』 (立花正照、潮文社) ですが、これ1982年初版のものが未だに新刊で売られています。
この本、流石に立花氏の著作だけあって読み物として大変良く纏まっていますし、電子戦の基礎に関する記述もあちこちに散らばって解説されています。
まあ電子戦に関する最初の1冊としては手頃な読み物ですが、残念ながら電子戦そのものについてキチンと系統的に網羅した解説書ではありません。
その一方で、この本以外にはまともなものは1冊も出てきません。 売れないといればそうなのかもしれませんが、この辺が日本の軍事知識に関する底辺の浅さを如実に現していると言えるでしょう。
といっても、洋書でもお薦めできるのは非常に少ないのが現状です。 電子戦は軍事の中でも他の分野に比べると1段も2段も秘密程度が高いものの一つですから、仕方ないと言えばそうなのかもしれません。
その数少ないものから、皆さんにご推薦できるものには次のものがあります。
◎ 『 Introduction to Electronic Warfare 』 (Curtis Scheher, Artech House Radar Library)
1986年に初版が出たものですが、電子戦の基礎を解説した出版物としては未だにこれが一番でしょう。 アマゾンでも新品で1万4千円くらいするようですが、この方面に関心がある方は持っていても損のない1冊かと。
この本の著者が同じところから1999年に次のものを出しました。
こちらは新しい情報を網羅したものですが、これになるとちょっと「入門書」とは言い難く、完全な専門書ですね。 興味がある方は購入されるもの宜しいかと思いますが、1万8千円では ・・・・。
◎ 『 Applied ECM 』 (Leroy B. Van Brunt, EW Engineering )
1980年に2巻組として出版されたもので、1985年に第3巻が追加されたようです (これは私も未入手) が、既に絶版となっており、古本でしか手に入りません。 しかしながら、ECM (現在のEA、Electronic Attack) の各種テクニックについて網羅したものとしては未だに他の追従を許さない大作です。
電子戦の解説書というよりデータブックですが、この方面に関心のある方でしたら、初心者の方でも手元にあると大変に便利です。
◎ 『 Electronic Warfare and Radar Systems Engineering Handbook 』 (NAVWCWPNS TP8347)
米海軍の Naval Air Systems Command の Weapons Division がかつてそのWebサイトで公開していたもので、電子戦の入門書としても手頃なものであり、かつ各項目とも流石に実務者の手になるだけにユニークな内容です。 しかも、全約300頁にも関わらず、用語集及び略語集もそれぞれ25頁ずつあり大変に充実しております。
この本は、元々はHTML型式で公開されていたのですが、次第に各項目ごとPDF型式に置き換えられ、最終的にPDF版で1冊になったものです。
( HTML型式でWeb公開されていた当時のトップ画面 )
残念ながら現在では当該サイトからは削除されておりますが、替わりにネットのあちこちにUPされていますので、入手しておいて決して損のないものです。
なお、次のものなども出版されていますが、内容は初心者向けの入門書とは言い難い (これらを教科書にして講義を聴くなら面白いでしょうが) ので、購入の際にはその旨ご注意ください。
( 『 EW101 : A First Course in Electronic Warfare 』 )
( 『 Fundamentals of Electronic Warfare 』 )
さて、これで終わってしまっては、“桜と錨の気ままなブログ” にはなりませんので、もう少しご紹介を。
◎ 『電子戦参考資料』
昭和51年に米海軍の Naval Postgraduate School の David B. Hoislngton 教授が防衛大学校で講演した内容を纏めたものです。 内容的に既に最新技術のものとは言い難いですが、逆に電子戦の基礎が約70頁に実に要領よく纏められていると言えます。
この資料、当初は 「注意」 に指定されたものだったのですが、これは講演者に講演内容を文書にすることの了解を得るのを忘れたための処置でした (^_^;
今となっては現物が残っているところがあるのかどうか ・・・・? 一般の方々にとっても恰好の入門書となり得るだけに、ちょっと勿体ない気がします。
◎ 『電子戦の基礎』
米空軍士官学校の 『 Fundamentals of Electronic Warfare 』 (上でご紹介した同名の書籍とは全くの別物です) を昭和48年に海自が翻訳して部内配布したものです。 元々が士官候補生用の教科書であるだけに、電子戦の初歩から始まって非常に豊富な内容が判りやすく解説されています。
これも電子戦の基礎を学ぶには最高なんですが、実務に直接関係するものでないだけに今となっては海自そのものにこれが残っているかどうか判りません。
これもちょっと勿体ないですね。
◎ 『参考資料 電子戦』 (全2巻)
上でご紹介した 『Applied ECM』 全2巻を空自が昭和61年に翻訳して部内配布したものです。 空自はこの原書を大量に購入して各部隊に配布しましたが、英文のためにほとんど読まれることがなく、そのため仕方なしにわざわざ邦訳版を作ったものです。
2巻合わせて1600頁を越える大作で、訳もなかなか良いものです。 しかしながら、これも既に四半世紀も前のものであり、どれだけ残っているものか ・・・・ ?
◎ 『電子戦の原理と応用』 (全2巻)
これも電子戦の入門書としては恰好のものです。 昭和62年に海自で作成し幹部教育における参考資料として使用したものですが、恐らく上でご紹介した 『 Introduction to Electronic Warfare 』 が主たるネタ本となっているものと考えられます。
第1巻がECM (現在のEA)、第2巻がECCM (現在のEP、Electronic Protection) で、2巻合わせて約630頁あります。 解説書として内容も豊富でかつ非常によく纏められており、用語集も充実しています。
これも多分もう残っていないでしょうねぇ。 勿体ない。
えっ、最近の部内資料の紹介はないのか、ですか?
残念ながら、例の 「孫崎事件」 などが続いた結果として、教科書類はもちろんのこと、こういった秘密ではない教育参考資料までも、一切部外に出ることはなくなってしまいました。 したがって、どの様なものがあるかさえご紹介することができません。 残念なことですね。
特に日本語のものとなると非常に難しいです。 例えば、アマゾンでも 「電子戦」 「電子兵器」 で検索してみると、次のものが出てきます。
『電子兵器 −見えない火花を散らす頭脳戦』 (立花正照、潮文社) ですが、これ1982年初版のものが未だに新刊で売られています。
この本、流石に立花氏の著作だけあって読み物として大変良く纏まっていますし、電子戦の基礎に関する記述もあちこちに散らばって解説されています。
まあ電子戦に関する最初の1冊としては手頃な読み物ですが、残念ながら電子戦そのものについてキチンと系統的に網羅した解説書ではありません。
その一方で、この本以外にはまともなものは1冊も出てきません。 売れないといればそうなのかもしれませんが、この辺が日本の軍事知識に関する底辺の浅さを如実に現していると言えるでしょう。
といっても、洋書でもお薦めできるのは非常に少ないのが現状です。 電子戦は軍事の中でも他の分野に比べると1段も2段も秘密程度が高いものの一つですから、仕方ないと言えばそうなのかもしれません。
その数少ないものから、皆さんにご推薦できるものには次のものがあります。
◎ 『 Introduction to Electronic Warfare 』 (Curtis Scheher, Artech House Radar Library)
1986年に初版が出たものですが、電子戦の基礎を解説した出版物としては未だにこれが一番でしょう。 アマゾンでも新品で1万4千円くらいするようですが、この方面に関心がある方は持っていても損のない1冊かと。
この本の著者が同じところから1999年に次のものを出しました。
こちらは新しい情報を網羅したものですが、これになるとちょっと「入門書」とは言い難く、完全な専門書ですね。 興味がある方は購入されるもの宜しいかと思いますが、1万8千円では ・・・・。
◎ 『 Applied ECM 』 (Leroy B. Van Brunt, EW Engineering )
1980年に2巻組として出版されたもので、1985年に第3巻が追加されたようです (これは私も未入手) が、既に絶版となっており、古本でしか手に入りません。 しかしながら、ECM (現在のEA、Electronic Attack) の各種テクニックについて網羅したものとしては未だに他の追従を許さない大作です。
電子戦の解説書というよりデータブックですが、この方面に関心のある方でしたら、初心者の方でも手元にあると大変に便利です。
◎ 『 Electronic Warfare and Radar Systems Engineering Handbook 』 (NAVWCWPNS TP8347)
米海軍の Naval Air Systems Command の Weapons Division がかつてそのWebサイトで公開していたもので、電子戦の入門書としても手頃なものであり、かつ各項目とも流石に実務者の手になるだけにユニークな内容です。 しかも、全約300頁にも関わらず、用語集及び略語集もそれぞれ25頁ずつあり大変に充実しております。
この本は、元々はHTML型式で公開されていたのですが、次第に各項目ごとPDF型式に置き換えられ、最終的にPDF版で1冊になったものです。
( HTML型式でWeb公開されていた当時のトップ画面 )
残念ながら現在では当該サイトからは削除されておりますが、替わりにネットのあちこちにUPされていますので、入手しておいて決して損のないものです。
なお、次のものなども出版されていますが、内容は初心者向けの入門書とは言い難い (これらを教科書にして講義を聴くなら面白いでしょうが) ので、購入の際にはその旨ご注意ください。
( 『 EW101 : A First Course in Electronic Warfare 』 )
( 『 Fundamentals of Electronic Warfare 』 )
さて、これで終わってしまっては、“桜と錨の気ままなブログ” にはなりませんので、もう少しご紹介を。
◎ 『電子戦参考資料』
昭和51年に米海軍の Naval Postgraduate School の David B. Hoislngton 教授が防衛大学校で講演した内容を纏めたものです。 内容的に既に最新技術のものとは言い難いですが、逆に電子戦の基礎が約70頁に実に要領よく纏められていると言えます。
この資料、当初は 「注意」 に指定されたものだったのですが、これは講演者に講演内容を文書にすることの了解を得るのを忘れたための処置でした (^_^;
今となっては現物が残っているところがあるのかどうか ・・・・? 一般の方々にとっても恰好の入門書となり得るだけに、ちょっと勿体ない気がします。
◎ 『電子戦の基礎』
米空軍士官学校の 『 Fundamentals of Electronic Warfare 』 (上でご紹介した同名の書籍とは全くの別物です) を昭和48年に海自が翻訳して部内配布したものです。 元々が士官候補生用の教科書であるだけに、電子戦の初歩から始まって非常に豊富な内容が判りやすく解説されています。
これも電子戦の基礎を学ぶには最高なんですが、実務に直接関係するものでないだけに今となっては海自そのものにこれが残っているかどうか判りません。
これもちょっと勿体ないですね。
◎ 『参考資料 電子戦』 (全2巻)
上でご紹介した 『Applied ECM』 全2巻を空自が昭和61年に翻訳して部内配布したものです。 空自はこの原書を大量に購入して各部隊に配布しましたが、英文のためにほとんど読まれることがなく、そのため仕方なしにわざわざ邦訳版を作ったものです。
2巻合わせて1600頁を越える大作で、訳もなかなか良いものです。 しかしながら、これも既に四半世紀も前のものであり、どれだけ残っているものか ・・・・ ?
◎ 『電子戦の原理と応用』 (全2巻)
これも電子戦の入門書としては恰好のものです。 昭和62年に海自で作成し幹部教育における参考資料として使用したものですが、恐らく上でご紹介した 『 Introduction to Electronic Warfare 』 が主たるネタ本となっているものと考えられます。
第1巻がECM (現在のEA)、第2巻がECCM (現在のEP、Electronic Protection) で、2巻合わせて約630頁あります。 解説書として内容も豊富でかつ非常によく纏められており、用語集も充実しています。
これも多分もう残っていないでしょうねぇ。 勿体ない。
えっ、最近の部内資料の紹介はないのか、ですか?
残念ながら、例の 「孫崎事件」 などが続いた結果として、教科書類はもちろんのこと、こういった秘密ではない教育参考資料までも、一切部外に出ることはなくなってしまいました。 したがって、どの様なものがあるかさえご紹介することができません。 残念なことですね。
2010年11月23日
電子戦のこと (4)
電子戦関連の書籍や資料についてご紹介したついでに、ちょっと補足しておきましょう。
前回の (3) でも記注しましたが、これまで電子戦 (Electronic Warfare) については大きく次の3つに分類されてきました。
ESM : Electronic Warfare Support Measure、電子戦支援対策
ECM : Electronic Counter Measure、電子対策
ECCM : Electronic Counter-counter Measure、対電子対策
この3つの用語については、皆さんもよく耳にされておられると思います。 これらが現在では次の様に変わりました。
ESM → ES (Electronic Warfare Support、電子戦支援)
ECM → EA (Electronic Attack、電子攻撃)
ECCM → EP (Electronic Protection、電子防護)
もちろん、単に名称が変わっただけではなく、その内容も若干変わってきました。 電子戦におけるこれらの位置付けについては、例えば次の図をご覧ください。
( 後述の 「JP 3-13.1」 より )
これは、戦闘様相の変化に伴い、C2W (Command and Control Warfare)、IW (Information Warfare)、NCW (Network Centric Warfare) などの概念が次々と出てきたことによります。
現在の米軍における情報戦 (IW) の中での位置付けについては、次のとおりとされています。
( 後述の 「AFD 2-5.1」 より )
当然ながらこれらの概念は、米軍が変わればそのまま自衛隊もほぼ自動的に変わるわけで (^_^;
そこで、現在の米軍における電子戦の概念やドクトリンについてですが、次のものが公表されています。 これらのものは、言わば “考え方” の話しですから秘密でも何でもありません。
( 統合軍 『JP 3-13.1 Electronic Warfare』 )
( 陸軍 『FM 34-1 Intelligence and Electronic Warfare Operations』 )
( 空軍 『AFD 2-5.1 Electronic Warfare』 )
( 海兵隊 『MCWP 3-40.5 Electronic Warfare』 )
では、米海軍は何故この種のドクトリンが無いのか?
まず一つはわざわざ文書にして出す必要性がないことと、二つ目のは陸軍や空軍とは少し考え方が違うということがあります。 それは米海軍のドクトリン全般の現状をご覧いただければご理解いただけるでしょう。
米海軍にしてみれば、海の上でのことに “統合” など余計なお世話、陸・空軍が海軍に合わせればそれで充分と考えているのでしょう。
その代わり、戦術・テクニックなども含めた電子戦関係のマニュアルや資料類には多くのものがあります。 もちろんこれらは少なくとも 「極秘」 以上で、部外に出てくることは全くと言ってよいくらいありません。
では電子戦の実際面ではどこが最も進んでいるのか?
これはもちろん当然のこととして米海軍が圧倒的です。 米空軍では? と思っている方もおられるかも知れませんが、一般にも出回っている内容を垣間見るだけでもそれはお判りいただけるかと。
これは我国の海自と空自を比較しても同じことです。 もちろん我が空自などはちょっとお粗末に過ぎるのですが (^_^;
前回の (3) でも記注しましたが、これまで電子戦 (Electronic Warfare) については大きく次の3つに分類されてきました。
ESM : Electronic Warfare Support Measure、電子戦支援対策
ECM : Electronic Counter Measure、電子対策
ECCM : Electronic Counter-counter Measure、対電子対策
この3つの用語については、皆さんもよく耳にされておられると思います。 これらが現在では次の様に変わりました。
ESM → ES (Electronic Warfare Support、電子戦支援)
ECM → EA (Electronic Attack、電子攻撃)
ECCM → EP (Electronic Protection、電子防護)
もちろん、単に名称が変わっただけではなく、その内容も若干変わってきました。 電子戦におけるこれらの位置付けについては、例えば次の図をご覧ください。
( 後述の 「JP 3-13.1」 より )
これは、戦闘様相の変化に伴い、C2W (Command and Control Warfare)、IW (Information Warfare)、NCW (Network Centric Warfare) などの概念が次々と出てきたことによります。
現在の米軍における情報戦 (IW) の中での位置付けについては、次のとおりとされています。
( 後述の 「AFD 2-5.1」 より )
当然ながらこれらの概念は、米軍が変わればそのまま自衛隊もほぼ自動的に変わるわけで (^_^;
そこで、現在の米軍における電子戦の概念やドクトリンについてですが、次のものが公表されています。 これらのものは、言わば “考え方” の話しですから秘密でも何でもありません。
( 統合軍 『JP 3-13.1 Electronic Warfare』 )
( 陸軍 『FM 34-1 Intelligence and Electronic Warfare Operations』 )
( 空軍 『AFD 2-5.1 Electronic Warfare』 )
( 海兵隊 『MCWP 3-40.5 Electronic Warfare』 )
では、米海軍は何故この種のドクトリンが無いのか?
まず一つはわざわざ文書にして出す必要性がないことと、二つ目のは陸軍や空軍とは少し考え方が違うということがあります。 それは米海軍のドクトリン全般の現状をご覧いただければご理解いただけるでしょう。
米海軍にしてみれば、海の上でのことに “統合” など余計なお世話、陸・空軍が海軍に合わせればそれで充分と考えているのでしょう。
その代わり、戦術・テクニックなども含めた電子戦関係のマニュアルや資料類には多くのものがあります。 もちろんこれらは少なくとも 「極秘」 以上で、部外に出てくることは全くと言ってよいくらいありません。
では電子戦の実際面ではどこが最も進んでいるのか?
これはもちろん当然のこととして米海軍が圧倒的です。 米空軍では? と思っている方もおられるかも知れませんが、一般にも出回っている内容を垣間見るだけでもそれはお判りいただけるかと。
これは我国の海自と空自を比較しても同じことです。 もちろん我が空自などはちょっとお粗末に過ぎるのですが (^_^;
2012年12月24日
拙稿もう1本 『丸』 2月号別冊
実は2月号ではもう一本書かせて貰いました。
この2月号には別冊付録として 『海自護衛艦ハンドブック』 というのが付いています。
その巻頭として私の持論を書かせて貰いました。
基本は、これからの護衛艦はどうあるべきか、なのですが、創設期から今日までの流れを無視するわけにはいきませんので、今までの経緯と現状を概観し、最後に今後の護衛艦のあり方について述べております。
もちろん紙幅の関係がありますので、詳しく論ずる訳にはいきませんでホンのさわりですが、皆さん方がこのテーマについてお考えになる時の何某かの参考としていただければと思います。
そして私らしく少し辛口の論評も加えて (^_^;
こちらも、書店で見かけた時には是非一度手にとってご笑覧下さい。
この2月号には別冊付録として 『海自護衛艦ハンドブック』 というのが付いています。
その巻頭として私の持論を書かせて貰いました。
『現代の海自護衛艦論』
基本は、これからの護衛艦はどうあるべきか、なのですが、創設期から今日までの流れを無視するわけにはいきませんので、今までの経緯と現状を概観し、最後に今後の護衛艦のあり方について述べております。
もちろん紙幅の関係がありますので、詳しく論ずる訳にはいきませんでホンのさわりですが、皆さん方がこのテーマについてお考えになる時の何某かの参考としていただければと思います。
そして私らしく少し辛口の論評も加えて (^_^;
こちらも、書店で見かけた時には是非一度手にとってご笑覧下さい。
2013年07月31日
米海兵隊の運用法 (1)
はじめに
7月26日防衛省は 「防衛力の在り方検討のための委員会」 が纏めた 『防衛力の在り方検討に関する中間報告』 を公表しました。
( 同中間報告書表紙より )
これについてはマスコミによっても広く報道されていますので、ご来訪の皆さんもよくご存じのここと思います。
その中で、「島嶼部に対する攻撃への対応」 として次のことが盛り込まれています。
「海兵隊的機能」 という言葉が2回出てきます。 これが 「水陸両用機能」 を指すのか、それとも 「機動展開能力や水陸両用機能」 を指すのかが不明瞭なところがありますが ・・・・
何れにしても、その後に出てくる 「水陸両用部隊の充実・強化」 という表現と併せて見ると、この報告書を纏めた委員会の人達も、また防衛省自身も、本当に 「海兵隊的機能」 という言葉の 「海兵隊」 というものの本質・実態が判っているのか? と疑問に思わされます。
そもそも、自衛隊には 「水陸両用部隊」 など存在さえしないのですから。 (海自に 「おおすみ」 型輸送艦やその搭載 LCAC があるではないか、などという冗談は言わないで下さい。)
もっとも危惧するのは、旧陸軍のような単に “陸兵を海岸に揚陸できればそれでよし” 程度の認識ではないのかということです。
もし、長崎の相浦に駐屯する陸自の西方普通科連隊などに AAV-7 を配備してこれで訓練をし、海自の輸送艦で運んで統合運用すれば “海兵隊もどき” になる、などと考えているとしたらとんでもない話しです。
そして、例えば現代における世界最強の海兵隊を自他共に認める米海兵隊の実際・実態をどこまで理解できているのか? という疑問です。
そこで、私がかつて防大教授の時に学生に講義したものをもとに、これに最近の動向を加味した米海兵隊、そして米海軍両用戦部隊の実態・実際について、何回かに分けてお話しをしてみたいと思います。
( 同講義資料PPトップより )
次 : 「その2 米海兵隊とは何か」
7月26日防衛省は 「防衛力の在り方検討のための委員会」 が纏めた 『防衛力の在り方検討に関する中間報告』 を公表しました。
( 同中間報告書表紙より )
これについてはマスコミによっても広く報道されていますので、ご来訪の皆さんもよくご存じのここと思います。
その中で、「島嶼部に対する攻撃への対応」 として次のことが盛り込まれています。
事態の推移に応じ、部隊を迅速に展開するため、機動展開能力や水陸両用機能 (海兵隊的機能) を確保することが重要となる。 具体的には ・・・・ (中略) ・・・・ 事態への迅速な対応に資する機動展開能力や水陸両用機能 (海兵隊的機能) の着実な整備のため、部隊・装備の配備、統合輸送の充実・強化や民間輸送力の活用、補給拠点の整備、水陸両用部隊の充実・強化等 について検討する。 |
( 赤字 及び 太字表示 は管理人による )
「海兵隊的機能」 という言葉が2回出てきます。 これが 「水陸両用機能」 を指すのか、それとも 「機動展開能力や水陸両用機能」 を指すのかが不明瞭なところがありますが ・・・・
何れにしても、その後に出てくる 「水陸両用部隊の充実・強化」 という表現と併せて見ると、この報告書を纏めた委員会の人達も、また防衛省自身も、本当に 「海兵隊的機能」 という言葉の 「海兵隊」 というものの本質・実態が判っているのか? と疑問に思わされます。
そもそも、自衛隊には 「水陸両用部隊」 など存在さえしないのですから。 (海自に 「おおすみ」 型輸送艦やその搭載 LCAC があるではないか、などという冗談は言わないで下さい。)
もっとも危惧するのは、旧陸軍のような単に “陸兵を海岸に揚陸できればそれでよし” 程度の認識ではないのかということです。
もし、長崎の相浦に駐屯する陸自の西方普通科連隊などに AAV-7 を配備してこれで訓練をし、海自の輸送艦で運んで統合運用すれば “海兵隊もどき” になる、などと考えているとしたらとんでもない話しです。
そして、例えば現代における世界最強の海兵隊を自他共に認める米海兵隊の実際・実態をどこまで理解できているのか? という疑問です。
そこで、私がかつて防大教授の時に学生に講義したものをもとに、これに最近の動向を加味した米海兵隊、そして米海軍両用戦部隊の実態・実際について、何回かに分けてお話しをしてみたいと思います。
( 同講義資料PPトップより )
(この項続く)
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次 : 「その2 米海兵隊とは何か」
2013年08月04日
米海兵隊の運用法 (2)
米海兵隊とは
以前ネット上のさる掲示板でもこの “米海兵隊とは何か?” ということについて議論が交わされていたことがありました。 もちろん私は ROM の傍観でしたが、基本的には 「米4軍中の1軍種」 ということの認識では一致していたと記憶しています。
確かに行政組織として、また海兵隊の処遇・栄誉上の問題からすれば 「Four Armed Forces」 の一つというのは正しいでしょう。
そして海兵隊トップの海兵隊総監 (Commandant of the Marine Corps) は、大統領及び国防長官に対する米軍全体の統合運用に関する補佐機関たる統合幕僚本部 (Joint Chief of Staff、JCS) において、陸海空3軍のトップと並んでそのメンバーの一人でもあります。
( 実際には JCS は議長・副議長の元に、上記に州兵局長 (chief of national gurd bureaue) を加えたメンバーの他、多数の下部部局などで構成されています。 もちろん、大統領や国防長官には専門事項は判りませんので、実質的には JCS が統合部隊のみならず全米軍の運用・作戦を握っているのですが。)
しかしながら、海兵隊の作戦部隊 (Operational Force) としての役割、位置付けの実際・実態はどうなのでしょう? 本当に 「米4軍中の1軍種」 なのでしょうか?
そして当の陸上自衛隊でさえ、米海兵隊を陸軍と並ぶ自分のカウンターパートとして見ています。 要するに、単なる上陸作戦が得意な陸上戦闘兵力であると。
実はこれでは全く米海兵隊 (U.S. Marine Corps) の本質について言い表していないと言えます。
そこでまず、米国の法律ではどのように定められているか、から見てみましょう。
米海兵隊については、合衆国法典の第5063 (a) 項 (U.S. Code 5063, Chapter 507, Part 1, Substitle C, Title 10) で次の様に定められています。
これを要するに、米海兵隊の大きな役割は次の2つといえます。
1.艦隊海兵隊 (Fleet Marine Forces、FMF) を艦隊へ提供する
2.保全隊 (Security Detachments) を艦隊・基地・在外公館などへ提供する
2.については、例えば虎ノ門の在日米大使館の警備任務に海兵隊員が就いているのをご覧になったことがある方もおられると思います。
これも米海兵隊にとっては正規の任務の一つではありますが、メインではありませんし、本題から離れますので省略し、以後本項で取り上げるのは1.の FMF についてです。
では、FMF とは米軍全体の組織編成の中でどこに位置し、どこに所属するのでしょうか?
次の図は、米海軍の公式サイトで米海軍の組織図として掲げられているものです。
赤丸で示したところに注意して下さい。 そうです、FMF とは米海軍の太平洋艦隊 (Pacific Fleet) 及び大西洋艦隊 (Atlantic Fleet) の一部なのです。
これを更に横須賀を母港とする米第7艦隊の任務編成の例で見てみましょう。 これも第7艦隊の公式サイトに掲げられているものです。
(この任務編成は年代によって多少変わってきていますが、TF−70、72、74、76、79の基本は変わりません。 7艦隊のメインの部隊ですから。)
そこで、右下に TF-79 (Landing Force, 7th Fleet) とありますが、これは何でしょう?
実はこれが沖縄の米第3海兵師団 (3rd Marine Division) や岩国の米第1海兵航空団 (1st Marine Aircraft Wing) を主体とする第3海兵遠征軍、即ち III MEF (3rd Marine Expeditionary Force) (通常 “スリー・メフ” と呼びます) のことであり、上記 FMF の一部なのです。
つまり、FMF が米海兵隊全体の主要部を占めるものでることを考えれば、実質・実態的に “米海兵隊は米海軍の一部” なのです。
これが米海兵隊についての基本中の基本であって、この認識なしには米海兵隊は語れませんし、その実態は見えてこないのです。
このため、
公式文書や論文などで 「Naval Forces」 あるいは 「Naval Services」 と言った場合には米海軍及び米海兵隊を併せた (場合によっては沿岸警備隊も含む) ものを意味します。
また単に 「Navy」 と言った場合には、米海軍と米海兵隊を併せたもの意味する場合と、米海軍そのものを意味する場合とがあり、このどちらであるかはその文書の主題や前後の文脈の中で判断することになります。
もちろん 「US Navy」 と言えば通常は狭義の米海軍のことになりますが、現実としては米海軍と米海兵隊は一体となっていますので、厳密に両者を区別することは不可能と言えます。
( 例えば、横須賀の在日米海軍司令部には海兵隊士官の作戦部幕僚が配置されていますが、彼は別に海兵隊に関する専門事項を所掌しているわけではなく、一般幕僚として作戦部の業務を遂行しています。)
これを考えれば、行政組織としても、何故今日に至るも米海兵隊は陸海空軍3省と並ぶ独立した米海兵隊省ではなく、米海軍省 (The Department of the Navy、DON) に含まれ、何故海軍長官(The Secretary of the Navy)の下に置かれるのかがお判りいただけるとと思います。
また海兵隊士官の養成機関として、何故 「海兵隊士官学校」 (US Marine Corps Academy) と言うものが存在せず、通称 「アナポリス」 と呼ばれる 「海軍兵学校」 (US Naval Academy) で海軍士官養成と一緒になっているかの理由もお判りいただけるでしょう。
( 最近ではウェストポイント、即ち陸軍士官学校 (US Military Academy) からも海兵隊へ進む道が出来ているようですが、あくまでも少数の例外的存在です。)
前 : 「その1 はじめに」
次 : 「その3 海兵空地任務部隊 MAGTF」
以前ネット上のさる掲示板でもこの “米海兵隊とは何か?” ということについて議論が交わされていたことがありました。 もちろん私は ROM の傍観でしたが、基本的には 「米4軍中の1軍種」 ということの認識では一致していたと記憶しています。
確かに行政組織として、また海兵隊の処遇・栄誉上の問題からすれば 「Four Armed Forces」 の一つというのは正しいでしょう。
そして海兵隊トップの海兵隊総監 (Commandant of the Marine Corps) は、大統領及び国防長官に対する米軍全体の統合運用に関する補佐機関たる統合幕僚本部 (Joint Chief of Staff、JCS) において、陸海空3軍のトップと並んでそのメンバーの一人でもあります。
( 実際には JCS は議長・副議長の元に、上記に州兵局長 (chief of national gurd bureaue) を加えたメンバーの他、多数の下部部局などで構成されています。 もちろん、大統領や国防長官には専門事項は判りませんので、実質的には JCS が統合部隊のみならず全米軍の運用・作戦を握っているのですが。)
しかしながら、海兵隊の作戦部隊 (Operational Force) としての役割、位置付けの実際・実態はどうなのでしょう? 本当に 「米4軍中の1軍種」 なのでしょうか?
そして当の陸上自衛隊でさえ、米海兵隊を陸軍と並ぶ自分のカウンターパートとして見ています。 要するに、単なる上陸作戦が得意な陸上戦闘兵力であると。
実はこれでは全く米海兵隊 (U.S. Marine Corps) の本質について言い表していないと言えます。
そこでまず、米国の法律ではどのように定められているか、から見てみましょう。
米海兵隊については、合衆国法典の第5063 (a) 項 (U.S. Code 5063, Chapter 507, Part 1, Substitle C, Title 10) で次の様に定められています。
USC : Title 10 - ARMED FORCES Subtitle C - Navy and Marine Corps Part I - ORGANIZATION Chapter 507 - COMPOSITION OF THE DEPARTMENT OF THE NAVY § 5063 - United States Marine Corps: composition; functions (a) The Marine Corps, within the Department of the Navy, shall be so organized as to include not less than three combat divisions and three air wings, and such other land combat, aviation, and other services as may be organic therein. The Marine Corps shall be organized, trained, and equipped to provide fleet marine forces of combined arms, together with supporting air components, for service with the fleet in the seizure or defense of advanced naval bases and for the conduct of such land operations as may be essential to the prosecution of a naval campaign. In addition, the Marine Corps shall provide detachments and organizations for service on armed vessels of the Navy, shall provide security detachments for the protection of naval property at naval stations and bases, and shall perform such other duties as the President may direct. However, these additional duties may not detract from or interfere with the operations for which the Marine Corps is primarily organized. |
( 赤色は管理人が付加 )
これを要するに、米海兵隊の大きな役割は次の2つといえます。
1.艦隊海兵隊 (Fleet Marine Forces、FMF) を艦隊へ提供する
2.保全隊 (Security Detachments) を艦隊・基地・在外公館などへ提供する
2.については、例えば虎ノ門の在日米大使館の警備任務に海兵隊員が就いているのをご覧になったことがある方もおられると思います。
これも米海兵隊にとっては正規の任務の一つではありますが、メインではありませんし、本題から離れますので省略し、以後本項で取り上げるのは1.の FMF についてです。
では、FMF とは米軍全体の組織編成の中でどこに位置し、どこに所属するのでしょうか?
次の図は、米海軍の公式サイトで米海軍の組織図として掲げられているものです。
赤丸で示したところに注意して下さい。 そうです、FMF とは米海軍の太平洋艦隊 (Pacific Fleet) 及び大西洋艦隊 (Atlantic Fleet) の一部なのです。
これを更に横須賀を母港とする米第7艦隊の任務編成の例で見てみましょう。 これも第7艦隊の公式サイトに掲げられているものです。
(この任務編成は年代によって多少変わってきていますが、TF−70、72、74、76、79の基本は変わりません。 7艦隊のメインの部隊ですから。)
そこで、右下に TF-79 (Landing Force, 7th Fleet) とありますが、これは何でしょう?
実はこれが沖縄の米第3海兵師団 (3rd Marine Division) や岩国の米第1海兵航空団 (1st Marine Aircraft Wing) を主体とする第3海兵遠征軍、即ち III MEF (3rd Marine Expeditionary Force) (通常 “スリー・メフ” と呼びます) のことであり、上記 FMF の一部なのです。
つまり、FMF が米海兵隊全体の主要部を占めるものでることを考えれば、実質・実態的に “米海兵隊は米海軍の一部” なのです。
これが米海兵隊についての基本中の基本であって、この認識なしには米海兵隊は語れませんし、その実態は見えてこないのです。
このため、
公式文書や論文などで 「Naval Forces」 あるいは 「Naval Services」 と言った場合には米海軍及び米海兵隊を併せた (場合によっては沿岸警備隊も含む) ものを意味します。
また単に 「Navy」 と言った場合には、米海軍と米海兵隊を併せたもの意味する場合と、米海軍そのものを意味する場合とがあり、このどちらであるかはその文書の主題や前後の文脈の中で判断することになります。
もちろん 「US Navy」 と言えば通常は狭義の米海軍のことになりますが、現実としては米海軍と米海兵隊は一体となっていますので、厳密に両者を区別することは不可能と言えます。
( 例えば、横須賀の在日米海軍司令部には海兵隊士官の作戦部幕僚が配置されていますが、彼は別に海兵隊に関する専門事項を所掌しているわけではなく、一般幕僚として作戦部の業務を遂行しています。)
これを考えれば、行政組織としても、何故今日に至るも米海兵隊は陸海空軍3省と並ぶ独立した米海兵隊省ではなく、米海軍省 (The Department of the Navy、DON) に含まれ、何故海軍長官(The Secretary of the Navy)の下に置かれるのかがお判りいただけるとと思います。
また海兵隊士官の養成機関として、何故 「海兵隊士官学校」 (US Marine Corps Academy) と言うものが存在せず、通称 「アナポリス」 と呼ばれる 「海軍兵学校」 (US Naval Academy) で海軍士官養成と一緒になっているかの理由もお判りいただけるでしょう。
( 最近ではウェストポイント、即ち陸軍士官学校 (US Military Academy) からも海兵隊へ進む道が出来ているようですが、あくまでも少数の例外的存在です。)
(この項続く)
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前 : 「その1 はじめに」
次 : 「その3 海兵空地任務部隊 MAGTF」
2013年08月06日
米海兵隊の運用法 (3)
海兵空地任務部隊 MAGTF
では、米海兵隊の主作戦兵力である艦隊海兵隊 FMF がどのように使われるのか、ということですが、その運用の基本が海兵空地任務部隊 MAGTF (Marine Air-Ground Task Force) (通称 “マグタフ” と呼びます) と言われるものです。
MAGTF は余程特殊な任務用、例えば、平和維持活動、災害派遣、医療支援、及び在外自国民避難など、主としていわゆる MOOTW (Military Operation Other than War) でない限り、必ず司令部 (Command Element、CE)、陸上戦闘部隊 (Ground Combat Elemant、GCE)、航空戦闘部隊 (Aviation Combat Element、ACE)、戦闘役務支援部隊 (Combat Service Support Element、CSSE)というの4つの要素で構成される任務 (統合) 部隊が作戦・運用単位となります。
即ち、米海兵隊は陸軍のような大隊とか師団などと言った管理編成がそのまま戦闘・作戦単位として使われることはありません。 必ずこの兵種混合の一体かつバランスのとれた部隊として運用されます。
そして MAGTF は、作戦規模と作戦目的によって、次のように MEF (Marine Expeditionary Force)、MEB (Marine Expeditionary Brigade) (通称 “メブ” )、MEU (Marine Expeditionary Unit) (通称 “メウ” ) という3段階の部隊編成の何れかがとられます。
その他、Special Purpose MAGTF というものもありますが、これは上記の特殊な任務用のもので、軍本来からすればいわば片手間的なものと言えます。 とは言え、昨今の国際情勢からはこれの活用場面が増えていることも確かですが (^_^;
(米軍における MOOTW や ROMO (Range of Military Operations)の考え方については、これはこれで一つの項目になりますので、機会があればまた別に。)
海兵隊の実戦部隊は MEF が最大でこれ以上の編成はありません。 というより、標準の MEF 以上の規模が求められる場合には、この MEF 編成がどんどん大きくなるだけのことです。
つまり、MEF、MEB、MEU というのは、単にその兵力規模の大小の違いというだけではなく、次のように基本的な運用の方法が夫々で異なるのです。
実際にどの様に異なるのかは本項のメインにもなりますので、この後順次詳細にご説明します。
さて、現在の米海兵隊の FMF は4個 MEF で構成されており、Force Provider 、即ち準備・態勢の完了した海兵隊部隊を艦隊に提供するための (実際の作戦指揮の権限は持たない) Marine Force Pacific (MARFORPAC)、同 Atlantic (MARFORLANT) 及び同 Reserve (MARFORRES) の下に次の様に配備されています。
常設の実動部隊は I 〜 III の3個 MEF で、IV MEF は即応予備です。 ただし IV MEF は予備とは言ってもその大部分は即応予備役 (Individual Ready Reserve、IRR) と特定予備役 (Selected Marine Corps Reserve、SMCR) の海兵隊員で構成されており、定められた定期的な召集訓練を繰り返し、必要に応じ即時に動員されて実戦配備に就く態勢が維持されています。
( もちろん同じ “即応予備” とはいっても、陸自のものとは規模も、内容も、レベルも、全く違いますが。)
これらはの MEF は、管理編成としてはいずれも1個海兵師団 (Marine Division)、1個海兵航空団 (Marine Aircraft Wing)、1個後方支援群 (Marine Logistic Group)、及びその他の部隊で構成されます。
“その他の部隊” と簡単に言ってしまいましたが、大変に沢山の部隊、兵種があります。 詳細については米海兵隊の公式サイトをご参照いただくとして、ここではひとまず省略します。
そして、これらの管理編成上の部隊から、それぞれその時その時の作戦上の要求に応じて必要な規模、内容、装備の兵力が実動編成の MEF、MEB、MEU に割り当てられます。
例えば、カルフォルニアに本拠を置く I MEF には MEF 自体の他に I MEB 及び 11、13、15 MEU という作戦部隊がありますが、これらは恒常的に存在するのは司令部のみで、兵力は必要に応じて管理編成の各部隊の中から訓練及び作戦準備が出来ている戦闘単位が割り当てられます。
というより、平時においては MEB 及び MEU は即応態勢維持のために、次はお前の部隊の番だ、一緒に組み合わされる他兵種部隊はこれこれだ、と言うように予め指定されたものである場合が多いのですが。
したがって通常はこの運用サイクルと予期される任務を見越して、人事・装備などを整え、それを以って部隊としての必要な教育訓練を行って、最終的な検閲に合格した上で実戦配備に就くことになります。
( この検閲に不合格となった場合には、指揮官は直ちに更迭、配属部隊は必要に応じて入れ替えられた後に新指揮官の下で改めて練成し直します。 このため交代時期がずれることもあり得ます。)
もちろん MEF というような大規模な兵力が必要になった場合には、その割り当てられている管理編成部隊の作戦可能な全兵力で対応することは申し上げるまでもありませんし、状況によっては即応予備の IV MEF などからの増強を受けることもあります。
とはいっても、危機対応でその MEF 全体がいきなり出ることはまずありませんで、それより先に、他の MEF からのものも含めた、即応態勢にある MEU や MEB が動いている可能性が高いですし、MEF の先遣部隊として MEB 規模レベルの MEF FWD (Foward) が出る場合がありますが、これについてはこのあと順に詳しくお話しして行きます。
要は、海兵隊の運用は、事態に応じた即応性と MAGTF 編成の柔軟性が特徴であり、カギであると言うことで、これは決して陸軍 (そして空軍も) には真似の出来ないところです。
しかもそれを可能とするのは、海軍と一体となったものであるからこそ、ということを頭に置いていただき、次に進みましょう。
前 : 「その2 米海兵隊とは何か」
次 : 「その4 海兵遠征隊 MEU」
では、米海兵隊の主作戦兵力である艦隊海兵隊 FMF がどのように使われるのか、ということですが、その運用の基本が海兵空地任務部隊 MAGTF (Marine Air-Ground Task Force) (通称 “マグタフ” と呼びます) と言われるものです。
MAGTF は余程特殊な任務用、例えば、平和維持活動、災害派遣、医療支援、及び在外自国民避難など、主としていわゆる MOOTW (Military Operation Other than War) でない限り、必ず司令部 (Command Element、CE)、陸上戦闘部隊 (Ground Combat Elemant、GCE)、航空戦闘部隊 (Aviation Combat Element、ACE)、戦闘役務支援部隊 (Combat Service Support Element、CSSE)というの4つの要素で構成される任務 (統合) 部隊が作戦・運用単位となります。
即ち、米海兵隊は陸軍のような大隊とか師団などと言った管理編成がそのまま戦闘・作戦単位として使われることはありません。 必ずこの兵種混合の一体かつバランスのとれた部隊として運用されます。
そして MAGTF は、作戦規模と作戦目的によって、次のように MEF (Marine Expeditionary Force)、MEB (Marine Expeditionary Brigade) (通称 “メブ” )、MEU (Marine Expeditionary Unit) (通称 “メウ” ) という3段階の部隊編成の何れかがとられます。
その他、Special Purpose MAGTF というものもありますが、これは上記の特殊な任務用のもので、軍本来からすればいわば片手間的なものと言えます。 とは言え、昨今の国際情勢からはこれの活用場面が増えていることも確かですが (^_^;
(米軍における MOOTW や ROMO (Range of Military Operations)の考え方については、これはこれで一つの項目になりますので、機会があればまた別に。)
海兵隊の実戦部隊は MEF が最大でこれ以上の編成はありません。 というより、標準の MEF 以上の規模が求められる場合には、この MEF 編成がどんどん大きくなるだけのことです。
つまり、MEF、MEB、MEU というのは、単にその兵力規模の大小の違いというだけではなく、次のように基本的な運用の方法が夫々で異なるのです。
実際にどの様に異なるのかは本項のメインにもなりますので、この後順次詳細にご説明します。
さて、現在の米海兵隊の FMF は4個 MEF で構成されており、Force Provider 、即ち準備・態勢の完了した海兵隊部隊を艦隊に提供するための (実際の作戦指揮の権限は持たない) Marine Force Pacific (MARFORPAC)、同 Atlantic (MARFORLANT) 及び同 Reserve (MARFORRES) の下に次の様に配備されています。
常設の実動部隊は I 〜 III の3個 MEF で、IV MEF は即応予備です。 ただし IV MEF は予備とは言ってもその大部分は即応予備役 (Individual Ready Reserve、IRR) と特定予備役 (Selected Marine Corps Reserve、SMCR) の海兵隊員で構成されており、定められた定期的な召集訓練を繰り返し、必要に応じ即時に動員されて実戦配備に就く態勢が維持されています。
( もちろん同じ “即応予備” とはいっても、陸自のものとは規模も、内容も、レベルも、全く違いますが。)
これらはの MEF は、管理編成としてはいずれも1個海兵師団 (Marine Division)、1個海兵航空団 (Marine Aircraft Wing)、1個後方支援群 (Marine Logistic Group)、及びその他の部隊で構成されます。
“その他の部隊” と簡単に言ってしまいましたが、大変に沢山の部隊、兵種があります。 詳細については米海兵隊の公式サイトをご参照いただくとして、ここではひとまず省略します。
そして、これらの管理編成上の部隊から、それぞれその時その時の作戦上の要求に応じて必要な規模、内容、装備の兵力が実動編成の MEF、MEB、MEU に割り当てられます。
例えば、カルフォルニアに本拠を置く I MEF には MEF 自体の他に I MEB 及び 11、13、15 MEU という作戦部隊がありますが、これらは恒常的に存在するのは司令部のみで、兵力は必要に応じて管理編成の各部隊の中から訓練及び作戦準備が出来ている戦闘単位が割り当てられます。
というより、平時においては MEB 及び MEU は即応態勢維持のために、次はお前の部隊の番だ、一緒に組み合わされる他兵種部隊はこれこれだ、と言うように予め指定されたものである場合が多いのですが。
したがって通常はこの運用サイクルと予期される任務を見越して、人事・装備などを整え、それを以って部隊としての必要な教育訓練を行って、最終的な検閲に合格した上で実戦配備に就くことになります。
( この検閲に不合格となった場合には、指揮官は直ちに更迭、配属部隊は必要に応じて入れ替えられた後に新指揮官の下で改めて練成し直します。 このため交代時期がずれることもあり得ます。)
もちろん MEF というような大規模な兵力が必要になった場合には、その割り当てられている管理編成部隊の作戦可能な全兵力で対応することは申し上げるまでもありませんし、状況によっては即応予備の IV MEF などからの増強を受けることもあります。
とはいっても、危機対応でその MEF 全体がいきなり出ることはまずありませんで、それより先に、他の MEF からのものも含めた、即応態勢にある MEU や MEB が動いている可能性が高いですし、MEF の先遣部隊として MEB 規模レベルの MEF FWD (Foward) が出る場合がありますが、これについてはこのあと順に詳しくお話しして行きます。
要は、海兵隊の運用は、事態に応じた即応性と MAGTF 編成の柔軟性が特徴であり、カギであると言うことで、これは決して陸軍 (そして空軍も) には真似の出来ないところです。
しかもそれを可能とするのは、海軍と一体となったものであるからこそ、ということを頭に置いていただき、次に進みましょう。
(この項続く)
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前 : 「その2 米海兵隊とは何か」
次 : 「その4 海兵遠征隊 MEU」
2013年08月10日
米海兵隊の運用法 (4)
では、米海軍・海兵隊は、世界中の何処かで勃発するかもしれない危機に対して、どの様な態勢でどの様に対処しようとしているのか、に入ります。
海兵遠征隊 MEU
沿岸域の陸上に対する投入戦力としては、空母艦載機によるものを除くと、海兵遠征隊 MEU (Marine Expeditionary Unit) が、米国による世界中に勃発する危機対応の第一義的なものとなります。
その兵力構成の標準は次のとおりです。
ただしこれはあくまでも標準というより一つの目安であって、実際の編成はその時その時で異なってくることに注意して下さい。 事態・状況に対応して柔軟な編成を採るのがこの MAGTF の特徴だからです。
したがって、実際のところ米軍の公式資料によってもそれぞれ装備や人員数がその時その時で多少異なっているものがありますが、どれもが正しいと言えます。
そして注意していただきたいのは、この MEU 編成において各エレメントの中の各部門に合計で約100名もの海軍将兵が含まれていることです。 約100名の海軍の部隊1つが組み込まれているということではありません。
ということはつまり、平時における人事・装備と教育訓練などの全ての面において、海兵隊と海軍とが一体となってその体制を作っていなければいなければできない話しです。
MEU の指揮官は大佐クラス (O-6) であり、それを補佐する司令部 (CE) のメンバーは常設です。 そしてこの司令部の下に、管理編成の部隊から準備の整った兵力が割り当てられて、実動の編成がなされます。
この MEU は、I MEF に 11、13、15 MEU、II MEF に 22、24、26 MEU、そして III MEF には 31 MEF があります。
しかしながら、この中で平時において実際に全兵力が配置された上で、即応態勢におかれて前方展開する (している) MEU は I MEF 及び II MEF からそれぞれ各1個 MEU のみです。
III MEF の 31 MEU だけはちょっと特別で、III MEF 自体が沖縄に前方展開していることから、この 31 MEU は太平洋・インド洋各国との共同訓練・演習などで出動する以外は、通常沖縄待機が基本とされています。
とは言いながら、昨今の情勢・状況からそうも言っておれず、最近では実作戦行動に駆り出されることも多くなりました。
この I MEF 及び II MEF から派出される MEU の即応前方展開は、6ヶ月毎にそれぞれの3個ずつの MEU の中から輪番で交代しつつ、常に1個ずつの MEU が継続して実施することになります。
例えば、最近のある時点での MEU の状況は、次のとおりであったとされています。
( 米海兵隊の公式資料から )
ただし当然ながら、この半年の即応展開期間中に実際に危機対応した場合には、順番や交代時期などが変わってくることは申し上げるまでもありません。
また、最近はこの MEU の出番というか必要性が大きくなりまして、なかなか振り回しに苦労しているのが実情のようです。 このため上にも書きましたように、III MEF の一つしかない 31 MEU まで実任務に駆り出されるケースが増えてきました。
前 : 「その3 海兵空地任務部隊 MAGTF」
次 : 「その5 両用即応群 ARG」
海兵遠征隊 MEU
沿岸域の陸上に対する投入戦力としては、空母艦載機によるものを除くと、海兵遠征隊 MEU (Marine Expeditionary Unit) が、米国による世界中に勃発する危機対応の第一義的なものとなります。
その兵力構成の標準は次のとおりです。
ただしこれはあくまでも標準というより一つの目安であって、実際の編成はその時その時で異なってくることに注意して下さい。 事態・状況に対応して柔軟な編成を採るのがこの MAGTF の特徴だからです。
したがって、実際のところ米軍の公式資料によってもそれぞれ装備や人員数がその時その時で多少異なっているものがありますが、どれもが正しいと言えます。
そして注意していただきたいのは、この MEU 編成において各エレメントの中の各部門に合計で約100名もの海軍将兵が含まれていることです。 約100名の海軍の部隊1つが組み込まれているということではありません。
ということはつまり、平時における人事・装備と教育訓練などの全ての面において、海兵隊と海軍とが一体となってその体制を作っていなければいなければできない話しです。
MEU の指揮官は大佐クラス (O-6) であり、それを補佐する司令部 (CE) のメンバーは常設です。 そしてこの司令部の下に、管理編成の部隊から準備の整った兵力が割り当てられて、実動の編成がなされます。
この MEU は、I MEF に 11、13、15 MEU、II MEF に 22、24、26 MEU、そして III MEF には 31 MEF があります。
しかしながら、この中で平時において実際に全兵力が配置された上で、即応態勢におかれて前方展開する (している) MEU は I MEF 及び II MEF からそれぞれ各1個 MEU のみです。
III MEF の 31 MEU だけはちょっと特別で、III MEF 自体が沖縄に前方展開していることから、この 31 MEU は太平洋・インド洋各国との共同訓練・演習などで出動する以外は、通常沖縄待機が基本とされています。
とは言いながら、昨今の情勢・状況からそうも言っておれず、最近では実作戦行動に駆り出されることも多くなりました。
この I MEF 及び II MEF から派出される MEU の即応前方展開は、6ヶ月毎にそれぞれの3個ずつの MEU の中から輪番で交代しつつ、常に1個ずつの MEU が継続して実施することになります。
例えば、最近のある時点での MEU の状況は、次のとおりであったとされています。
( 米海兵隊の公式資料から )
ただし当然ながら、この半年の即応展開期間中に実際に危機対応した場合には、順番や交代時期などが変わってくることは申し上げるまでもありません。
また、最近はこの MEU の出番というか必要性が大きくなりまして、なかなか振り回しに苦労しているのが実情のようです。 このため上にも書きましたように、III MEF の一つしかない 31 MEU まで実任務に駆り出されるケースが増えてきました。
(この項続く)
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前 : 「その3 海兵空地任務部隊 MAGTF」
次 : 「その5 両用即応群 ARG」
2013年08月16日
米海兵隊の運用法 (5)
両用即応群 ARG
前回、MEU が世界中で突発する米国としての危機に第一義的に即応するために、6ヶ月交代をしながら常時前方展開する (している) とご説明しました。
しかしながら流石に海兵隊といえども、冗談にも米本土から海を泳いで海外に展開する訳にはいきません (^_^;
ではどのようになっているのでしょうか?
これが今回ご説明する米海軍の両用即応群 ARG (Amphibious Ready Group) (通称 “アーグ” と呼びます) と言われるものです。
ARG は、指定された管理編成の両用戦隊 PHIBRON (Amphibious Squadron) の中から各種タイプの両用戦艦艇3〜4隻で構成されるもので、これに先の1個 MEU を搭載し、指定された ARG 指揮官 (通常は両用戦隊司令 COMPHIBRON) とその司令部が運用します。
ARG の指揮官は MEU の指揮官がなるのではないことには注意して下さい。 両用戦 (上陸作戦) は海軍が行うものだからです。 つまり ARG は単なる輸送部隊ではない、ということです。
1個 ARG には1個 MEU の人員と、その装備、機材及び15日分の弾薬・補給物資を搭載し、世界中の海洋に接する如何なる場所における危機にも直ちに対応できるように常時洋上待機します。
つまり、1個 ARG のみで、所要の地に到着後に直ちに搭載するヘリコプターや LCAC、AAV7などにより自力で上陸作戦を行い、15日間の1個 MEU のフル戦闘行動を支援することが可能です。
最近までは、この MEU を搭載した ARG は、太平洋と地中海に1隊ずつ MEU の展開サイクルと同じ6ヶ月交代で恒常的に展開し、状況に応じて大西洋、カリブ海やインド洋などにも配備する態勢をとってきました。
ただしこの ARG、実際の任務編成上では太平洋には2つあります。 それぞれ通常は ARG A (アーグ・アルファ) と ARG B (アーグ・ブラボー) と呼ばれ、以前は第7艦隊両用任務部隊指揮官 CTF76 の下に TG76.3 及び TG76.4 の番号が割り当てられていました。
( 任務編成ですので当然のことながら TG 番号はその時々の情勢・状況により変わってきます。)
( CTF76 である COMPHIBGRU 1 は、2006年にそれまでの両用戦艦艇に加え対機雷戦部隊や特殊作戦部隊などを統合した COMAMPHIBFOR7THFLT (Commander Amphibious Force, 7th Fleet) に改編されました。)
この内、ARG A が米戦域軍 (統合軍) たる米太平洋軍 (US Pacific Command) における危機対応の第一義的な即応部隊となっています。
太平洋艦隊水上部隊 NAVSURFORPAC (Naval Surface Force, Pacific Fleet) に属する4個の両用戦隊 PHIBRON (Amphibious Squadron) と I MEF の3個の MEU との何れかとの組合せにより、6ヶ月交代で米西海岸から展開し、常時洋上待機します。
( 太平洋艦隊における各 PHIBRON は、以前は第3両用戦群 PIHIBGRU 3 (Amphibious Group Three) の下に編成されていましたが、現在ではこの PHIBGRU 3 はなくなり、直接 COMNAVSURFORPAC (Commander Naval Surface Force, US Pacific Fleet) の下に置かれています。)
この “常時洋上待機” というのは、余程のことが発生しない限り、6ヶ月間どこにも帰港しないということです。
しかも、この6ヶ月の間常にその部隊・個人の練度・技量を維持しなければなりません。 艦上の海兵隊員のことを考えただけでも、これが如何に凄いことかをご想像ください。
もちろん、突発的な事情により止むを得ず特定の艦を港に入れることも全く無いわけではありませんが、その場合でも48時間以内に出港することが絶対条件です。
前 : 「その4 海兵遠征隊 MEU」
次 : 「その6 両用即応群 ARG (続)」
前回、MEU が世界中で突発する米国としての危機に第一義的に即応するために、6ヶ月交代をしながら常時前方展開する (している) とご説明しました。
しかしながら流石に海兵隊といえども、冗談にも米本土から海を泳いで海外に展開する訳にはいきません (^_^;
ではどのようになっているのでしょうか?
これが今回ご説明する米海軍の両用即応群 ARG (Amphibious Ready Group) (通称 “アーグ” と呼びます) と言われるものです。
ARG は、指定された管理編成の両用戦隊 PHIBRON (Amphibious Squadron) の中から各種タイプの両用戦艦艇3〜4隻で構成されるもので、これに先の1個 MEU を搭載し、指定された ARG 指揮官 (通常は両用戦隊司令 COMPHIBRON) とその司令部が運用します。
ARG の指揮官は MEU の指揮官がなるのではないことには注意して下さい。 両用戦 (上陸作戦) は海軍が行うものだからです。 つまり ARG は単なる輸送部隊ではない、ということです。
1個 ARG には1個 MEU の人員と、その装備、機材及び15日分の弾薬・補給物資を搭載し、世界中の海洋に接する如何なる場所における危機にも直ちに対応できるように常時洋上待機します。
つまり、1個 ARG のみで、所要の地に到着後に直ちに搭載するヘリコプターや LCAC、AAV7などにより自力で上陸作戦を行い、15日間の1個 MEU のフル戦闘行動を支援することが可能です。
最近までは、この MEU を搭載した ARG は、太平洋と地中海に1隊ずつ MEU の展開サイクルと同じ6ヶ月交代で恒常的に展開し、状況に応じて大西洋、カリブ海やインド洋などにも配備する態勢をとってきました。
ただしこの ARG、実際の任務編成上では太平洋には2つあります。 それぞれ通常は ARG A (アーグ・アルファ) と ARG B (アーグ・ブラボー) と呼ばれ、以前は第7艦隊両用任務部隊指揮官 CTF76 の下に TG76.3 及び TG76.4 の番号が割り当てられていました。
( 任務編成ですので当然のことながら TG 番号はその時々の情勢・状況により変わってきます。)
( CTF76 である COMPHIBGRU 1 は、2006年にそれまでの両用戦艦艇に加え対機雷戦部隊や特殊作戦部隊などを統合した COMAMPHIBFOR7THFLT (Commander Amphibious Force, 7th Fleet) に改編されました。)
この内、ARG A が米戦域軍 (統合軍) たる米太平洋軍 (US Pacific Command) における危機対応の第一義的な即応部隊となっています。
太平洋艦隊水上部隊 NAVSURFORPAC (Naval Surface Force, Pacific Fleet) に属する4個の両用戦隊 PHIBRON (Amphibious Squadron) と I MEF の3個の MEU との何れかとの組合せにより、6ヶ月交代で米西海岸から展開し、常時洋上待機します。
( 太平洋艦隊における各 PHIBRON は、以前は第3両用戦群 PIHIBGRU 3 (Amphibious Group Three) の下に編成されていましたが、現在ではこの PHIBGRU 3 はなくなり、直接 COMNAVSURFORPAC (Commander Naval Surface Force, US Pacific Fleet) の下に置かれています。)
この “常時洋上待機” というのは、余程のことが発生しない限り、6ヶ月間どこにも帰港しないということです。
しかも、この6ヶ月の間常にその部隊・個人の練度・技量を維持しなければなりません。 艦上の海兵隊員のことを考えただけでも、これが如何に凄いことかをご想像ください。
もちろん、突発的な事情により止むを得ず特定の艦を港に入れることも全く無いわけではありませんが、その場合でも48時間以内に出港することが絶対条件です。
(この項続く)
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前 : 「その4 海兵遠征隊 MEU」
次 : 「その6 両用即応群 ARG (続)」