続いて電子戦の基礎というか、入門用のものですが ・・・・ これが市販のものではなかなかこれというのが無いですね。
特に日本語のものとなると非常に難しいです。 例えば、アマゾンでも 「電子戦」 「電子兵器」 で検索してみると、次のものが出てきます。
『電子兵器 −見えない火花を散らす頭脳戦』 (立花正照、潮文社) ですが、これ1982年初版のものが未だに新刊で売られています。
この本、流石に立花氏の著作だけあって読み物として大変良く纏まっていますし、電子戦の基礎に関する記述もあちこちに散らばって解説されています。
まあ電子戦に関する最初の1冊としては手頃な読み物ですが、残念ながら電子戦そのものについてキチンと系統的に網羅した解説書ではありません。
その一方で、この本以外にはまともなものは1冊も出てきません。 売れないといればそうなのかもしれませんが、この辺が日本の軍事知識に関する底辺の浅さを如実に現していると言えるでしょう。
といっても、洋書でもお薦めできるのは非常に少ないのが現状です。 電子戦は軍事の中でも他の分野に比べると1段も2段も秘密程度が高いものの一つですから、仕方ないと言えばそうなのかもしれません。
その数少ないものから、皆さんにご推薦できるものには次のものがあります。
◎ 『 Introduction to Electronic Warfare 』 (Curtis Scheher, Artech House Radar Library)
1986年に初版が出たものですが、電子戦の基礎を解説した出版物としては未だにこれが一番でしょう。 アマゾンでも新品で1万4千円くらいするようですが、この方面に関心がある方は持っていても損のない1冊かと。
この本の著者が同じところから1999年に次のものを出しました。
こちらは新しい情報を網羅したものですが、これになるとちょっと「入門書」とは言い難く、完全な専門書ですね。 興味がある方は購入されるもの宜しいかと思いますが、1万8千円では ・・・・。
◎ 『 Applied ECM 』 (Leroy B. Van Brunt, EW Engineering )
1980年に2巻組として出版されたもので、1985年に第3巻が追加されたようです (これは私も未入手) が、既に絶版となっており、古本でしか手に入りません。 しかしながら、ECM (現在のEA、Electronic Attack) の各種テクニックについて網羅したものとしては未だに他の追従を許さない大作です。
電子戦の解説書というよりデータブックですが、この方面に関心のある方でしたら、初心者の方でも手元にあると大変に便利です。
◎ 『 Electronic Warfare and Radar Systems Engineering Handbook 』 (NAVWCWPNS TP8347)
米海軍の Naval Air Systems Command の Weapons Division がかつてそのWebサイトで公開していたもので、電子戦の入門書としても手頃なものであり、かつ各項目とも流石に実務者の手になるだけにユニークな内容です。 しかも、全約300頁にも関わらず、用語集及び略語集もそれぞれ25頁ずつあり大変に充実しております。
この本は、元々はHTML型式で公開されていたのですが、次第に各項目ごとPDF型式に置き換えられ、最終的にPDF版で1冊になったものです。

( HTML型式でWeb公開されていた当時のトップ画面 )
残念ながら現在では当該サイトからは削除されておりますが、替わりにネットのあちこちにUPされていますので、入手しておいて決して損のないものです。
なお、次のものなども出版されていますが、内容は初心者向けの入門書とは言い難い (これらを教科書にして講義を聴くなら面白いでしょうが) ので、購入の際にはその旨ご注意ください。

( 『 EW101 : A First Course in Electronic Warfare 』 )

( 『 Fundamentals of Electronic Warfare 』 )
さて、これで終わってしまっては、“桜と錨の気ままなブログ” にはなりませんので、もう少しご紹介を。
◎ 『電子戦参考資料』
昭和51年に米海軍の Naval Postgraduate School の David B. Hoislngton 教授が防衛大学校で講演した内容を纏めたものです。 内容的に既に最新技術のものとは言い難いですが、逆に電子戦の基礎が約70頁に実に要領よく纏められていると言えます。
この資料、当初は 「注意」 に指定されたものだったのですが、これは講演者に講演内容を文書にすることの了解を得るのを忘れたための処置でした (^_^;
今となっては現物が残っているところがあるのかどうか ・・・・? 一般の方々にとっても恰好の入門書となり得るだけに、ちょっと勿体ない気がします。
◎ 『電子戦の基礎』
米空軍士官学校の 『 Fundamentals of Electronic Warfare 』 (上でご紹介した同名の書籍とは全くの別物です) を昭和48年に海自が翻訳して部内配布したものです。 元々が士官候補生用の教科書であるだけに、電子戦の初歩から始まって非常に豊富な内容が判りやすく解説されています。
これも電子戦の基礎を学ぶには最高なんですが、実務に直接関係するものでないだけに今となっては海自そのものにこれが残っているかどうか判りません。
これもちょっと勿体ないですね。
◎ 『参考資料 電子戦』 (全2巻)
上でご紹介した 『Applied ECM』 全2巻を空自が昭和61年に翻訳して部内配布したものです。 空自はこの原書を大量に購入して各部隊に配布しましたが、英文のためにほとんど読まれることがなく、そのため仕方なしにわざわざ邦訳版を作ったものです。
2巻合わせて1600頁を越える大作で、訳もなかなか良いものです。 しかしながら、これも既に四半世紀も前のものであり、どれだけ残っているものか ・・・・ ?
◎ 『電子戦の原理と応用』 (全2巻)
これも電子戦の入門書としては恰好のものです。 昭和62年に海自で作成し幹部教育における参考資料として使用したものですが、恐らく上でご紹介した 『 Introduction to Electronic Warfare 』 が主たるネタ本となっているものと考えられます。
第1巻がECM (現在のEA)、第2巻がECCM (現在のEP、Electronic Protection) で、2巻合わせて約630頁あります。 解説書として内容も豊富でかつ非常によく纏められており、用語集も充実しています。
これも多分もう残っていないでしょうねぇ。 勿体ない。
えっ、最近の部内資料の紹介はないのか、ですか?
残念ながら、例の 「孫崎事件」 などが続いた結果として、教科書類はもちろんのこと、こういった秘密ではない教育参考資料までも、一切部外に出ることはなくなってしまいました。 したがって、どの様なものがあるかさえご紹介することができません。 残念なことですね。