◎ 第61巻 「ボロジノ」
シリーズ第61巻は、日本海海戦におけるロシア側の主役 「ボロジノ」 型のネームシップである 「ボロジノ」 で、その1905年の設定とされています。


例によってモデラーさんとしてモニターをされているHN 「おまみ」 氏の評価記事は次のURLでUPされております。
“ トータル的に良く出来ている部類 ” “ 希少価値も上乗せしてこの模型はなかなか良いのでは ” と評価されていますが、これには私も賛同いたします。
本シリーズでは外国艦は割と出来がよいというのが通例になってしまっていますが、この 「ボロジノ」 も例外ではなかったようです。
1/1100スケールのフルハル・モデルとしては、見栄えは十分で、全体としての出来はシリーズ中で上の部類と言えるでしょう。
ただし、デザインの元となったのがどうも市販の1/350のキットのようで、長所短所ともにそのままです。
この 「ボロジノ」 型、公式図が残されておりますが、今回のモデル化にあたってそこまでは考証の手間暇をかけてはいないようですね。


で、その最大の点が、船体後部船底部の側面形状 (構造) が大きく違うことです。 そしてこれに関連して、艦尾や舵などの形状が異なったものとなってしまっています。


その他、目立つ点ではやはり木甲板のモールドでしょう。 上甲板の木甲板は、日本を始めとする列国のように長い板を半分ずつずらしていく張り方ではなく、長さの短いものを綺麗に揃え、その前後に横方向の長いもので区分していく方式です。
「ボロジノ」 ではありませんが、例えばこのようになっています。

このことは 「ボロジノ」 でも公式図でキチンと示されております。


ただまあ1/1100スケールで、これを正しく表現するのかということになりますと ・・・・ 木目表現がされている、というだけでも許容範囲と言えば言えるかもしれませんが (^_^;
次に目立つ点は、艦首の形状がちょっと不良で、もう少しフレアーがついて拡がった特徴が活かせていません。




加えて、私的には艦首部のアンカー・ダビットを表現して欲しかったですね。 独特な形状のものですから、もしあれば目立ちますし。 そしておまみ氏の指摘にもあるように、艦首の紋章はそれらしいものが欲しかったところです。
各部の塗装などは、ネットでも公開されている1/350キットの作例そのままのようで ・・・・
ただし、当時の船体外舷などは黒色とされていますが、このモデルでは何故か濃紺になっています。 この根拠は何でしょうか、イーグルモス社さん?
その他、細かいところでは沢山ありますが省略させていただきます。 まあ、1/1100スケールということを考えるならば、許容範囲と言えばそうなのかもしれませんし ・・・・
最後に、これは私のサンプルがたまたま外れだったのかもしれませんが、冒頭写真のように前後のマストが大きく曲がっていたり、煙突が傾いていたりしたまま出荷されています。
今回は全体としての出来はよかった反面、製品の完成時とパック時の検査が不充分であったと考えられ、この辺はいまだに改善が見られない点であり、残念なところです。
う〜ん、こうやって 「三笠」 と並べて飾ってみる、という本シリーズのコンセプトとしては決して悪くはなんですが ・・・・

ただし 「三笠」 は本シリーズ第8巻というごく初期のもので、私がモデル・アドバイザーの一人として参画した時には既に手遅れであったのですが、今更ながら出来はもう少し何とかならなかったものかとつくづく残念でなりません (^_^;
さて、今回はタイミングよくおまみ氏とコラボすることができました (^_^)
それにしても、おまみ氏は毎回キッチリと手を入れたものを作られますね。 よほどスケールモデルに愛着を持っておられるのですね、感心します。
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「タンブルホーム」 について
当時のフランス艦、そしてそれを手本にしたロシア艦の最大の特徴の一つが何と言っても船体の顕著なタンブルホームでしょう。
今回の 「ボロジノ」 もその代表の一つなのですが、このフルハル・モデルを手にされると、何となくあまりそれらしく見えないかもしれません。 そしてこれについては、いまだに誤解されている方々も中にはおられるようです。
タンブルホームとは、船体水線付近がバルジ、あるいはビヤ樽のように膨らんだ形状のことではありません。
下図でお判りいただけるように、船底から水線付近までの断面は通常の艦船と変わりはありません。 そしてそこから上の船体が大きく内側に絞られていることが特徴なのです。

したがって、水線上の船体が小さいので、艦の安定性ということでは確かに有利な船型といえます。
ただし、船体の水線上の容積と、甲板の面積が小さくなりますので、結果的に上へ上へと積み上げる傾向が出てきます。 このため安定性を損ねる結果に繋がります。
当時のロシア艦はまさにその典型で、設計及び建造の拙さもあって、動揺性能及び耐航性が極めて不充分で、かつ船体損傷時の復元性能が劣った艦となっています。
なお、このタンブルホームについては、次の記事でご紹介しておりますので、ご参照下さい。
「船舶工学の基礎 −タンブル・ホームと復元力」 (1)〜(4) :
http://navgunschl.sblo.jp/article/34551210.html
http://navgunschl.sblo.jp/article/34568999.html
http://navgunschl.sblo.jp/article/34592192.html
http://navgunschl.sblo.jp/article/34610988.html
http://navgunschl.sblo.jp/article/34568999.html
http://navgunschl.sblo.jp/article/34592192.html
http://navgunschl.sblo.jp/article/34610988.html