2014年02月07日

続3 ・ 敵前大回頭と丁字戦法

敵前大回頭と相対運動 (後)

さて、前回 「相対運動」 というものの概念について説明したところですが、今回はこの相対運動からする敵前大回頭はどのようになるのか、についてお話しします。

下図は既にご紹介しましたように、日本海海戦第一会戦の合戦図の一部です。 赤丸で示したところが敵前大回頭、いわゆる東郷ターンの部分です。

BoSoJ_chart_01a_m.jpg
( 元図 : 『明治三十七八年海戦史』 より部分 )

そして下図はこれも既にご紹介済みの更にその部分のみのものです。

BoSoJ_chart_02_mod_m.jpg
( 元図 : 『明治三十七八年海戦史』 より部分 )

灰色、薄水色、薄緑色の線はそれぞれ14時5分の「三笠」回頭開始時、8分の「三笠」回頭終了後の定針時、そして10分の 「三笠 」砲戦開始時の 「三笠」 と 「スワロフ」 の位置関係を示したものです。

さて、これを相対運動に直すと、それぞれの艦から互いに相手がどの様に見えていたのでしょうか?

前回ご紹介した 「運動盤」 を用いて、地理的に作図された合戦図を相対運動に作図し直すと次の様になります。

まず 「三笠」 から見る 「スワロフ」 の動きです。 

togo_turn_01_s.jpg

図の中心は 「三笠」 であり、その 「三笠」 そのものの実際の針路 (動き) がどうであろうと図の上方向が常に 「三笠」 の艦首方位です。

当然ながら 「三笠」 自身が左回頭しますので、「三笠」 艦上からはその艦首尾線に対して、「スワロフ」 は左前方から艦首を回って右正横やや後ろまで大きく動いて “見える” ことになります。

このため各砲の射手は 「スワロフ」 を正確に照準することが出来ません。

また砲術長や砲台長は射撃のための 「スワロフ」 の未来位置を計算することがでず、このためこれを射手に伝えて照準器に正しい見越を設定することができません。

即ち、「三笠」 は回頭を終えて定針するまでは 「スワロフ」 に対して命中させるための正確な射撃が出来ないことがお解りいただけるでしょう。

では 「スワロフ」 から 「三笠」 はどの様に “見えた” のでしょうか? 同じく相対運動に作図し直したものが次の図です。

togo_turn_02_s.jpg

回頭する 「三笠」 から見るほどではありませんが、方位、そして特に距離が大きく変化していることがお解りいただけるでしょう。

艦砲射撃というものは、目標と射撃艦が “互いに” 定針定速 (等速直進) していることが前提であり、そうで無い場合は “相対運動上の未来位置” を求めることができませんので、正確な射撃をすることは出来ません。

つまり、日本海海戦劈頭に 「スワロフ」 が射撃を開始したのは、 「三笠」 が東郷ターンを終えて新針路に定針した直後の14時08分であると言うのは、極めて合理的な理由の故であるということになります。

そして露艦隊側が正確な見越計算をできるようになったのは 「三笠」 側と同じ14時10分以降であることもお解りいただけるでしょう。

実際のところ 「三笠戦闘詳報」 では、「三笠」 が回頭終期になって方位・距離変化が少なくなった14時07分に 「オスラビア」 が最初に射撃を開始しておりますが全く有効な射撃ができていません。 「三笠」 が露艦隊側から最初の命中弾を蒙ったのは、「三笠」 が試射を終えて本射に移行した14時11分より更に遅い、12分のこととされています。

したがって、敵前大回頭というものは、いままで巷で広く言われてきた 「東郷提督は一方的に露艦隊から砲撃を受けるという危険を冒して大冒険をした」 というようなことは、全く当を得ていないと断定できます。


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posted by 桜と錨 at 17:53| Comment(2) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
プロコンスルです。

先生、早速のご解答をありがとうございます。

同期に電測員はおりません(同期で横須賀勤務は私一人でした、ほとんど舞鶴でした)ので、自衛隊ートは厳しいですね。先輩からは嫌われてましたし(苦笑)。

「航海当直用レーダープロッティング用紙」、探してみます。
Posted by プロコンスル at 2014年02月09日 12:13
プロコンスルさん

ネットでも注文できるようですが、ただどこの通販サイトも何故か画像がありませんので、どのようなものかは確認できないんですよね (^_^;

Posted by 桜と錨 at 2014年02月09日 12:32
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