2013年08月04日

米海兵隊の運用法 (2)

米海兵隊とは

以前ネット上のさる掲示板でもこの “米海兵隊とは何か?” ということについて議論が交わされていたことがありました。 もちろん私は ROM の傍観でしたが、基本的には 「米4軍中の1軍種」 ということの認識では一致していたと記憶しています。

確かに行政組織として、また海兵隊の処遇・栄誉上の問題からすれば 「Four Armed Forces」 の一つというのは正しいでしょう。

そして海兵隊トップの海兵隊総監 (Commandant of the Marine Corps) は、大統領及び国防長官に対する米軍全体の統合運用に関する補佐機関たる統合幕僚本部 (Joint Chief of Staff、JCS) において、陸海空3軍のトップと並んでそのメンバーの一人でもあります。

( 実際には JCS は議長・副議長の元に、上記に州兵局長 (chief of national gurd bureaue) を加えたメンバーの他、多数の下部部局などで構成されています。 もちろん、大統領や国防長官には専門事項は判りませんので、実質的には JCS が統合部隊のみならず全米軍の運用・作戦を握っているのですが。)

しかしながら、海兵隊の作戦部隊 (Operational Force) としての役割、位置付けの実際・実態はどうなのでしょう? 本当に 「米4軍中の1軍種」 なのでしょうか?

そして当の陸上自衛隊でさえ、米海兵隊を陸軍と並ぶ自分のカウンターパートとして見ています。 要するに、単なる上陸作戦が得意な陸上戦闘兵力であると。

実はこれでは全く米海兵隊 (U.S. Marine Corps) の本質について言い表していないと言えます。

そこでまず、米国の法律ではどのように定められているか、から見てみましょう。

米海兵隊については、合衆国法典の第5063 (a) 項 (U.S. Code 5063, Chapter 507, Part 1, Substitle C, Title 10) で次の様に定められています。

USC : Title 10 - ARMED FORCES
Subtitle C - Navy and Marine Corps
Part I - ORGANIZATION
Chapter 507 - COMPOSITION OF THE DEPARTMENT OF THE NAVY

§ 5063 - United States Marine Corps: composition; functions

(a) The Marine Corps, within the Department of the Navy, shall be so organized as to include not less than three combat divisions and three air wings, and such other land combat, aviation, and other services as may be organic therein. The Marine Corps shall be organized, trained, and equipped to provide fleet marine forces of combined arms, together with supporting air components, for service with the fleet in the seizure or defense of advanced naval bases and for the conduct of such land operations as may be essential to the prosecution of a naval campaign. In addition, the Marine Corps shall provide detachments and organizations for service on armed vessels of the Navy, shall provide security detachments for the protection of naval property at naval stations and bases, and shall perform such other duties as the President may direct. However, these additional duties may not detract from or interfere with the operations for which the Marine Corps is primarily organized.
( 赤色は管理人が付加 )

これを要するに、米海兵隊の大きな役割は次の2つといえます。

  1.艦隊海兵隊 (Fleet Marine Forces、FMF) を艦隊へ提供する
  2.保全隊 (Security Detachments) を艦隊・基地・在外公館などへ提供する

2.については、例えば虎ノ門の在日米大使館の警備任務に海兵隊員が就いているのをご覧になったことがある方もおられると思います。

これも米海兵隊にとっては正規の任務の一つではありますが、メインではありませんし、本題から離れますので省略し、以後本項で取り上げるのは1.の FMF についてです。


では、FMF とは米軍全体の組織編成の中でどこに位置し、どこに所属するのでしょうか?

次の図は、米海軍の公式サイトで米海軍の組織図として掲げられているものです。


赤丸で示したところに注意して下さい。 そうです、FMF とは米海軍の太平洋艦隊 (Pacific Fleet) 及び大西洋艦隊 (Atlantic Fleet) の一部なのです。

これを更に横須賀を母港とする米第7艦隊の任務編成の例で見てみましょう。 これも第7艦隊の公式サイトに掲げられているものです。


(この任務編成は年代によって多少変わってきていますが、TF−70、72、74、76、79の基本は変わりません。 7艦隊のメインの部隊ですから。)

そこで、右下に TF-79 (Landing Force, 7th Fleet) とありますが、これは何でしょう?

実はこれが沖縄の米第3海兵師団 (3rd Marine Division) や岩国の米第1海兵航空団 (1st Marine Aircraft Wing) を主体とする第3海兵遠征軍、即ち III MEF (3rd Marine Expeditionary Force) (通常 “スリー・メフ” と呼びます) のことであり、上記 FMF の一部なのです。

つまり、FMF が米海兵隊全体の主要部を占めるものでることを考えれば、実質・実態的に “米海兵隊は米海軍の一部” なのです。

これが米海兵隊についての基本中の基本であって、この認識なしには米海兵隊は語れませんし、その実態は見えてこないのです。

このため、

USAmphib_Ops_02_s.jpg

公式文書や論文などで 「Naval Forces」 あるいは 「Naval Services」 と言った場合には米海軍及び米海兵隊を併せた (場合によっては沿岸警備隊も含む) ものを意味します。

また単に 「Navy」 と言った場合には、米海軍と米海兵隊を併せたもの意味する場合と、米海軍そのものを意味する場合とがあり、このどちらであるかはその文書の主題や前後の文脈の中で判断することになります。

もちろん 「US Navy」 と言えば通常は狭義の米海軍のことになりますが、現実としては米海軍と米海兵隊は一体となっていますので、厳密に両者を区別することは不可能と言えます。

( 例えば、横須賀の在日米海軍司令部には海兵隊士官の作戦部幕僚が配置されていますが、彼は別に海兵隊に関する専門事項を所掌しているわけではなく、一般幕僚として作戦部の業務を遂行しています。)

これを考えれば、行政組織としても、何故今日に至るも米海兵隊は陸海空軍3省と並ぶ独立した米海兵隊省ではなく、米海軍省 (The Department of the Navy、DON) に含まれ、何故海軍長官(The Secretary of the Navy)の下に置かれるのかがお判りいただけるとと思います。

また海兵隊士官の養成機関として、何故 「海兵隊士官学校」 (US Marine Corps Academy) と言うものが存在せず、通称 「アナポリス」 と呼ばれる 「海軍兵学校」 (US Naval Academy) で海軍士官養成と一緒になっているかの理由もお判りいただけるでしょう。

( 最近ではウェストポイント、即ち陸軍士官学校 (US Military Academy) からも海兵隊へ進む道が出来ているようですが、あくまでも少数の例外的存在です。)
(この項続く)

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前 : 「その1 はじめに」

次 : 「その3 海兵空地任務部隊 MAGTF」

posted by 桜と錨 at 12:46| Comment(2) | TrackBack(0) | 現代戦のこと
この記事へのコメント
先生、お邪魔します。

海兵隊のお話、興味深く読ませて頂いております。

話題の海兵隊的機能とは、本日のNHK「日曜討論」を見る限り、単なる陸上兵力揚陸能力の向上だけを狙った様にも見受けられますが、同番組の出席者の指摘にもあった、同部隊新設に対する「諸外国からの懸念」云々も考慮してあの様な説明になったのかな、とも思えます。

マスコミの言う諸外国、即ち中国・韓国は、我が自衛隊がその様な能力を保有することが、自らの脅威であることを知るからこその難癖であることは間違いありません。

それ故、自衛隊内のセクショナリズム、たとえば地対空ミサイルの管轄に代表される様な装備の取り合いとその運用の問題点といった過去の過ちを繰り返させない為にも、海兵隊は第四の自衛隊となるべきものと思い込んでおりました。

しかし、今回のお話を拝見しますと、それもまた勘違いだった様です。

海兵隊について、先生の様な然るべきお立場にあった方の平易な御教示がありますことに期待しております。
Posted by 好事家 at 2013年08月04日 17:55
好事家さん

これから段々と本題に入っていきますので、お楽しみに。

Posted by 桜と錨 at 2013年08月05日 17:18
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