2013年03月21日

大空への追想 (83)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第4章 太平洋戦争の巻 (16年10月〜20年8月) (承前)

    第5話 飛行艇かく戦えり (承前)

        その7 米濠輸送船団昼間触接

二十一航戦の精鋭がスラバヤ方面で暴れている間に、既に蹴散らしておいたアンボン、ボルネオ、セレベスの要衝はほとんど占領しており、2月12日、大難関のシンガポール市内にも陸軍が突入していた。

ジャバ、スラバヤを含むスンダ列島は既に日本軍の攻撃圏内に入ったため、残るは大陸濠州が敵にとっては最大の基地となっていた。

この頃第一機動部隊 (空母部隊) が南下しており、二十一航戦はこれを支援するため2月10日アンボン基地に転進していた。 次の進出はチモール島である。

2月12日我がケンダリ派遣隊も久し振りにアンボンで本隊に合流した。 1ヶ月前奇襲を敢行した懐かしいアンボンに来てみると、濠州軍の立派な飛行艇基地 (注) があり、破壊されたと言うものの、臨時基地としての機能は十分残されていた。

格納庫、スベリ、宿舎がそのまま使用できた。 PBY 2機が破損したまま残されていたが、ボイコー照準器の戦利品があったことは痛快だった。

PBY-3_photo_01_s.jpg
( 米海軍飛行艇 PBY−3 Catalina )

こんな挿話がある。 箱詰のバター、チーズが山積みに残されており、住民とは塩1俵とフォード乗用車 (新車) 1台が友好的に交換できた。

士官の寝室には、各ベッドにダッチワイフがそれぞれ配されていたのには苦笑させられた。 兵隊さんがチーズを石鹸と思って洗濯に使ったが、一向に落ちないので首をかしげる等、海軍でさえ文明の差に驚いたものである。


米濠軍も濠州の安泰のためにはチモール島は重要な基地であり、ジャバ方面からの撤退路を防衛するためにも要衝である。 それだけに防御はまことに堅固なものがあった。

2月14日、「強力な米濠輸送船団が、チモール島防衛強化のため、近々にポートダーウィンを出港する模様である」 という軍令部情報が入電した。 そら来たぞッ ということで大艇隊は間髪をいれずチモール海方面に網を張った。

Chart_South_china_Sea_L_mod1.jpg
( 元図 : 昭和16年版の海図No.838より )

2月15日、索敵機の二番機 (三浦機) が1030頃、ポートダーウィンの西100浬の洋上で西進中の敵輸送船団 (大巡1、軽巡2、駆逐艦3、輸送船4) を発見した。 情報的中、二十一航戦は翌朝の攻撃に備えて殺気立ったが、三浦機は 「敵戦闘機機と交戦中」 の緊急電を発したまま遂に還らなかった。

(原注) : 奇蹟の生還として後述するので、この未帰還機については記憶しておいていただきたい。 (この後日談は今日の話題社版にはありません。 お楽しみに。)

夜間触接に成功した実績で私は索敵隊指揮官を命ぜられ、残念ながら攻撃隊から除かれた。 部下の仇討ちだ、是非とも攻撃隊にと申し出たが、明日の成功の鍵は索敵隊が握っているんだとのことで、だめ。

「 それなら会敵の算最も大なる中央索敵線を俺にくれ 」

ということで、2月16日、0300 アンボンの海を先頭で発進した。 2時間後には大攻撃隊が後続してくる。

「今日は死んでも捕捉する。 三浦機の弔い合戦だ。 燃料が切れるまで食いついて離さん覚悟だから、腹を決めておけ。」

クルーも決死の気迫を漲らせていた。

東の空が白みかけてくると、南国特有の断雲が美しく艇体を撫でながら流れてゆくのが目に滲みる。 高度4000米、断雲の上に出た。 すっかり明けはなれたアラフラ海の海が雲間に広がっている。 チモール島が眼下に見えて来た。

歴戦の海鷲には会敵の兆候が必ず閃くものである。 いろいろと考えてみた。 敵は昨日既に発見されている。 引き返すか、強行するか。 戦闘機の行動圏外だが、チモール強化が一日遅れると我が方の上陸 (落下傘部隊) の方が早くなる。 必ず強行するはずだ。

自然見張りの眼光が鋭くなる。
(続く)

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(注) : アンボンの水上機基地は、アンボン湾の奥のハロン (Halong) というところにあり、開戦時にはオーストラリア海軍及び米海軍のPBYがいたようです。


AB_Ambon_map_1958_01.jpg
( 元画像 : 1958年の米軍地図より )


現在ではインドネシア海軍基地となっており、滑りが残っているようですが、使用されているのかどうかなどは判りません。


Ambon_sat_h25_02_s.jpg
( 元画像 : Google Earth より)

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