2013年03月10日

大空への追想 (77)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第4章 太平洋戦争の巻 (16年10月〜20年8月) (承前)

    第5話 飛行艇かく戦えり (承前)

        その3 昭和の広瀬中佐、相沢飛行長の最期
            (飛行艇による魚雷水上発射)


 17年1月6日1930、ダバオ基地の指揮所には、東港空よりぬきの精鋭6チームが整列していた。 アンボン基地 (前出) 夜間奇襲部隊の面々である。

この日、自ら陣頭に立った指揮官相沢中佐 (前出) は、いつになく厳然たる態度で出発の命令を下した。

「 いよいよ待望のアンボン攻撃の時が来た。 太田大尉の弔い合戦でもある。 勝算すでに我にあり、成功疑いなし。 計画どおり行動する。」

相沢中佐、柔道、剣道、合わせて十段、相撲十両級、軍帽を前下がりにチョコンと頭に載せ、八の字髯を撫でながら、ウワッ、ハッハッと段をつける豪快な笑い方に特徴がある。 人呼んで昭和の広瀬中佐という。

タバオと濠州の中間、モルッカ海とバンダ海に別れるところにあるセラム島アンボンには濠州軍の基地があった。

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( 元画像 : 昭和17年版の海図 No.801 より )

陸上、水上両方の航空基地を完備し、艦隊泊地ともなる要衝である。 したがって、我が南方作戦上邪魔な存在であるとともに是非とも占領したいところであり、ダバオ進出後は二十一航戦が腕を撫でながら狙っていた好目標である。

相沢中佐は、かねてから司令部に対し、

「 アンボンの第一撃は、大艇による奇襲部隊に任せてくれ。 残敵掃討は中攻隊で存分にどうぞ。」

と意見を出していたのである。

大艇による奇襲計画、それは相沢中佐がパラオ進出直後から練っていたものである。 大艇6機を使用し、3機は深夜を狙って超低空の飛行場銃爆撃を敢行し、同時に他の3機は泊地に進入着水し、水上滑走のまま在泊艦船を雷撃するのである。

魚雷の浅深度発射は飛行艇がその端緒を開き、ハワイ第一次攻撃で実証ずみであるが、飛行艇による水上発射は実験が済んでいるだけであった。

当時の航空魚雷は九一式、雷速42二ノット、航走距離1500米、重量850キロ。 出撃手前に魚雷の塞気弁は開いておく。 空中から投下時、高度100米。

077_01_s.jpg
( 原著より  九一式魚雷略図 )

魚雷の発動桿は投下器に縛り付けてあるので、落下の際起動されてまず縦舵機が作動を始めるようになっている。 水中に突入すると発動桿が水圧で倒されて発動挺を起し、ペラが回転する仕組になっていた。

したがって、水上で発射する際は速力がないので、投下する前に手動によって発動桿と発動挺を起動しておく必要がある。 パイロット席でこの操作ができるよう機構的に工作しておいた。

水上滑走は照準のために機首をセットさせるためのもので、魚雷投下後そのまま、又はUターンして離水してしまう。 この方法で特殊チームを選定し、既に実験を重ね、自信満々の域に達していた。

アンボン奇襲隊は、相沢飛行長が総指揮官を兼ねて雷撃隊長、私が爆撃隊長となっていた。

ダバオ湾は当夜天気晴朗なれども波高く、灯火管制下に約40隻の輸送船団が停泊していた。 総航程1600浬、途中の無人島に念のため駆逐艦一隻を配し、給油と救難に当たらせておいた。

2000、二十一航戦司令官直々の見送りをうけて出発。 爆撃隊が先行することで私は3機を率い、暗夜の海に乗り出した。

波が相当高い。 超過荷重である上、無灯火の船団が気になるので、十分な間合をとった。 2000 見事に離水、上空で待機していた。

雷撃隊の離水が遅いので気になっていたが、実は夢にも考えられない大事故が発生したのである。

( この事故は爆撃隊は知らず、帰還後聞かされたのである。)

雷撃隊一番機は離水点が船団に近すぎた。 離水はしたが、低空で左旋回に入ったため、「君島丸」 のマストに左主翼を激突してもぎとられ、そのまま海中に突入してしまったのである。

抱いていた魚雷は落下し、船の舷側に命中したが幸いにも不発のまま沈没して大事を免れた。

相沢中佐以下全員は即死である。 何たる無念 !! 成功疑いなしと張り切って出陣した飛行長なのに、何たる悲運 !! もちろん列機は離水を中止した。

上空でイライラしながら待っていると、基地では探照灯がつき、交通艇が慌ただしく動き出したので、一番機の故障とは思ったが、何も分らなかった。

上空待機2時間後、「爆撃隊は予定どおり行動せよ」 との令が下された。 司令自らマイクをとられた模様である。

一切の不審観念を捨て去り、爆撃隊は一路アンボンに向かって進撃していった。時刻は既に2200 を過ぎていた。

高度4000米、雲上に出ると駁々たる明月、実に美しい夜の雲が流れていた。 これからアンボン基地に超低空でなぐり込むこと等を忘れてしまうような快翔を続けた。
(続く)

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