2012年10月16日

大空への追想 (32)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第2章 支那事変の巻 (承前)

    第6話 南寧撤退戦 (承前)

        その3 海驚来る !!

 11月13日N2作戦の幕は切って落とされた。 現地の全貌偵察を実施し、陸軍部隊を激励するため、「神川丸」 飛行長指揮のもとに、20機が編隊で出動した。

 撤退口は竜門江の河口の予定なので、この川の両岸山岳地帯に敵陣が強化されているくらいは素人眼で分かる。

 編隊は川に沿って奥地に進んでいった。 老獪な十九路軍の精鋭が南寧付近に集結している模様との情報はつかんでいたが、さすがに戦に馴れた敵軍、上空からでは何の気配も感じない。

 我が水偵隊を見て喜んだのは日本軍である。 あちらの峰、こちらの森から一斉にとび出して、日の丸を振り、手を振り、小踊りして万歳々々と歓迎している。 “海鷲来たる” もう大丈夫というのであろうが、これで我が方の陣地構成は一目瞭然である。 敵さんも喜んでいるんではないか。

 味方の危険を忘れてこんなに騒ぐのも、飛行機の支援を待ち焦がれていた証拠であろう。 百万の味方を得た喜びが、機上にまで伝わってくる。

 思えば一年前にこの付近の激戦において、「神川丸」 の戦友たちも地上砲火を浴びて戦死している。 あれ以来再びここに同じ陸海の同僚が、空と地から顔を合わせたのである。 以心伝心、「よーし、やるぞッ」 という気迫がみなぎるのは当然である。

 敵側にすれば、この下駄ばき機が恐ろしいはず。 いやな奴がやって来た、と考えているに相違ない。

 全貌偵察に止めようとしたが、各所から爆撃要求の信号が出されるのを見ると腕が鳴って仕方がない。 指揮官機のバンクのみを待ちわびる。

 最先端の陣地を確認した途端、飛行長機が大きく巽を振った。 「待ってましたッ」 とばかり各小隊が四方に散って行った。 降爆高度に急上昇する小隊、銃撃に移行すべく低空に舞い降りる小隊、獲物を追う犬鷲の舞いのような光景が展開された。

 上空からの偵察で、敵の拠点に間違いなしと見た地点に対し、各小隊一斉に銃爆撃を開始した。

 これに合わせたように、地上軍も一斉に進撃を始めた。 我が山砲の弾着点を低空で偵察すると、やはり居た、菜葉服の連中がダニのように山の斜面に這いつくばっている。

 撤退戦は進撃ではない。 川の上流まで遡って定められた川岸に潜む無数の大発に移乗するための血路を開くのが目的である。 このための移動路を護るのが水上機隊の仕事である。

 計画的に前線を後退させながら、飛行機の来ない夜間はジーッと陣地を守って頑張っている。

 暴れるだけ暴れ、友軍を激励、敵のど肝を冷やして引き揚げた。 昨夜入港したのか、欽州湾には40数隻の輸送船団が三水戦に護られながら海を圧して投錨していた。

032_01_s.jpg
( 原著より  欽州湾に終結した輸送船団 )

 敵の潜水艦もなし、機雷の心配もない、空襲もまた予想されない時点では、空中護衛は25機の水偵隊で十分間に合ったのである。
(続く)

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