2012年08月24日

大空への追想 (17)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第2章 支那事変の巻 (承前)

    第3話 南支沿岸封鎖作戦 (承前)

        その2 「臨検隊長を命ず」 (承前)

 ( パイロットは空で死にたい ) (承前)

 あとでよく反省してみたが、搭乗員は飛行機に乗っての戦闘は実に勇猛果敢である。 しかし一旦陸戦になると心細い。 今日の俺の考えは間違っている。 搭乗員たる者、敵地不時着等の場合の対敵行動こそ大切である。

 この体験を積んで、始めて戦場に臨み得る搭乗員というべきなのだ。 死は易い。 いかにして生き残るかが問題である。 やはり海軍中尉では修養が不十分であったことを痛感した。

 一瞬いやな予感があったが、内火艇は私の不安など意に介せず、どんどんジャンクに接近してゆく。 こうなると肚 (はら) もすわる。 艇長が張り切っているのでジャンクに衝突するように接舷した。

 ジャンクには船長らしい男一人が立っており、他は船底にもぐり込んでいた。 いっさい抵抗の色はない。 船籍、出入港先、乗員、積荷の内容等を書類とつき合わせながら調査した。 軍に引き渡す物資であることが明白である。 通訳の活躍により、この方面ジャンク輸送の親玉であることが分かった。

 「神川丸」 に報告すると、

「 積荷没収のうえ釈放する。 本艦まで曳航せよ。」

 との指令があった。 船底から小銃が七挺発見された。 乗員は正規兵ではない。 単なるクーリーであり10名がぞろぞろと這い上がって来て八掌九拝していたが、指令を伝えると安心していた。

 自らジャンクに移乗し、いかにも分捕ったぞという格好をして「神川丸」まで曳航した。

 船長を艦橋で訊問したが、香港から広州湾に輸送するジャンク群が相当数あること、及び十九路軍の指示をうけていること、連日の飛行機の攻撃を恐れて人夫が激減していることだけは判明した。

 このジャンクから没収した積荷は、白米2千俵、砂糖千俵のほか、小銃7挺、臼砲 (2門) という大戦果で、本艦は翌日馬公に回航して陸揚げすることになったものの、甲板上は飛行機の係止にも支障を生ずるくらいの戦利品の山になってしまった。

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( 原著より  「神川丸」 艦上の戦利品の数々 )

 必要な食糧品を還元され、日本のタバコまでもらって、ジャンクの船員たちは喜んで帰っていった。

 前述のとおり臨検隊長の英雄になったが、“搭乗員は空で死にたい” という感想を飛行長に話すと、

「 気持ちは分かる。 しかし空で戦うのみが搭乗員ではないよ。 何事も体験さ。」

 と言われてみて深く反省するところがあった。 戦場慣れがしてくると、飛行隊員は大空のみが死所であるというような考えを持つものだが、海軍軍人であることをしっかり心の奥にたたき込んでおかねばならない。

 今回の臨検隊長としての行動は、私にとってはまことに大きな収穫となったことが嬉しかった。
(続く)

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