2012年08月22日

大空への追想 (16)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第2章 支那事変の巻 (承前)

    第3話 南支沿岸封鎖作戦 (承前)

        その2 「臨検隊長を命ず」
 
( パイロットは空で死にたい )

 戦争は勇敢に戦い、暇があればよく寝ることだと言われる。 長期戦闘行動においては特にその必要がある。 暑さと低空飛行による疲労に勝つためには、睡眠が何よりである。

 15年6月17日、攻撃から帰艦して昼寝をしていると番兵にたたき起こされた。

「 艦長が艦橋で呼んでおられます。」

 というのである。 何事が起こったのかと思って駆け上がると、双眼鏡を握ったままの艦長が、

「 日辻君あれを見ろ。」

 というのである。 早速12糎双眼鏡でよく調査すると、余り見かけたことのない大型ジャンク (約2百トン) が一隻西進中である。

 恐らく香港から出て来たものと思われる。 相当の積荷だ。 しかも船首に備えつけられた2門の旧型大砲が不気味である。 ただのジャンクではない。

 艦長いわく、

「 あのジャンクを捕獲しよう。 君は臨検隊長としてただ今から出発、積荷を調査の上本艦まで引っ張ってこい。 本艦は高角砲の直接照準圏内まで接近するから準備しろ。」


 臨検隊長を命じられたのである。

 さあ大変、飛行機に乗っては天下無敵だが、敵船の臨検じゃ心細い。 あの大砲がどうも気持ち悪い。 しかし命令だ。 よしッ、と覚悟を決めて直ちに拳銃と軍刀で武装にかかる。

 「臨検隊用意」 が下命される。 こんなことは年に一回あるかないかだ。 20名の臨検隊員が選ばれた。 内火艇2隻、一隻は直接ジャンクに乗り込むことにして、他の一隻は警戒にあたり、攻撃準備に当てることにした。

 「左砲戦」 が下令された。 相手はジャンクである。 旗旒信号では停船命令が分からん。 そこで内火艇が出発すると同時に、ジャンクの進行方向に一発射ち込むことにした。

「 射てッ 」

 張り切った砲員が発射した。 高い水柱があがる。 途端にジャンクは帆をおろした。 内火艇の艇首からは機銃が狙っている。

「 抵抗して来たら直ちに射撃開始だ。」

 私は艇上に腕組みをして仁王立ちになっていたが、どうもあの大砲が気になる。

 この時つくづく感じた。 俺はパイロットである。 大空で死ぬのは本望であるが、こんなことでは死にたくない ・・・・ と。
(続く)

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