2012年08月09日

大空への追想 (11)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第2章 支那事変の巻 (承前)

    第2話 これが戦場だ

 台湾海峡は相当荒れていた。 4日間の休養を終えて戦線に帰る艦内は、これが出撃かと思われるくらい静かであった。

 波の音を聞きながら、動揺する艦が6百人近くを乗せた一つのゆりかごになっていたのは、末だ明けやらぬ福州沖、海は静かであった。

 太陽が昇ってから艦橋にあがり、周囲を眺めて見ると、見慣れない山々が西に迫っている。 ポツポツと数隻のジャンクが動いている。

 不気味なほど静かな環境である。 これでも戦地なのかと思ったが、号令がかからなくても艦内は警戒態勢についている。

 まず航空機の係止が解かれ、試運転が開始される。 小型といえども12機が一斉に運転を開始し、砲台員が配置につくと一挙に雰囲気が変わってくるから不思議だ。 待機搭乗員を含め、飛行士のブリーフィングが始まる。

 私は最初の母艦勤務である。 発着のための艦からの揚げ降ろしが、搭載艦の最大の運用作業である。 特に着水後のデリックによる揚収が、そのパイロットの技の見せどころである。 経験は全くない。

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( デリックにより降下作業中の九四式水偵  揚収はこの逆を行うことになります )

 広田分隊長 (保太郎、兵60期) から熱心な講義を受ける。 風と潮を考えて艦尾にアプローチする方法、デリックのフックを取り損ねた時の避退法等、双浮舟 (フロートが二つ) の方が難しいのである。 (水上機の揚収要領については後の章で詳しく出てきます。)

「 明12日、日辻君の慣熟をかねて福州地区の偵察飛行を全機編隊で実施する。 今日は九四式水偵の試飛行が一機ある。 揚収法の慣熱をかねて、日辻君が飛べ。」


 ということになった。

 余り艦から離れるなという注意を受け、整備士を乗せる。 後席の機銃は全装備である。 まことに緊張した試飛行であったが、揚収第一発は見事合格だった。

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( 原著より  「神川丸」 上空を飛行する九四式水偵 )

 翌日分隊長指揮のもとに11機の編隊で、悪天候を冒し、福州付近の示威連動を実施した。 私は前夜そっと飛行服の中に皆からもらった御守袋を全部入れておいた。

 高度千5百米、攻撃ではないので低空飛行は避けた。 上空からよく見ると、人通りのない道路はほとんどすべてが細々と切断されている。 トーチカや陣地の跡が散在している。 いつ地上砲火を浴びるかも分からず、実に不気味な光景である。

 これが戦地というものか。 初の敵地飛行は緊張の一語に尽きる。
(続く)

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