2012年07月17日

大空への追想 (6)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第1章 水上機の巻 (承前)

    第2話 待望の飛行学生( 承前)

        その3 指導官からほめられた中練初の失敗

(急がば回れ、疑問を残したまま飛ぶな)

 初練課程を終わり、一歩進んだ中練段階は鹿島航空隊初代学生 (注) として、九三式水中練に取り組んだ。 だんだん本物の飛行機に近づいてきた。 教官も一緒である。

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(訓練中の九三式水上中間練習機)

 中練段階になると、学生は自信過剰の傾向に陥り易い。 いかにも一人前のパイロットになったような気がするものだ。 同時に、何をやっても同じだが、サインカーブ的にスランプが生ずるのも事実である。 はっきりこれを自覚しておく必要がある。

 初練では上手にできても、偶然があり、真に了解していない場合が多い。 中練段階 (百時間) に入って水面を見ながらの引き起しに乱れが出てくる。 これを教官が指導して、早くこのスランプを乗り切らねばならない。

 中練の単独離着水を開始して二回目、どうも高起こしの癖があると自覚していたが、現実にそれが起こった。 落下着水だ。

 相当のショックを感じ、主翼中央張線の振動が増したので、そのまま訓練を中止し、はるばると水上滑走しながら帰ってきた。 教官たちが話し合っていた。

「 日辻は今引き起し高度に迷いが生じている。 あすから同乗飛行に移せ。」

 ということらしかった。 揚収後調査すると、フロート (双浮舟) 間隔が少し開き、中央張線が二本つけ根から切れていた。

 飛行終了後、指導官伊藤少佐が学生を集めて訓示された。 しかられることを覚悟していたのだが、

「 本日は指導官として非常にうれしく感じたことがある。 日辻学生が高起こしをして落下着水をやった。 これはだれでもあり得ることだ。 しかし日辻学生は異常の有無を確認するため、飛行をやめて遠い所から滑走して帰って来た。 結果は判明したとおりである。 あの場合、このくらいのことという気を起こし飛行を続行したら大事に至ったかも分からない。 今回の処置は不良着水よりも数段立派な行為である。 パイロットは、異常があったら飛行をやめて確認するという習性を身につけねばならない。」


 失敗してはめられたのはこれが初めてである。 その後二日間の同乗飛行で、完全にスランプを切りぬけることが出来た。

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(原著より  鹿島航空隊における著者と九三水中練)
(続く)

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(注) : 鹿島航空基地については本家サイトの次の記事をご参照下さい。


     霞ヶ浦航空隊水上機班がこの鹿島航空基地へ移転して鹿島航空隊となったのが昭和13年12月15日ですので、著者はまさにここの初代飛行学生であったことになります。


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