2012年07月12日

大空への追想 (4)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第1章 水上機の巻 (承前)

    第2話 待望の飛行学生

        その1 適性検査 (相生教官の手解き)

 12年の秋、遠洋航海を終了すると1か月間の航空実習が待ち構えていた。 飛行学生発令までにはその後1年間の艦隊勤務があるのだが、この航空実習が飛行学生への最後の関門である。

 いろいろな地上検査を修了すると、いよいよ同乗飛行が行われる。 我々の場合は筑波航空隊 (注1) で行われた。

 しかし、これが大変である。 海兵四号に入校したような雰囲気になってしまう。 実戦で鍛えた教官たちが手ぐすね引いて待っていた。

 搭乗前に航空希望の程度を書いて出すのだが、当時支那事変における航空隊の活躍が影響し、63期までは総員が熱望していたと聞いている。 したがって書く文句が振るっていた。 “支那事変的大熱望” “決死的大熱望” 等が大半を占めていた由、指導官から、大熱望、熱望、望、不望の4種類に限定されたが、64期には3名の不望者があった。

 おかげで飛行終了後、一号対四号のごとく、次々と若い教官達のお達しがあり “最近の海兵教育はなっとらん” とまでどなりつけられた。

 さて、この適性飛行だが、3回の飛行をやるが、最後の1回が締め括りであり、何かの都合で私は最終の番になってしまった。

 不望者の3名は、気の毒にも離陸直後からアクロバットの連続で適性どころか青くなって帰ってきた。

 いよいよ順番がきた。 教官は誰あろう、最も恐れをなした相生中尉 (若かりし日の相生海将) (高秀、海兵59期、戦後は海自自衛艦隊司令官を最後に退職、海将)

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( 中国大陸における相生中尉  原著より )

(相) 「君の希望は。」
(日) 「大熱望です。」
(相) 「よーし。」

 ということで間もなく離陸した。 一応説明を受けて上昇姿勢のまま操縦させられた。 8回の体験飛行が効を奏することになった。 旋回計の球は見事に中央に止まっている。 上昇旋回、水平飛行、パワーは教官が入れるが、我ながら上手いもんだと感心した。

(相) 「 上手いなー、君は飛行クラブにでもいたのか。」
(日) 「 素人です。 海兵の8回の休暇を利用し、霞ヶ浦で乗せてもらっておりました。」
(相) 「 よーし、今からアクロバットをやるからよく見ておれ。」

 爆音が変わった。 どんどん高度をとって始まった。 連続のスタントである。 水平線を見ながら飛行機の姿勢をとらえていた。

「 今からキリモミに入る。」

 と言うとまもなく機首が下がり、2〜3回旋転した時、相生中尉の

「 これがキリモミ。」

 という声を聞いたが、雲と地面が交互に目に映るだけだ。 懸命に地面の一点を眺めていた。 なかなか止めない。 飛行場の周囲では農家が稲刈りの最中であった。 農夫の顔がよく見えだした時、

「 地上20米だ。」

 の声と、パーッと農夫が逃げ出すのが同時だった。 相生機以外、空には一機もいなかった。 飛行場ではキリモミのまま松林から姿を消したこの飛行機を見て “事故だッ” とサイレンを鳴らして、消防車とトラックが走り出したのである。

「 学生は日辻だぞ。」
「 とうとうやったか。」

 大騒ぎになった。 空では相生さんが超低空のまま、松林の陰を飛びながら、

「 少し低くなったがよく分かったろう。」

 と平然として救助隊と反対方向の松林を越え、サーッと飛行場に入って行った。

 海自に入って鹿屋で相生司令 (注2) に対面した時、相生さんはこの時のことをはっきりと覚えておられた。

「 君とはあの時以来初めてだが、君のことは強く印象に残っている。 恐ろしく操縦が上手いなーということ、日辻という珍しい名前だということ、戦闘機にとって鍛えてやろうと思っていたら水上機にまわされてしまったこと、この三つの印象が残っている。」


 と言われたが、まさに私が希望どおり飛行学生になれたのは、相生中尉の手解きであったと感謝している。
(続く)

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(注1) : 筑波航空基地については、本家サイトの次の記事を参照下さい。


(注2) : 昭和28〜30年の間の話しで、当時相生氏は鹿屋航空隊 (現在の第1航空群の前身) 司令、2等警備正)


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