2011年10月18日

錨と錨鎖の話し (5)

2.錨鎖について

 錨鎖というと、普通の人は 「要するに鉄の鎖がずら〜っと繋がってるだけでしょ?」 と思われるかもしれません。

 まあ確かにそうだと言えばそうなのですが ・・・・ (^_^)、しかし正確に言うならばただそれだけではありません。

 実はこの錨鎖、一定の長さのものが順々に繋がっているのです。 その一定の長さの1つずつを 「節」 (せつ) と言います。 そしてこの1節の長さの途中では切り離すことができません。

 昭和期から現在の海上自衛隊に至るまで、錨鎖1節の長さは錨鎖の太さ (=リンクの太さ)、即ち装備する艦の大きさには関係なく、一律で25mと決められています。 これは運用上その方が都合が良いからです。 (何故都合が良いかはこれもまた後でお話しします。)

 旧海軍では古くは1節が12.5尋又は15尋 (ひろ、1尋=1.818m) のものが使われていましたが、昭和期になってこの25mで統一されました。

 したがって、「長門」 型は1節12.5尋 (約22.7m)、「大和」 型は 25mです。

 このため、大型艦では各リンク一つずつが大きく太い分だけ1節当たりのリンク数は少なく、逆に小型艦では各リンクが小さく細いのでリンク数が多くなります。

 錨鎖のリンクには、スタッド付きとスタッドなしの2つの形状がありますが、大型艦艇はほとんどがスタッド付きです。 当然ながらこちらの方が強度が高いことになります。

anchor_chain_06_s.jpg

 艦の大きさによってどれ位の太さの錨鎖が使われていたのかと言いますと、一応の旧海軍の艤装基準では次の様になっていました。

chain_size_03_s.jpg

 「長門」型はこの表の摘要範囲にはありませんが、3.125吋 (78mm) でした。 では「大和」型は? 残念ながら史料がありませんので判りません。 90mmとする戦後文献もありますが、旧海軍の規格的には中途半端な数値ですし、写真からするともう少し太い様にも見えます。

 ただし、錨鎖というものは錨泊に必要な水中重量はその長さで調整できますから、必要な強度さえ確保できていれば、太さそのものはあまり重要ではありません。

 そして、この1節ごとの錨鎖を順々に繋いでいくのが 「ケンターシャックル」 (Kenter Shackle)と言われるものです。 これは外観はスタッド付ききリンクと同じ形状をしていますが、次の図のように分解できる構造になっており、必要時にはここで錨鎖1節毎の切り離しができます。

shackle_02_s.jpg

 例えば、錨泊中に突然の荒天などで緊急出港しなければならない時に、揚錨する時間 (通常ですと20〜30分ほどかかります) がない場合には、ここで切り離して錨と錨鎖を捨てて行きます。 これを 「捨錨」 といいます。 勿論、後で戻ってきて回収することはいうまでもありません。

 このためもあって、錨泊時には錨に目印用の小さなブイを付けて投錨するのが普通であり、船乗りとしての躾けです。 (最近では、一般の港近くに錨泊すると近傍を行き来する民間船や漁船などによってすぐブイを切られたりしますので、荒天錨泊の場合でも無い限りあまり付けないようですが (^_^; )

 なお、旧海軍では昭和初期頃までは、このケンターシャックルではなく 「接続シャックル」 と言われるものを使っている艦艇もありました。 この場合は1節の錨鎖の構成もちょっと異なってきますが、これについてはこの後でお話しします。

 では、錨一つについて繋がっている錨鎖の長さは全長でどれくらいあったのでしょうか?

 この錨一つについての錨鎖を 「1房」 (ぼう、=1連) と言い、通常は主錨で14〜16節、中には20節持っている艦もありました。 実際に何節であるかはその艦 (艦型) ごとで決められています。

 具体的な例を示すと、次の様になっていました。

chain_size_02_s.jpg

 当然ながら錨に近い側の錨鎖ほど使用頻度が高くなりますから、その損耗を考慮して適当な時期 (定期修理の時など) に節の連なりの順序を前後で入れ替えていました。

 そしてこの錨鎖、錨鎖庫側の最終端末は、図のように錨鎖庫内にシャックルとスリップで留められています。 この図は一例ですが、ほかのものでもほぼ同様の構造です。

senhouse_slip_01_s.jpg

 因みに、海自イージス艦の 「こんごう」 型では、前錨用、左錨用ともに56mm径のものを16節ずつ装備しています。 錨の重さが異なるのに錨鎖の径が同じなのは共通性を持たせるためです。

 例えば、左錨を使うことはまずありません (ソーナー・ドームが邪魔になって通常では使えません) ので、私が 「きりしま」 艦長の時は左錨鎖3節を外して前錨鎖に繋ぎ、19節にして使っていました。 この方が何かと便利ですし、この様なことは艦長の権限で自由に出来ますから。
(続く)

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posted by 桜と錨 at 21:17| Comment(3) | TrackBack(0) | 海軍のこと
この記事へのコメント
楽しく拝見させていただいております。
捨錨した錨の回収について疑問がありますので質問させてください。
捨錨時には錨にブイを付けて目印にする、とありますが、
ブイを目印に位置は確定できるとして、回収時の揚錨は
どのような手順で行うのでしょうか。
錨とブイをつないでいるラインはそれによって錨を
引き上げられるほど頑強なものとは思えません…。
それとも潜水して錨鎖をつなぐ??無理がありそうです。
よろしくお願いします。
Posted by きのけんさん at 2016年05月21日 22:26
きのけんさん、ようこそ。

捨錨は艦上での準備状態の図をご覧いただくのが一番ですが、コメント欄は図が使えませんので、後ほどブログ頁として解説いたしますね。

Posted by 桜と錨 at 2016年05月22日 17:00
はじめまして。
仕事でケンターシャックルを初めて見て、調べ始めました。わかりやすくてありがたいです。
Posted by FLORA at 2022年08月10日 09:26
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