2011年07月21日

『艦船乗員の伝統精神』 − (32)

著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)

  第三章 乗員の伝統的良風 (承前)

    第二節 勤務と躾 (承前)

      第三項 躾教育の方法

 「如何にせば乗員に躾教育を徹底せしむべきや」 の問題は甚だ困難の如く思わるるも、幹部が誠を以て乗員の自覚を喚起し教導宜しきを得ば、比較的容易に其の目的を達成し得るものと認む。

 而して其の方法は艦船の任務或は統率者の流儀に依り之を一律に論及する能わざる故、貧弱なる過去の経験に鑑み極めて平凡の方法を茲に述べんとするものである。

(1) 幹部の意気込と根気

 「部下乗員を立派に育ててやる」 と言う強い意気込を以て幹部一同が結束し、協力一致、指導に当ることが洗決問題なり。 而して其の実行は連綿不断誠意と熱を以て克く導き、短気を起さず万遍なき根気を特に必要条件とする。

 次には毎週一回研究会を開き幹部各員の意見を交換し、歩調を揃えて進まなければならない。 之が為各員は日常厳密なる注意を以て乗員の躾を研究し、事の善悪良否に論なく参考となる事項は総て之を手帳に記注し置き、研究会に於て報告し相互の知識を交換すると共に改善の資料に充つ。 特に当直将校又は短艇指揮、甲板士官等は最善の努力を払う必要がある。

 之により幹部各員の運用眼は次第に発達し細事をも見逃さざるに至ると共に、第一、士官自体の態度並に勤務が模範的ならざるを得ない。 斯くして幹部も自ら船乗の資格を得らるることになる。 所謂一挙両得の方策である。

 右研究会に於て蒐集したる事項は之を副長が示達するもの、分隊長の教示すべきもの、班長の指導すべきもの等に分類し重複することなく確実に部下に伝達し、分隊毎に其の記録を保存するがよい。

 副長の示達は課業整列の時、一、二の項に就き極めて短時間に而も成るべく連続的に実施するを要す。 其の他分隊長、班長等の教示時機は別に之を定む。

 而して之等の教示は必ず実例を挙げ、或は具体的の範を示し、或は善行者を呼出して表彰する等、乗員をして興味を持たせ次から次へと彼等が楽しみに待つ如く工夫せざれば其の効果は少ないと思う。


(2) 下士官と一等兵の重視

 下士官は士官と兵の連鎖にして、軍紀風紀は固より如何に幹部が協力一致乗員の躾に邁進すると雖も、其の中間に介在する下士官に自発的熱意なき時は折角の努力も水泡に帰し、何等の効果をも齎らすことは出来ない。

 由来、我海軍に於ては下士官と兵とを同視し下士官に充分の貫目を与えざる弊あり。 故に、下士官は不知不識の内に兵と同様の根性となり遂には其の責務をも軽視するに至るものなり。

 幹部は宜しく此の点に充分の考慮を払い、下士官に対する待遇を改善し自ら其の重責を反省せしむる如く誘導すると共に、兵の躾に対しても先ず下士官の根本教育を徹底し、自尊心を高め常に兵の先頭に立ちて愉快に教導し得る資格を与え、下士官をして配置の職務にのみ満足せしめず、常に進んで部下たる兵の躾に専念する如く仕向くることが肝要である。

 又一等兵に対しては下士官同様の特別の教育を施し、艦内百般の作業に対する身のこなし、或は船乗としての嗜み等に関し常に身を以て範を垂れ得る如く自信力を与え、古参兵たるの資格を具備せしむる必要がある。

 近来は、下士官に其の見識なく、一等兵に実力無きを以て、日常起る各種の非常識を看過し今日の状態に低落せしめたるものにして、此際下士官及び一等兵を精一杯活躍せしむる如く研究を進むることは、目下の急務なりと思考する。

 尚之等教育の時機は年度の初頭に於て日課手入時等を利用し、非直の半数宛に対し幹部は当分総出となり歩調を一にして之に当たらなければならない。
(続く)


posted by 桜と錨 at 18:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 艦船乗員伝統精神(完)
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/46882843
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック