2011年07月08日

『艦船乗員の伝統精神』 − (30)

著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)

  第三章 乗員の伝統的良風 (承前)

    第二節 勤務と躾 (承前)

      第二項 躾教育 (承前)

 次に艦内保存整備の方法並に其の努力に関しては、十数年前の砲術戦技万能時代に比し稍覚醒の感ありと雖も、艦愛護の観念並に之れに関連する躾教育は依然として進歩を認めず、退歩したる時代を其の侭継承し居るに過ぎざるなり。

 昔より艦船兵器を 「伝家の宝刀と心得よ」 又 「御上のものは我物の如く大事にせよ」 と言う訓示があるが、或人は之に対し、「自分の物と心得よと言うは不都合である。 御上のものであればこそ自分のもの以上に大切にすべしと言うのが本当である」 と反駁せるを大谷中将 (幸四郎、既出) は至極同感であると言われたが、何れにせよ伝家の宝刀を大切にし、其の精美を以て誇りとする日本武士道の精神の如く、艦船兵器に対する愛護の精神を兵員に植付け、之に対する日常の躾を怠ることなければ、塗粧面の上に靴で上ったり、釘のある靴で 「リノリューム」 甲板を走る者もなくなる訳である。

 由来一般乗員の通弊として物を使用しても其の侭やり放し、甲板其の他を平気で汚し、紙屑等を所構わず捨てると言う常習的欠点がある。

 故に舷窓の盲蓋を締め付けんとしても回蝶器が見当らず、機関兵が油靴にて木甲板を汚し、煙草盆の附近は吸殻と灰だらけ、居住区は何回掃いても塵埃の尽きる暇がないと言う有様である。

 之等は総て乗員の嗜みが足りない証拠にして、克く彼等に自覚を与え、各員相互に 「汚さず散さず始末する」 と言う習慣を附ける様に工夫し指導すれば、忽ち改善せられ其の成果は相当大なるものがあると思う。

 又艦内を綺麗にする習慣は陸上に於て見られざる如き努力を払いつつあるが、一方を美しくしながら反って一方を汚すと言う悪癖は、之れ亦見逃し能わざる共通の欠点なり。

 例えば、金物磨き中、甲板に油を垂らし或は靴の踵にて甲板を瑕付け、内舷塗り方に塗具を木部に附け、甲板洗いには海水を外舷に流し、風上側 「ダビット」 にある 「カッター」 を洗い其の飛沫にて外舷を汚す等、毎日数えれば其の数幾何なるを知らざるも、之等は皆乗員を船乗に躾ける為最も大切なる事項にして、連綿不断誠意ある幹部の指導と下士官の厳密なる注意とに依り面目を一新するものと思う。

 大谷中将が 「掃除の八割は整頓なり、整頓が出来れば掃除と清潔は先ず出来上ったと言うてよい」 と言われ、尚清潔と整頓を保つ為には 「整頓を崩さざるに心掛けよ、清潔ならんとせば先ず汚さざるに留意せよ」 と戒められて居る、誠に至言なりと言うべし。 吾人は之等の点に関し大に努めなければならないと思う。
(続く)


posted by 桜と錨 at 16:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 艦船乗員伝統精神(完)
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