2011年06月28日

『艦船乗員の伝統精神』 − (28)

著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)

  第三章 乗員の伝統的良風 (承前)

    第二節 勤務と躾 (承前)

      第一項 勤 務 (承前)

2.短艇指揮 (承前)

 短艇指揮と言う問題に関しては操作上のことは固より、先ず艇員の容儀と艇の威容より改善して行かねばならぬ。 航行中指揮並に艇員の姿勢が正しく敬礼を厳格に行う短艇を見る時、其の艦の教育が如何にも徹底し誠に奥床しき感に打たれるものである。

 然るに指揮又は艇長たるものが 「カバー」 に寄り掛ったり、甚しきは煙草を吸ったりして居るのを見ると其の艦の躾が如何にもだらしない様に窺われるものである。

 斯くの如く、上に立つものが不体裁の行為をするのでは艇員は何時か之を見真似て堕落し、艦長乗艇の艇員が勝手の姿勢で勝手の位置に居る様になり、短艇軍紀の厳粛等は到底望み得べき所にあらず。

 苟も指揮として乗艇した以上、其の船の主権者たることを自覚し、率先範を垂れると共に克く艇員の風儀操作を教導しなければならない。

 此の教導と躾が厳格に行われざる結果、艇員の服装容儀は自然乱れ勝ちとなり、「マーク」 の切れた汚ない軍服を纏ひ、又荒天でもなく必要のない時にも跣足になり、折角其の日の番兵と同じ服装をさせ、威容を考えてやっても何にもならぬこととなる。 此の不精が延いては艇の威容を破壊する因となり、清潔も整頓も疎かになるものである。

 曽て加藤寛治大将が横浜に外国軍艦を訪問された時、自分の乗って来た短艇が甚しく汚ないので、冷汗をかかれたと言うことである。 昔より 「艦を窺うには其の短艇を見るに如かず」 と言われてある通り、大に吾等の三省すべき問題である。

 自分は副長時代に短艇を揚収する際、固有指揮が之に立会い艇内外の整備等の世話をしておる所を目撃する時、涙の出る程其の尊い精神に感激したことを能く覚えて居る。 斯う言う艇に限って内火艇の故障が少なく、又故障しても錨がなくふらふら流される様な間抜を演ずることはないと信ずる。

 理屈は後にして一日も早く多数の人に実践躬行を希望して己まざる次第にして、只是れ短艇は各其の所属の特権及名誉を代表すると言う名文を知って居っても、実行の伴わざる御奉公は何もならないと思う。

 近来桟橋等に於て度々目撃することであるが、艦長迎えの短艇に艦長が乗艦しても尚後よりポツポツ来る士官等を待合せ、艦長の御許しを受けないものがある。

 又甚しきものに至りては艦長と同じ 「シート」 に商人とか女中の様な者が同座しても敢て注意を与え様としない。 従来苟も艦長が乗艇した以上、部外者を艇外から見える所に立たせたりしてもならないと戒められて居る。

 之等は皆時代の思想余波が漸次軍隊に浸潤して来て、不知不識の内に上長に対する敬意が薄らいで行く証拠にして、大に考慮を要すべき点であると思う。

 昔より吾々の教えられたことは、

 「艦長用としては常に一番上等の機動艇を用意して置いて、何時急に艦長が出艦と言う場合でも不都合のない様にせよ、又艦長が乗艇されたら直ぐ短艇は離すものと心得よ。」

 とか其の他色々艦長に対する礼に関しては常に厳格なる注意を与えられて来たのである。 特に吾人の注意を喚起したいと思う。
(続く)


posted by 桜と錨 at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 艦船乗員伝統精神(完)
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