2011年06月21日

『艦船乗員の伝統精神』 − (27)

著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)

  第三章 乗員の伝統的良風 (承前)

    第二節 勤務と躾 (承前)

      第一項 勤 務 (承前)

2.短艇指揮

 短艇の取扱は将来に於る大艦操縦の基礎をなすものにして、又 「シーマンライク」 の精神を養成する上にも絶好の機会である。 昔より先輩が短艇に 「チャージ」 (艇指揮) を乗せることを八釜しく言われたのは、艇の保安に関する問題と併行して此経験を獲得させようと言う親切心に外ならないのである。

 由来 「ボランチーヤ」 と言う言葉が伝えられて居るが、「ボランチーヤ」 を一回多くやれば一回だけ自分の良い経験となり、海上に多く出れば出ただけ其の人を船乗に仕立てると言うことを意味するものにして、指揮は常に其の心構えを以て勇み立ち毫も 「やらせられる」 と言う如き退嬰的の気分は一掃せねばならぬと思う。

 艇指揮としての技倆は海上に於る各種の状況を消化し万遍なき苦心と修練とを積んで漸く慣熟の域に達することが出来るのであるが、動もすると天狗になり虚栄心を起こし、妾りに速力を出し色々の失敗を繰返して居る。

 昔は他艦の艇を少しでも毀損させると、副長は態々侘に行ったものである。 故に先輩は教えて曰く、

 「自艇の速力は自己の頭脳より先に進まざる様に注意せよ。」

 一般に老練なる指揮は速力の調節が上手にして、舷門達着の時万一後進が掛らない様な場合にも決して驚かない様に持って来る。 又夜間或は船舶輻輳する海面に於は咄嗟の場合衝突を充分回避し得る程度に減速し、決して油断をしない。 

 之に反し生兵法の指揮のやり方は後進が掛らないと既に取返しがつかず、合戦準備の如き騒ぎをして艇を毀損し、或は航走中不安の念に駆られつつ近回りして坐礁し、或は艦の首尾に接近航過して他艇と衝突したる例は非常に多い。

 鼻の高い短艇指揮は非常に多いが、櫂立てをして 「カッター」 を理想的に舷門に達着し得る人は殆ど無いと思う。 之は実行して見れば直に分ることにして風潮の強い時は勿論、機動艇ですら艇尾を舷門に衝突せずに達着し得る人は少ない。

 又艇首員にして爪竿を以て機動艇の行脚を止めんとして大騒ぎをして居る者が多い。 機動艇は 「カッター」 とは異り 「モーメンタム」 が大きいから其の行脚は後進力に依り之を止め、角度は舵により調節すべきものにして、人力を要求するのが無理である。 之を教えず或は之を強いる為、艇首員が海に落ちたり爪竿を毀損したりして居る、一考すべきことであると思う。

 過多に人員を乗艇せしむることは駆逐艦、潜水艦の如き小さな機動艇には注意を要するものにして、仮令天候静穏なる時と雖も無理をすべきものにあらず。 艇を覆没せしめたる例は概ね其の軌を一にして乗員の過大に起因するもの頗る多し。

 米海軍にては特に此点に注意し、多数の上陸員を送迎する時は必ず艇指揮として青年士官を乗艇せしめて居る。 之は保安上のみならず短艇軍紀上より見て大切のことと思う。
(続く)

posted by 桜と錨 at 21:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 艦船乗員伝統精神(完)
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