2011年06月11日

『艦船乗員の伝統精神』 − (25)

著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)

  第三章 乗員の伝統的良風 (承前)

    第一節 艦の威容 (承前)

      第二項 内容の整備

 内容の整備に関し注意すべき事項は、数限りなき事なるも、本項に於ては其の要点を述ぶるに過ぎない。

 (1) 艦橋は最高指揮官の艦を指揮する神聖なる所として伝えられ、20年前迄は艦橋に昇るや直に敬礼さえ行ったもので、今日に於ても其の精神に変りはなく神聖に且つ清潔に保つべきである。

然るに此処は航海中以外に監督の行届かない所なるを以て、信号長に此気持ちがないと隅々に甲板洗の砂が残つていたり、小 「カバー」 類の紐に端が解けていたり、出港前慌てて一部を塗り、服に塗具を附けたりすることを度々見受ける注意を要すると思う。


 (2) 「常に甲板を清浄に保つ」 と言うことは、吾海軍伝統精神の良風として昔より嗜められて来たことで元は副長も、当直将校も跣足になつて何んな寒い日も、兵員と共に甲板洗いに出て監督指揮したものである。

殊に舷梯附近は汚穢、留水等のことなく訪問者が舷門を登って上甲板に立つ時、すがすがしい良い感じを与える様にすることが肝要である。 尚舷梯の 「メーンロープ」 の汚れて居るのは恥辱であるとされておる。


 (3) 将官 (艦長) 室昇降口並に其の附近の天窓、其の他特に艦の威容上必要と認むる真鍮金物は一般に磨き上げるのが例であって、十数年前戦技万能時代には、何事も打算的になって之等を塩拭きにした頃もあったが、塩拭きと言うものは簡単な様で反って然らず、毎日一通り拭った位では決して光沢は出ない。

雨天続きで少し手が抜けると直ぐ緑錆が拭き、又新に磨き上げざれば落ちなくなる。 斯ういうことは自然に乗員を不精に導き遂には滑動部が動かなくなり、威容上にも保安上にも影響する所多大である。


 (4) 各公室の整備の良否は誠に艦の威信に関するもので、常に室内の清潔と整頓とに意を用い装飾品等は上品に工夫する必要がある。 公室の状態を一見すると、大凡其の艦の内容と無精の士官の多い少ないことが窺われるものである。

甚だしきは煙草盆が手近にあるに拘らず 「リノリューム」 の上に平気で灰を落して汚しておる。 新聞や書類の整頓は従兵がやることに定めて放り散らかすのは、大間違であって常に各員が各自の私室を飾り立てて綺麗にする様に、公室に対しても清潔、整頓の良習慣が欲しいと思う。



 要するに外容と言い、内容と言い、之が整備の良否は士官と兵とを問わず乗員一同の不断の心掛と習慣とに依るものであって、保存手入でも分隊長分隊士が可及的監督指導してやれば、士官の精神が兵員に反影して自ら大改善が生れ出ることと思う。
(続く)

posted by 桜と錨 at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 艦船乗員伝統精神(完)
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