海軍特務中尉 南 村 鶴 太 郎
『 日露戦争の従軍を憶ひて 』 (承前)
二、聯合艦隊の出動
明くれば六日、総員起床のラッパも一入勇ましく、上甲板に上って見ると各艦の煙突より黒煙もうもうとして立昇り、出港時刻を待つ光景は実に勇壮であった。
此の日上甲板も洗はず両舷直は出港準備の一部を整へた。 朝食が済んで暫くすると、総員後甲板に集合のラッパが艦内に響き渡ると一同は元気よく駈け付けた。
艦長は徐ろに口を開かれ国交断絶した事を簡単に語り、聯合艦隊に賜はった勅語を奉読され、而して後左の如き奉答文を読み聞かされた。
「優渥なる勅語を下し賜はり臣等感激の至りに堪へす、臣は麾下の将卒と共に本日佐世保軍港を発し聖旨を奉体して犬馬の労を盡し、以て聖恩の万分の一に報い奉らんことを期す。 出師に臨み誠恐誠徨謹んで奏す。」
次で勇壮なる訓示があつて乗員一同益々感激勇躍した。
午前九時三十分第一駆逐隊は先発し、次で我が三戦隊も錨を抜いた。 各艦何れも登舷礼式を行ひ、見送る人と送らるゝ者、陸に海に人出を築き、国旗や帽子や又は半月布を打ち振りつゝ萬歳の声は各所に湧き起る。
佐世保海兵団よりは軍楽隊を派遣し、勇ましき軍艦マーチの奏楽を以て威風堂々たる艦隊出征の首途を祝福した。
(続く)