2011年05月16日

『艦船乗員の伝統精神』 − (20)

著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)

  第二章 海上作業の要訣 (承前)

    第二節 経 済

 「物を旨く使う」 と言うことは、運用作業上極めて緊要にして、之を亦経済的なりとも言い、能率ある仕事とも言う。 如何なる作業を為すにも能率と経済との関係は車の車輪の如く離るることを許さないのである。 而して経済の根本義は人、物、時とに論なく無駄を省き能率ある仕事を完成するにある。

 大谷中将 (既出) は次の様に説明して居る。

 「運用と経済は寧ろ同一語である。 苟も経済を無視したる運用は畢竟 「エネルギー」 の浪費にして、延いては国力の叛逆的消費である。」

 尚安全第一を唱えて徒に 「エネルギー」 を空費し、或は 「事勿れ主義」 を 「モットー」 として貴重なる時間、莫大なる人力と物との浪費を戒められて居る。 誠に至言であると思う。


      第一項 人の経済

 総て艦内諸作業を行うに当り、監督者は常に最小限度の配員を以て作業を最も簡易適切に遣り遂げると言う工夫を凝らして、之を部下乗員に教え導き、常に無駄のない仕事をやらせる様に仕向けることは海軍の現状を一新せしむる為に大切な要件であると思う。

 4年前永野大将 (修身、海兵28期) が赤軍の長官になられた時、私が伺候したら斯う言うことを言われた。

 「実に人を余計に使い過ぎる、1本の索にも沢山たかっておる。」

 誠に其の通りにして、天幕1枚を畳むにも、又短艇を1隻揚げるにも、人の経済等と言うことは頭に考えてない様である。

 吾々は候補生時代より作業に対する適負と言うことは、特に喧しく先輩より教えられて居ったのであるが、軍艦其のものの習慣や規則も人を経済的に使う様に改まって居らぬ点もあると思う。

 例えば 「メーンデリック」 にて、水雷艇を揚げる時、艦が少し傾斜して居ると一舷の 「ガイ」 は非常に楽であるが、他舷の 「ガイ」 はなかなか重い。 斯う言う時も分隊の受持と言う規定を墨守して楽の方の作業員を苦しい方に融通して経済的な運用作業を遂行せんとする人が少なく、只うんうん引張らせ多大の時間を浪費して居る。

 又毎日数回ある甲板掃除に一々出てくる兵員は行列の如く多数にして、手ぶらにて只続いて歩いてる者も相当にある。 自分は副長時代に随分八釜しく言って之を改めさせた。 元来海軍の様に人を不経済に使う所は無い様である。 日課手入等も断然改善する余地があると思う。

 第一其の方法が旧式であって、一々狭い隅々の 「パイプ」 の上を拭いて居る有様は、丁度障子の桟を一つ一つ雑布で拭いて居るも同然である。

 抑も居住区に塵埃の多いのは起床時に毛布を払うことに因るもの多く、奮発して毛布 「カバー」 を造ってやれば直ぐ解決のつく問題にして、石炭を焚かざる今日の船には塵埃の出ようが無いと思う。 之は人と時間の経済のみならず衛生上の見地よりも大なる問題であると思う。
(続く)
posted by 桜と錨 at 21:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 艦船乗員伝統精神(完)
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