著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)
第二章 海上作業の要訣 (承前)
第一節 安 全 (承前)
第三項 確 実
日常生起する運用作業は一般に軽視せられ易く、為に注意を欠き粗漏に流れ不知不識の内に乗員の気分を無精に導き、遂には大事を惹起し、或は艦の保安に関し、或は人命を損傷し事物を毀損する等、其の波及するところ以外に甚大なるが如し。
例えば日常の教練に於いて防水扉蓋の閉鎖に手を抜き形式に流れ常に其の作動並びに水防の良否を確めざる結果、実際に処して其の用を為さず艦を危険に頻せしめたる例多し。
又入港に当りては、錨鎖を一時 「スリップ」 に持たせ確実に投錨する規定なるに拘らず、其の手順を省略し直接制動機に依り之を行い、遂に錯誤を生じ錨を亡失したる例あり。
故に、「海上勤務者として最も必要なる性格は、何事も几帳面に処理し確実にして安全なる作業を遂行するに在り。」
古来幾多の失敗は、放漫なる 「ダロウ」 主義に起因すること多し、注意を要す。
艦船繋泊中浮標に錨駐しある鉄枷の 「スモールピン」 一本離脱すれば錨鎖も次いで離脱し、大艦も忽ち坐洲又は触衝の大事件を惹起することとなる。
一般艦船に於いても、強風の前後には必ず 「スモールピン」 の状態を調査し、其の良否を届けしむることを習慣とする必要あり、斯る手段は艦の保安のみならず、乗員に対し確実と言う気分を植付ける躾として軽視すべきものではないと思う。
確実に事を処すると言うことは、安全を期す為万事に必要なることは勿論なるも、吾人は艦の保安に関しては絶対に之を厳守せざるべからず。
艦船が艦位の不正確なるを知りつつ航行を続け、坐礁の悲運に際会したる例は枚挙に遑なき程多数に上りつつあり、注意を要すべきである。
(続く)