2011年04月27日

安保清種の砲術 (10)


二十七、装甲鈑の背後に於ける充実せる石炭庫は防御上極めて有効なるを実証したり 防御甲板上の炭庫には中甲板の裏面迄毎に隅なく石炭を充実し置くは戦に臨むの準備として特に注意すべき要件の一なりとす


二十八、弾片防御用として釣床 「マントレット」 等の有効なるは既に普く了知せらるる処なりと雖も今回の海戦に於て其効果実に驚く可きものあるを実証したり

殊に艦橋、小口径砲の背後、砲塔砲廓の指揮塔空隙の側背等に使用したる釣床の如きは孰れも多少の破片弾片を食止め明かに人員砲具等を防護し得たる実跡を留め前檣中部の周囲に併縛したる釣床及び司令塔の周囲を巻きたる索具の如きは亦多数の破片弾片を食止め大に其散乱を防阻したるを証せり 「マントレット」 は釣床に比すれば少しく劣る処ありと雖も依然有効なりし


二十九、12尹砲塔の自働照準装置は全くに精巧に失し往々歪みを生じ易きの慮あり直接式に改良を要す

尚砲塔砲に照準器改装手を必要とするは一般の認むる処にして其位置と照準器に相応の設備を要す


三十、今回の海戦に 「ボロジノ」 型戦艦が砲弾に対して比較的脆かりしに反し 「クニヤージスワロフ」 が幾多の魚雷攻撃を被りしに拘わらず (魚雷の幾発が命中したりしやは固より不明なれども殆ど運動の自由を失いたるものに対し孰れも近距離より発射したるを以て割合に多数の命中ありしを推し得べし) 沈没容易ならざりしは此同型艦の特色たる水線下裏面の特製甲鈑が預って少なからざる効果ありしに由るに非ざるか兎に角戦利艦 「アリヨール」 に就きて充分装甲法を講究し新艦防御上の参考に資すること目下の急務なり


三十一、12尹砲発射に際し砲塔の換装室及其弾薬庫に在りし者は其激動の強弱により射弾の徹甲弾なると鍛鋼弾なるとを容易に区別し得たりしと言う 思うに両者其弾壁の硬軟により筒 (「月」 偏に 「唐」) 面に摩擦さうるの度に強弱あるが為に非ざるか筒内作用の参考に資するに足るやを思い暫く茲に付記す



 以上が6回に分けてご紹介した加藤寛治の 『日本海海戦に於ける実験事項並びに将来の改良に就いての希望』 の全文です。

 まさにこれが連合艦隊旗艦 「三笠」 砲術長による日露海戦における砲戦・艦砲射撃の総括であり、当時の関心事がどこにあったかを示すものです。

 そして砲術について言うならば、これを要するに 「三笠」 においてさえ一斉打方は実施していませんし、ましてやその必要性も着想もまだ無かった、ということです。

(この項終わり)

posted by 桜と錨 at 17:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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