2011年04月14日

安保清種の砲術 (7)


九、下瀬弾の特長たる其爆裂効果は別問題として其命中弾の顕著にして遠距離にありて容易に識別し得るの点は実に砲火指揮上偉大の効果あるを認むると同時に其近弾が著しく敵の照準発射を妨ぐるに効ありしは益々其実証を示したり


十、我下瀬弾と雖も命中の箇所により其爆煙を認め得ざりし事往々あり殊に徹甲弾に於いて然りとす恐らくは船体を貫きたる場合ならんか

我十二尹砲弾が五千二百の距離に於いて工作船 「カムチャッカ」 に命中し遂に爆煙を挙げざりしも其一例なり


 下瀬火薬については、装甲に命中した際に薬室内の前部に圧縮され伊集院信管作動前に不完爆となったとの指摘もされており、「三笠」 側から炸裂しなかったと見えた場合の個々の事象が信管不良により作動しなかったのか、あるいはこれによるものかのどちらであるのかの詳細は今日となっては検証不可能です。

十一、海戦中目撃し得たる限りに於いては水面を打ちたる我が砲弾の約三分の一は爆裂したり 敵弾の我艦に命中して爆裂せざりしものありしも又往々水面爆発を致したるものありし


 ロシア海軍においては、徹甲弾・徹甲榴弾については遅延信管が使用されていたことはその捕獲艦からも明らかにされていますが、榴弾 (旧海軍で言う鍛鋼榴弾) の場合の信管については不明で、本項からすれば瞬発信管が用いられていたことも考えられます。

十二、十二尹砲は固より六尹砲に於いても交戦中一発毎に特製 「ポンプ」 を以て筒 (「月」 偏に 「唐」) 中を洗浄せしめたるは砲身冷却として夫れ自身有効なりしのみならず自然濫射を防ぎ砲員は頭脳を冷静ならしむるに間接の利ありしを認めたり


十三、四千五百乃至五千米突以外の射距離に於いて十二听砲以下の砲員受弾員等を毎々防御部内に位置せしめたるは大いに死傷者を減じたる一因なりし 戦闘中は必ず実施すべき守則の一なりとす


十四、六尹及び十二听砲揚弾機は今回の戦闘中殆ど故障を不見して其供給速度も毫も不足を感ぜざりし

然して各揚弾機の 「チェーン」 を通ずる滑輪の周囲に帆布帯を巻きたると十二听揚弾機の一部は 「チェーン」 に換ゆるに索を以てしたるは大いに各部の喧噪を減じ号令伝達の防害を少なくせり


十五、敵の陣形混乱の場合に際しては往々二様の目標を選ぶの必要あり 且つは両舷戦闘の必要上より距離測定器は必ず二個を艦橋若しくは其付近に常備するを要す

同一目標に対する場合にありても両者を参考とするは大いに利あるのみならず激動のため中途にして器も歪を生じたる際之を更換する間一方に於いて有効なる測距を継続し得るは至大の利益にして今回自然に実験したる処なり


十六、発砲電池、夜中照準用電池等の不能に帰するは使用の繁閑、潮、雨、寒暑に曝露するの多寡等種々の原因よりして戦時特に其多きを見る 本艦に於いて本年二月中旬呉出港以来五月上旬まで約三ヶ月間に此種の電器五百九十四個中不能に帰したるもの其数実に百八十三個の多きに及べり

今不能に帰せし電器毎月約百分比を挙げれば左の如し 尚参考として八雲に於いて実験したるものを保記す

     (表 略)

兎に角各艦は毎月約一割の電器を失ひつつあるものとして三笠にては毎月平均六十余個の電器を新にする必要あり

幸いに工作艦運送艦等の便豊なりしを以て毎々良好の状態を保ち得たりしも扨て戦場に臨むや風波起こりして海水瀑の如く砲門より進入し中甲板砲の発砲電池は短電路のため不能に帰せしもの多く主として信頼使用したりしは 「トランスフォーマー」 よりの 「ダイナモ」 電流なりし

然して我六尹砲の撃発装置の如きは遺憾ながら最後の副装置として信頼し難きものあり 各艦各砲に 「ダイナモ」 電流の応用は特に其必要を見る

又駆逐艦の如きは平素に在りても潮雨の爲め其電池を侵さるること多く海戦当日の如き殊に甚だしかりしと云う 駆逐艦装備の十二听砲に限り全然撃発専用に改むる方寧に簡単にして有利なりと認む


十七、通信近刊を導くに防御部内を通ずるは固より緊要なりと雖も伝話管の如きは其委曲延長の結果大いに通信の明瞭を欠くを免れずして今回の戦闘に於いても司令塔よりの後部六尹指揮塔に通ずるものの如きは殆ど用をなさざりし

艦橋と前後砲塔共に各指揮塔間の如き砲火指揮上最も緊要なる箇所には別々副装置として成るべく屈曲少なき大径直通伝話管を導き其破損せらるる迄の間極めて有効なる指揮を継続するは少なからざるの利益あり

又高声電話器は酣戦の際に於いても蓄音機的一種異様の発音をなすを以て場合により伝話管よりも有効なりしと云う


十八、「バー」 式距離号令通報器は戦闘中毫も故障なく終始有効なりし


 この件については、先の 「加藤寛治の砲術」 において黄海海戦時の戦訓として距離号令通報器は故障が多い旨がありましたが、工作艦 「関東丸」 による現地での目盛板の改造と併せての改修の成果が現れたものとも考えられます。
(この項続く)
posted by 桜と錨 at 12:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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