2011年04月10日

安保清種の砲術 (6)


二、砲戦の要訣は沈着精確なる射撃を以て努めて多数の命中を期するにあり 今回の海戦に於いては比較的近距離に在りても主として徐射常射を用い命中の確実を博し得たり

然れども艦砲射撃教範に規定しある徐射なるものは別に其必要を認めず一門毎の発射速度を著しく制限するは反て射手をして無為に困ましめ且つ砲台一般の労力不経済を免れず

寧に砲台の指命発射を以て常射を行い所謂砲数の制限を以て全艦の射撃速度を加減するを可とするが如し

従て徐射の号音も其必要を認めざるのみならず酣戦の際常射より徐射に復せんとする場合の如き往々急射の号音と誤解を来すの恐れあるを覚ゆ


 「指命打方」 を常用とし、それによって間接的に射撃速度を調整するとうアイデアであるということは即ち、「三笠」 砲術長をもってしても 当時はまだ本射における 「一斉打方」 の必要性は認識しておらず、かつ斉射間隔によって射撃速度を調整するという発想も無かったことになります。

三、敵の陣形混乱に陥り各艦右往左往に運動するに当たりては各砲台をして誤りなく艦橋より令する目標を会得せしむるには頗る困難を感ず 殊に目標返還の際の如きは酣戦中と雖も一時打方を中止して普く目標を会得せしむるの必要に迫らるる事多し

此場合に所するため艦橋及び各指揮塔に画度 「ダイレクター」 を備え各砲座には悉く旋回度を画し置き正横線を基線とし前方何度にある二煙突戦艦、後方何度にある三檣敵艦と令するが如きも大いに所令の目標会得を速やかならしむるの一手段なりとす

又た指揮塔を少しく外方に突出せしむる等其耕藏を多少の改良を施し塔内より直接砲台の砲身を視得る様にし砲台長をして毎に揮下の諸砲が果たして目標を誤解し居らざるや否やを確かめしむるも極めて緊要なり


 「ダイレクター」 を日本語にすると 「方位盤」 ですが、安保清種がここで言っているのは、今日で言う 「目標指示器」 の一種のことです。 つまり、「一斉打方」 によって有効な斉射弾を構成するための一元的な照準の必要性による、後の 「方位盤」 のアイデアではないことに注意して下さい。

四、海戦の際彼我離合し打方を開始する場合には毎に試射として一舷六尹砲の斉射を用いたり 或場合には其単発試射に優ること遠きを感ぜせしめたり


 適正照尺、つまり当時で言う 「決定距離」 を早期に得るための方法としての斉射の必要性を言っていますが、本射における連続した有効弾獲得のための斉射の必要性は言っておりません。 つまり、まだ安保清種には 「一斉打方」 の発想も必要性も無かったことになります。

五、砲戦中僚艦の弾着と混同して自艦の者を識別し能はざるに到らば近戦中に在りても一時打方を中止し 更に一斉試射を以て砲火を再始する事最も緊要なり


 砲側照準による独立打方であったからこそ、集中射撃時における弾着錯綜によるこの戦訓が出てくるのであって、本射も一斉打方であったならばこの意見が出ることはあり得ません。

六、混戦中自艦及び僚艦の落弾目標の幅に蝟集する場合に於いても四千米突内外の距離に在りては発砲の瞬時より其飛行を注目せば艦橋より自艦十二尹砲弾の弾着を区別し得ること比較的容易ならん


 射距離4千メートルにおける12インチ砲の弾丸飛行秒時は6.5秒ですので、秒時計などを使わなくとも弾着時期が判別できるという意味であって、決して目で弾を追えるということではありませんのでご注意を。

 もちろん、12インチ弾でしたら状況によっては瞬間的に弾が見えることはありますが、砲煙や発砲の衝撃等々によって常に確実かつ容易に見えるということはあり得ませんし、砲術長がこれをやっていては他の肝心なことが何もできなくなってしまいます。

七、高度低き日光に面して砲戦を交ゆるは照準の困難は兎に角弾着を識別し能わざる点に於いて極めて不利なり

廿七日海戦の末期に於いて 「ボロジノ」 「アリヨール」 等に対する際の如きは日光の爲め艦橋より僅かに十二尹砲弾の弾着を認め得るに過ぎずして専ら上檣楼監視将校の言を信頼し弾着の修正を施したるも到底其効果少なきを悟り一時打方を中止するの已を得ざるに到れり

風波高き時風下に位置するの不利亦た之に譲らず


八、上檣楼に弾着監視将校を配すること並びに上檣楼、艦橋間の通信確保は緊要事項なり


 この第7項及び第8項については、特にご説明するまでもないことでしょう。
(この項続く)
posted by 桜と錨 at 13:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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