2011年04月07日

安保清種の砲術 (5)

 さて、日本海海戦当時の「三笠」が実施した艦砲射撃について、最後のダメ押しを兼ねて、その総括に入りたいと思います。

 前回、砲術長安保清種の実施した砲術について 『三笠戦闘詳報』 から抜萃してご紹介しました。 この報告書は 『日本海海戦戦闘詳報 第一号』 (三笠機密第151号、明治38年6月10日) として連合艦隊司令長官に提出されています。

 この戦闘詳報は戦闘実施の詳細について、いわゆる “記録” として報告することが定められていますので、戦訓事項については本来的な意味からすると付加的なものです。

 そこで 「三笠」 艦長の伊地知は、将来の海戦及び戦備を念頭にこれまでの戦訓に基づいた改善・改良について、自らはもちろんのこと、主要幹部を始め、初級士官や候補生、准士官に至るまで広く意見を集め、これを纏めて連合艦隊司令長官に提出しました。 現場担当者の率直な意見をそのまま全て出した訳です。

 これが 『第二期戦闘中ノ実験ニ依リ攻究シ得タル事項並ニ将来改良ヲ要スベキ諸種ノ点ニ付キ意見』 (三笠機密第177号、明治38年7月4日) です。

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( 防衛省防衛研究所保存保管の史料より )

( なお、軍令部及び海軍省も同様の意見聴取の必要性を認め、8月8日になって 「官房機密第943号」 により全艦艇から提出させることとしました。)

 伊地知艦長自身の意見を始め、それぞれ大変に興味深いことが沢山書かれていますが、ここでは本題に沿って、当の安保清種砲術長の提出分からその全項目をご紹介します。

 当時の艦砲射撃について砲熕武器と砲術の両方の実態について記されているとともに、当時の戦艦の砲術長としてどの様な事が関心事であったかが判る貴重なものです。


   日本海海戦に於ける実験事項並びに将来の改良に就いての希望

         三笠砲術長 海軍少佐 安保清種

一、砲火の指揮は全然艦橋に於いて掌握するを原則とし指揮に関する通信系統は必ず之に基づきて設計するを要す

射距離は固より苗頭も総て艦橋より令するに尤して困難を認めず然して四千内外の距離に於いては我が集弾を目標中の任意の部に移し導くを要すること屡々なり

例えば前砲台は殆ど沈黙したるも後部主砲尚ほ存する時は此部に集弾を要するが如き即ち然り是を以て苗頭も其基準を艦橋より令すること極めて緊要なり

艦橋より通信連絡杜絶したる場合には砲台若しくは各砲の独断専行に任ずる事固よりなりと雖も之れには自ら程度あり 幾種の通信装置悉く破壊するも艦橋の本能にして全廃せられざる限りは人員の往復伝令を以て最後の通信手段とし飽迄 「ブリッジコントロール」 の主義を持続するは多少発射速度に関係を及ぼすべきも比較的不確実なる砲台若しくは各砲の独断専行に優ること萬々なり

今回の海戦に於いて本艦の六尹七番砲廓の甲板敵弾に破られ廓内の砲員悉く死傷し通信機関亦た破壊せらるる中勇敢なる 番砲手は疾を忍んで独り砲側を離れず自ら弾薬を装填し一発毎に走りて廓外に到り中甲板伝令員に就き一々距離苗頭を確かめて縦横尺を整ゆ以て有効なる発砲を継続せり (注)

又た六尹三番砲廓は戦闘の初期敵弾を被り其指揮塔より艦橋に通ずる通信装置は悉く破壊せられたるも一伝令員を廓外に出し艦橋伝令の黒板に注意せしめ終期迄有効なる通信を確保し得たり

蓋し酣戦の際一発毎に砲側を離るるが如き或いは廓外に一伝令を配するが如き如何にももどかしき観ありと雖も不確実の縦横尺を以てする命中なき速射に優るや遠し 即ち砲火の指揮は艦橋の本能廃せざる限りは終始艦橋に於いて之を司らざる可からずとの断案を下すに憚らざる所なり


(注) : 6尹7番砲の事とし、かつ砲手番号が未記入ですが、「三笠戦闘詳報」 を見る限りではこれは6尹5番砲の事で、当該砲手は5番の野村幸平二等水兵の事と考えられます。


 既に何度もご説明してきましたので更なるものは不要と思いますが、ここに記されてるのは砲側照準による 「独立打方」 を如何に有効ならしめるか、ということ であって、 「一斉打方」 の方法ではありませんし、勿論この要領では 「一斉打方」 はできません。
(この項続く)
posted by 桜と錨 at 12:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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