著 : 坂部省三 (元海軍少将、海兵37期)
第一章 海上勤務の特殊性 (承前)
第二節 基本的型式の超越
運用術は其の範囲広範千変万化にして、一定の方式に限定することは出来ないが、各種の作業に応じ古来幾多の経験に立脚して大凡軌を一にする型式があるものである。
海上勤務者は平素之に依り基本の修得に努め、常に正して作業を遂行し、安全にして而も効率ある成果を収めなければならない。
然れども、時に依り状況に応じては毫も型式又は習慣等に捉われることなく、或は原則をも破って敢行する用意と覚悟とが必要である。
「兵に常勢なく水に常形なし、能く敵に因って変化す」 とは船に操縦する教訓として伝えられたるものなり。
又衝突予防法に規定せらるる権利船と義務船との関係も結局は衝突防止上定められたる法式ではあるが、状況に依りては其の規定に依ることの出来ない場合もあり、相互が之を適切に運用して始めて価値を生ずるものである。
尚一例を示せば、艦船が浮標繋留中、錨を投下する場合は浮標下の枝錨鎖を拘束せざる様投錨せよと戒められて居るも、荒天に際し繋留錨鎖が切断せる如き場合には之等の常例を破り迅速に反対錨を投下し、反て枝錨に引懸けた方が船の繋駐力を増大して安心なりと言うことになる。
要するに運用術の妙諦は、唯型式に捉わるることなく 「当面の状況に即し臨機応変最善の仕事を達成するに在り」 と言われておる通りである。
(続く)