2011年03月13日

安保清種の砲術 (4)

 続いて同じく 『日本海海戦戦闘詳報 第一号』 (三笠機密第151号、明治38年6月10日) から、今回はその第13項 『戦闘中の実験に依り将来改良を要すべき点』 に記されているものをご紹介します。

 まず同項の中の 『砲銃水雷其他通信之部』 から砲術関係を抜萃します。

(一) 我海軍の安式12尹砲は多数発砲に際し筒圧に対する耐破力を較々欠くる処あるやの疑あり 将来の造砲に就ては充分改良を要すべきものと認む ・・・・(後略)・・・・


(二) 本年5月三笠機密131号を以て意見上申に及びたる12尹砲々身注水冷却装置並に同5月三笠機密191号を以て意見上申に及びたる6尹砲筒中注水冷却用ポンプは実戦に際し充分有効なるを認めたり ・・・・(後略)・・・・


(三) 海戦当日の風波強かりし為め中甲板6尹砲は絶えず海水の浸す所となり ・・・・(後略)・・・・


(四) 戦時一等巡洋艦以上に対しては今日の定額弾数の約半数を増載せしむる事絶対的に緊要なるを認む ・・・・(後略)・・・・


(五) 一舷戦闘に於ても敵艦隊混乱して方向亦区々たる時に在りては屡々目標を変更し数けの目標に向かって砲火を分つ事多きのみならず激動の為め距離測定器其物の歪を生じ易きを以て測距器は少なくも前艦橋に2台据付くるの必要を認む ・・・・(後略)・・・・


(六) 防御部内を屈曲通過する電話管は戦時避くべからざる騒声の為めに頗る其明瞭を欠き殆んど用をなさざりしもの多し ・・・・(後略)・・・・


(七) 戦闘に当り各種の命令を最上艦橋より司令塔に下すに単に一条の電話管によるは頗る通信の迅速確実を欠く嫌いあるを以て ・・・・(後略)・・・・


(八) 本年4月三笠第49号を以て上申改装したる距離命令通報器は歪を生ずる事なく ・・・・(後略)・・・・


(九) 高声電話は一種独特なる蓄音機様の音声を発する為め砲声盛なる時に於ては電話管に比し頗る結果良好なりし ・・・・(後略)・・・・


(十) 敵12尹砲弾の本艦6尹装甲板を貫きたる其2個所に就き甲板の破片弾片弾痕貫通の実跡等を推究するに敵12尹砲弾は徹甲実弾と徹甲榴弾の2種あるを認むるを得べし ・・・・(後略)・・・・


(十一) 砲門を開きたる場合に其下扉の其位置に於ける 「セキューア」 は薄弱なり ・・・・(後略)・・・・


 以上の11項目が砲術関係の戦訓として記されているものです。

 そして、この第13項 『戦闘中の実験に依り将来改良を要すべき点』 の総括としてその最後に次の様に記されています。 その全文をご紹介します。

 之を要するに今回の海戦に於て造船、造兵、艤装、兵装其他各種の事項に対し実地に教訓を示したるもの多々なりと雖も彼我全力を挙げたる堂々たる海戦に於て空前の大勝を博し得たる所以を稽うるに

 無線電信が敵情偵察、勢力集中等の戦略上に資するの効果大なりし事

 実戦に射撃に幾多の経験を重ね我射撃の技倆著しく優逸なりし事

 下瀬弾の威力極めて偉大なりし事

 其命中弾明瞭にして砲火指揮上至大の効ありし事

 二三遁走敵艦を除くの外我が速力概して彼に優りたる事

 魚雷襲撃の効果確実なりし事等其主因にして交戦距離比較的近かりし事

 敵艦が石炭其他を過度に増載して帯甲水線下に没し居たる事

 風波高くして乾舷の較々低き部に穿ちたる弾孔は著しく浸水の媒たりし事

 防御甲板上に浸水傾斜したる儘高浪中に転舵し自然 「ツリム」 を失いたる事等敵装甲艦の沈没を容易ならしめたる一因なりと認むるを得べし

 果たして然らば吾人は我の由て勝ちし所以の特長に顧み愈々講究訓練の歩を進め彼の由て敗したる所以の欠点に鑑みて益々改良刷新の途を講ずるは将来の一大要務とする処にして尚ほ我下瀬弾が強猛無比の高度爆発弾たるは開戦以来の実績に徴し各国の等しく直接間接に認識し挙つて之が探求に努めんとする処となるを以て此際一層其秘密を厳にする必要あると同時に我に於ても高度爆発弾の防御に対する造船上の講究は特に其要を認む

 又特種水雷は今後の海戦に於て大に其効果を発揮し得べきを以て苟も快速を有する艦艇には悉く之れを備える事とすれば一層水雷の効果を確実にすべしと信ずるが故に充分秘密を厳にし尚ほ其構造並に使用法に関し益々講究を重ぬるの必要を認むるものなり
太字 及び改行挿入は管理人による)

 つまり 『三笠戦闘詳報』 の中ではその戦訓事項として「今後は一斉打方でなければならない」 とか 「変距率盤は有効だった」 とかは一言も出てきません。 当たり前のことではありますが。

 もし本当にこれらが日本海海戦直前に導入されていたことが事実であるとするならば、まずその事が最大の戦訓として記されなければならないはずです。

 したがって、日本海海戦における 「一斉打方」 の実施のことも、また遠藤氏の主張する英国海軍某大尉の持参したとする 「変距率盤」 の話しも、この戦闘詳報の記述によって完全に否定することができます。

 もっとも 『別宮暖朗本』 の著者なら、“重大な極秘事項を隠蔽するために戦闘詳報から削除した” ぐらいは言い出しかねません。

 実際に当該書の中で

 『公刊戦史』 もロシア側の 『露日海戦史』 も同様であるが、デスクワークに専念する少壮官僚の作文であって、実際的な問題を精神主義的なことに置き換えることが多い。 連合艦隊が日没による砲戦時間の終了を考慮すれば、早めの出撃をなすべきだった、との批判にそなえ、信濃丸の通報時刻をわざと遅らせたものだろう。
(p291) (p302) 

 などと平気で言い放つほどですから。

( 上記については、既に 「203地点ニ敵ノ第二艦隊見ユ」 (前・後編) で根拠を示して絶対にあり得ないことをご説明済みです。 余りもバカバカしい話しですが。)


(この項続く)
posted by 桜と錨 at 13:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
プロコンスルです。

既に御存じでしょうが、別宮氏が『帝国海軍の勝利と滅亡』(文春新書)という本を出しました。

既刊本と新刊書の内容が矛盾することが多いのが特徴のこの方(同じ本の中ですら矛盾する記述がある場合もある)ですが、今回も不可思議な内容が幾つかあります。

まだ全部読んだ訳でもないですが、『「坂の上の雲」では分からない」シリーズで「山本権兵衛海軍オーナー説」を否定しておきながら、新刊書では「山本権兵衛が海軍を作った」(第一章の題目)とか書いています。真実はともかく、どちらが貴方の主張なの?と聞いてみたくなります。

また「どこの国にも共通して陸軍では、下士官から将校もなる道がある。ところが海軍にこの登用システムはまず存在しない。将校は始めから将校であり、下士官や水兵の身分も変わることはない」(p26)「…海上自衛隊幹部候補生学校の入学資格は防衛大学校、防衛医科大学校、大学卒業であり…」(p34)という本気で言っているの?と思うようなことも書かれていて驚きます。

御存じのように少なくとも海上自衛隊には兵隊(下士官を含む)から士官になる道はあるし、また候補生学校の入学資格は「大卒」ではなく「大学卒業程度の学力を有した者」(←地連の方に確認済み)ですから、この見解は間違いです。また米海軍には3等水兵から幹部候補生を経て士官となり、作戦部長にまで登り詰めた方(ジェレミー=マイケル=ボーダー大将)がいらっしゃることも氏の説を否定する根拠となると思います。

どうも根拠不明なことを堂々と主張なさる方のようでびっくりしてしまいます。
Posted by プロコンスル at 2011年03月27日 16:48
プロコンスルさん、こん**は。

ここでは話のネタに彼の著作の一つを引用しているだけで、他のものには言及しておりませんが、結局その程度の人物と思います。

彼にとっては事実・史実などはどうでもよいことで、何かセンセーショナルなことを書けば読み手の注目を引いて名前が売れると考えているのでしょうね。
Posted by 桜と錨 at 2011年03月27日 18:17
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