本連載を読まれて、もしかすると船に乗られたことのない方々の中にはここで例示された事項を採り上げて、 “旧海軍とはこんなにお粗末なことをやっていた組織だったのか” と言い出される人がおられるかも知れません。
しかしちょっと考えればそれは間違いであることがお判りになるでしょう。
この 『運用漫談』 は部内に対する啓蒙書であって、部外一般に対する海軍の案内書ではありません。
したがって、ここで示されているものはそのための例であって、“気を付けないとこういう傾向に陥りますよ” という注意喚起なのです。
この点はお読みになる際にご注意いただきたいと思うと同時に、船乗りとしての一つの着眼点であり、「シーマンシップ」 とはこういうところにもある、ということをご理解いただけたらと思います。
そして、私としては海上自衛隊の現役諸官にも温故知新として是非じっくりと味わって欲しいものの一つと考えているのですが ・・・・
余談ですが、写真は今でも大事にしている私の 「テスト・ハンマー」 です。

これは昔三菱長崎造船所に修理で入った時に、同社の親しくしていた方が廃材で作ってくれたものです。 高張力鋼の非常に堅いもので、ちょっとやそっと物を叩いたくらいでは傷一つ付きません。
これを貰ってからは、停泊中や修理中に艦の甲板を見回る時にはほとんどいつも持って歩くことにしました。 そして船体に銹が出始めているところを見つけると、これでトントンとやってペンキを剥がしておきます。
船というのは銹はつきものです。 ですから、ちょっと時間が経つと到るところに出来ます。 初めはペンキの下の鋼材の表面に出来ますが、放っておくとドンドンと広がり、そしてその赤茶色がペンキの表面にも出てきます。
こうなる前の、下の銹でペンキがちょっと浮いたくらいの時に、早めに、かつ徹底的に銹を落としておくことが肝心です。
船では船体整備の担当エリアが乗員一人一人に割り当てられていますが、皆日々大変に忙しいので、銹落としはついつい後回しになって、後で纏めて一気にやろうという傾向になってしまいます。
しかしながら、こまめに早め早めにやっておくと、結局はそれが後で一番楽ができる方法であり、また船体を長持ちさせることなのです。
で、艦長が自ら銹の出かかったところをトントンとやってペンキを剥がしておくと、その場所の担当者はすぐにやらざるを得なくなります。
そして時々は乗員一同に、日頃の船体整備の大切さと、そのやり方のノウハウを話して聞かせることにしていました。
( 実は、意外とこの銹落としのコツを知らない若い幹部や隊員も多いのです。)
幹部や乗員の中には “艦長自らこんなことをしなくても” と思っていた者もいたかもしれません。 でも、船乗りの基本的な躾はやはり艦長自らやり、また言って聞かせることも大切な事だと思っています。 そしてこれを次の世代にキチンと伝えることも。
このテスト・ハンマー、私の良き思い出の品であり、大切な宝物です。
管理人 桜と錨
幸四郎の事について、祖父から伝え聞いた事しか知らず、いろいろと調べていたところでした。
まだ全ては読んでいませんがありがたく、じっくり読ませていただきます。
ところで運用漫談を入手しようとしてネット上で探していたところこちらに行き当たったわけですが、こういった書籍はどのようにして手に入るものでしょうか。やはり桜と錨様のような業界の権威ではないと手に入らない物なのでしょうか。
高知県と言う田舎に住んでおりまして、良い古書店などもなくなかなか見つけられずにおります。
アドバイス頂ければ幸いです。
当ブログで公開しました『運用漫談』の連載を大谷幸四郎氏のご子孫の方にご覧いただけますことは光栄なことです。
当ブログで使いましたものは、連載冒頭に記しましたように旧海軍の有終会がその会誌 『有終』 に連載したものを昭和9年に1冊として出版したもので、元々は旧海軍兵学校の蔵書であったものをコピーしたものです。
この昭和9年版は古書店で1000〜1500円ほどで手に入るようです。 インターネットの 『日本の古本屋』 から検索していただければいくつか出てきますので、ネット注文が可能です。
『日本の古本屋』 公式サイト :
https://www.kosho.or.jp/
ただ現物を手にとって判断できるわけではありませんので、そこは当たり外れがあるかもしれませんが (^_^;
なるほど、ネットで簡単に手に入ってしまうものなのですね。便利な時代ですね。調べてみます。
幸四郎の事他、いろいろ聞いた祖父も数年前に亡くなり、今は高知県の田舎の山中で、幸四郎の隣で眠っております。
昔の事を知っている者がいなくなった今、いろいろ自分で調べてみたいと思い調べていたところでした。
アドバイスありがとうございました。