2011年02月16日

加藤寛治の砲術 (10)

 9回に分けて加藤寛治 「三笠」 砲術長が自らものした 『八月十日の海戦に於て砲火の指揮に関し得たる実験要領』と、それを受けた 『三笠戦策』 をご紹介しました。

 さてこの項の最後に、例によって 『別宮暖朗本』 のウソと誤りだらけの記述についてです。

 5000メートルを超える中長距離砲戦では、斉射法は必須である。 ところが、現在に至るも誰が斉射法を発見したのかははっきりしない。 これは当然のことで、当時海軍砲術というのは、各国にとり死活的重要な国家機密だった。

 ただ、どの艦隊が実戦で初めて実行したのかははっきりしている。 すなわち日露戦争の黄海海戦の連合艦隊である。 このとき砲戦は1万2000メートルの遠距離で発生した。
 (p67) (p71) 

 「独立打ち方」 では、中口径速射砲がバラバラのタイミングで発砲するために、爆風が常時発生し、互いに照準をとることが困難である。

 また長距離実弾射撃をやれば、砲術計算の必要から 「独立打ち方」 が成立しないことは、誰でもどこの国でもわかる。
 (p68) (p72) 

  「斉射法を初めて実戦でやり、勝利した男」 の栄冠は戦艦三笠砲術長加藤寛治に与えられるべきだろう。 (p68) (p72) 

 結局イギリス海軍は、黄海海戦の観戦武官ペケナムの報告により、斉射法による長距離射撃が実際にできることを初めて知ることになった。 (p68) (p72) 

 この海戦を観戦したペケナムから (当時船便のため3ヶ月後) 長距離砲戦の概況報告をうけ、フィッシャーはドレッドノートと名付けられることになる 「オール・ビッグ・ガン・シップ」 の構想を練った。 (p208) (p215) 

 “外堀攻め” の 「艦砲射撃の基本中の基本」 から “本丸落とし” の 「加藤寛治の砲術」 まで、これまでのご説明で十分お判りいただいていると思いますので、もう何も付け加えることはありません。

 これを要するに、この 『別宮暖朗本』 の著者がいう艦砲射撃は、砲熕武器というハードウェアについても、そして砲術というソフトウェアについても、全くのウソと誤りの羅列に過ぎない、ということをその根拠を示して証明してきました。

 結局の所、最後の最後、この 『別宮暖朗本』 の最も核心部分でありキャッチフレーズでもあることについてさえ、この著者は全く何も “知らない” “判らない” “調べていない” ことが明らかで、それを棚に上げてのトンデモ話しでしかないと言うことです。

 しかも、加藤寛治がやってもいない 「斉射法」 などペケナムが報告できるわけもないのに関わらず、それを勝手に妄想した上で、英海軍の砲術の大家パーシー・スコットに対して、

 イギリス海軍のパーシー・スコットは鯨島砲術学校の校長となり、速射砲による連続射撃の実験を行い、本人は斉射の実験を1901年からしばしば試みたと回想している。 ・・・・ (中略) ・・・・ 唯一残るスコットの回想 (注) はイギリス海軍の実際と相当に乖離している。 (p68) (p71〜72) 

(注) : 『Fifty Years in the Royal Navy』 (Admiral Sir Percy Scott, 1919)


PercyScott_Fifty_01.jpg

 などと、何の根拠もない暴言を吐いてまで。

 この砲術の話しが 『別宮暖朗本』 の表看板としての “ウリ” だというのですから、まったくもって驚くばかりです。

 砲術はもちろん、海軍や艦艇についても何等の素養もない素人さんが調子に乗ってものした “空想” “妄想” 話に過ぎないものを 「これが真実だ」 と言う。 その揚げ句に暴言の数々。 余りにもお粗末です。

 そして更に言うなら、このような全くの素人さんの書いたものを、何等の裏付けも取らずに安易にそのまま本にして世に出す 「並木書房」 や 「筑摩書房」 の出版社としての姿勢も当然問われて然るべきでしょう。
(この項終わり)
posted by 桜と錨 at 12:26| Comment(2) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
桜と錨様

桜と錨様の解説で、やっと三笠戦策の内容が理解できました。ありがとうございました。これで、この史料を残された方の「思い」が現代に伝わったと思います。
Posted by へたれ海軍史研究家 at 2011年02月20日 21:13
へたれ海軍史研究家さん

こちらもお陰様で 「三笠戦策」 の時期と内容が確定できましたので、これによって次の砲術長安保清種の砲術の内容も確定できました。

この安保清種の砲術は、この後お話しする予定で準備中です。
Posted by 桜と錨 at 2011年02月21日 00:59
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