2011年02月15日

『運用漫談』 − (44)

著 : 大谷幸四郎 (元海軍中将、海兵23期)

  その16

 抑々ものを清潔にするには先づ整頓をよくせねばならぬ。 自分は常に掃除の八割は整頓であると唱へて居る。 整頓が出来れば掃除と清潔は先づ出来上つたと言うてよい。 整頓をせずしてむやみに塗り立てたりしても、夫れは田舎娘がお白粉を塗りたくる様なもので駄目である。

 而して清潔と整頓を保つにはどうすればよいかと言ふに、自分は整頓せんとせば 「整頓を崩さゞるに心掛けよ、清潔ならんとせば先づ汚さゞるに留意せよ」 と注意して来たものである。

 不注意に汚し不注意になげ込み、夫れが爲めに一挙手一投足の労で済む事を、十人役も百人役もにする事が如何に多いか、之れは分隊長や分隊士の大に気をつけねばならぬのみならず、吾人日常でも大に気を附けるべき事である。

 整頓を良くするに就ては、設計委員艤装委員からして之に留意せねばならぬ。 設計委員には時とすると若い技術官が来る。 経験不足からして飛んでも無い事をする。 某軽巡の艤装に當り驚いた事は、ハンドレール、スタンションがウォター・ウェー (注1) の中央に立つて居り、水は全く流れないのみならず、其の爲めに甲板洗方の仕事の多いこと驚くべきものがあつた。 極細かい事であるがこんな例は幾らもある。

 自分は某軽巡の艤装委員の副長を命ぜられた事が有つた。 設計によるとシート・アンカー (既出) が甲板へ平らに置く様に成つて居た。 若し之を其の儘に置かんか運搬作業は勿論、其の附近の甲板の掃除がどんなに面倒であつたか知れたものでない。

 依つて自分は之を運搬する時に使用する汽艇の両ダビット間の外舷に添はして締着する事にした。 外舷が穢くなると言ふ議もあつたけれども夫れは一寸注意すればよいので、年中大きな錨がデッキにゴロゴロしてゐるより利する處幾許ぞや、又た錨運搬の作集の迅速なるを得た事も幾許ぞやであつた。

 談が艤装の事に走つたから一寸艤装に就て書いて見よう。

 艤装委員と成るとアレが欲しいコレが欲しいと言うて無やみに取り込みたがる傾きがある。 處が造船家の方になると重量の開係もあれば豫算の関係もあるのでオイ夫れと承知しないので、えて造船家と艤装委員の啀み合が起るものである。 欲しいものは幾らでもあるが、船は戦争するものであると言ふ立脚點を忘れてはならぬ。

 前述の副長の時に戻る。 著任して見ると、さあアレが欲しいコレが欲しいが山積してゐる。 係り造船官に申出ると例の 「重量と換算」 を以て来る。 ヨシ夫れでは之れは不用だ、比のボイスチューブは此處で切れ、此の送水管は此處で切つて呉れ、と言うて調べて見ると可驚ほど重量の軽減が出来るのみならず、至極便利に成るから其の換りにコレコレを申出た。 さあさうなると造船官の方が閉口して大抵のものはやつてくれた。

 此處で一寸注意するが、設計に當りパイプアレンヂメントの様なものは、他の重要設備の爲めに軽現され勝ちで、爲めに不便や重量増加を来す事大なるものがある事に留意する要がある。

 船堂生、某駆逐隊の司令たりし時に、新たに竣工した駆逐艦が編入されて来た。 艦長大に要領を得て、係り造船官と親交を結んだものだから、随分色々の物を取り込み至れり盡せりの感があつた。 然し自分は戦争と言ふ見地から之を見て艦長には気の毒であつたけれ共、之れは不要、彼れは不要で、不要物を取外し、傳馬船二隻に満載して陸上の豫備艦倉庫に預けた事があつた。 之れは恐らく一生彼の駆逐艦の陸上倉庫に在つた事と思うて居る。

 近頃の最新式艦船を見るに、電気要具の發達や指揮装置の完成の爲めに、其の器械の多いこと、行き届いて居ること驚くべきものがある。 拝観して一寸考へさせられた。 軍艦は戦争するものである、敵弾は遠慮會釋も無く飛んで来る、一發此處へ来たら三萬五千噸台なしと成る。 十何吋の舷側装甲鈑何の用ありやである。 是れは大に考慮すべき事と思ふ。

 可成完全に、可成簡単に、可成軽快に、可成頑丈に、之れは設計上にも艤装上にも両立し難きコントラストではあるが、夫れだけ大に研究と留意を要する事である。

 設計や艤装上の理窟を言へば際限が無い。 漫談も簡単を要する。 艤装に就ては是れ位としよう。
(続く)

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(注1) : warter way、舷側にある水捌けのこと。

posted by 桜と錨 at 17:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 『運用漫談』(完)
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