2011年02月10日

加藤寛治の砲術 (7)


      砲戦策

    砲火の指揮

一、砲火の指揮は本職是れが大要を掌握し其の幾分を砲台長に委かす


二、六尹砲を以て他方の基準とし其の他の諸砲に在りては砲台長は基準砲の射撃諸元及び弾着に従い射距離苗頭を修正して正確なる命中弾を期すべし

但し六尹砲射程以外に在りては前部十二尹砲塔を基準とし艦橋に於て是が指揮を掌握す後部十二尹砲塔は射撃諸元の修正に於て努めて同砲に準拠すべし


三、射距離は毎百米突を変更することに弾着は不良と認むる時期に於て示令通告す可し


四、艦橋若くは司令塔より下令する者は何人たるを問わず凡て本職より出づる者と心得べし


五、砲火の開始及継続は大約左の要領に従はんとす


  (イ) 彼我の速力及射撃すべき目標を示す


  (ロ) 六尹砲に対する基準苗頭を推算し風力と共に此を砲台に令す
但し基準苗頭は射距離、風向、風力、本砲射角 (大約の) 及び敵の針路角に対する一切の諸元を改正したる者にして六尹砲は直に此を用いて発砲し得べき者とす


  (ハ) 砲台長、砲台附は六尹砲に対しては直に之を復令し其の他の諸砲に在りては艦橋より令せられたる基準苗頭と本砲固有苗頭との対照差を施し此を各砲に復令す
但し同一目標を射撃せざる場合に於て射角に甚しき差異ある某砲は砲台長に於て適宜の修正を加ふ


 当時の射撃実施要領の基本が「基準砲」を指定して行う方法であることは、既にご説明したとおりで、その事が実際に 「三笠」 の砲戦策でも規定されています。

 ここではもう特に付け足してご説明する必要はないでしょう。

  (ニ) 目標の変距至少にして戦況之を許す時は左の順序に試射を行はんとす

    第一次

(甲) 六尹砲一門づつを以て行う指命発射法
    本法は六尹砲中最も熟練なる射手をして各独立に試射を行う者とす

    第二次

(乙) 六尹前部砲台の一舷四門を以て行う混射法
    本法は砲戦の初期に当り弾着の観測容易なるも最遠距離にして測距儀
    の指示甚だ信頼すべからざる場合に行ひ常に三 (四) 番六尹砲を以て
    基準砲と定む

   一、号令
    右 (左) 舷六尹前部砲台混射にて試し打方 ― 等差何百苗頭距離
   (等差は通常四百米突以内とす)

    砲台長は令して基準砲たる三 (四) 番六尹砲をして艦橋より令せられたる
    苗頭及射程を採らしめ基準砲より番号少なき一 (二) 番六尹砲は基準砲
    より等差を減じたる射程を採り番号多き砲即ち五、七 (六、八) 番砲は等
    差を追加せる射程を採らしむ
    其の他の諸砲は総て基準砲と等しき苗頭距離に照尺を整へ 「打方待て」
    の姿勢を保つべし

   (例) 左舷六尹前部砲台を以て本法の試射を行はんとする時等差二百射程
    七千米突とする時は四番六尹砲は七千に、二番六尹砲は六千八百に六
    番六尹砲は七千二百に亦八番六尹砲 (此の場合丈は特に四番分隊長の
    指揮下に入らしむ) は七千四百の射程に整る如し

    試砲発射用意 ― 打て (電気通報器及言令を用ゆ)

    試砲は殆んど一斉に発砲し迅速に装填して次の令を待つ本試射法に依り
    射程を修正するは左の標準に依る

    四発の内三発遠弾なる時基準射程に等差の半を減じたるものを決定距
    離とす
    四発の内三発皆近弾なる時は基準射程に等差の一倍半を加えたる者を
    決定距離とす
    四発中遠弾近弾相半ばする時は基準射程に等差の半を加えたる者を決
    定距離とす

(丙) 六尹砲台全部若くは六尹前部砲台の一舷砲を以て行う発射法
    本法は混射法に依り略ぼ射程を発見したる後更に正確に射距離を修正せ
    んとする時若くは艦隊戦闘の如き場合に於て弾着の観測容易ならざる時に
    用ゆ

   一、号令
    右 (左) 舷六尹砲或は六尹前部砲台一斉に試し打方 ― 苗頭距離

    砲台長は之を復令す戦側の諸砲は総て令されたる苗頭距離に照尺を整
    へ 「打方待て」 の姿勢を保つ
    試砲に命ぜられたる六尹砲は迅速に目標を照準し発砲の令を待つ

    試砲発射用意 ― 打て (電気通報器及言令を用ゆ)

    砲台長は此を復令し試砲は 「打て」 の令にて照準の来ると共に殆ど一斉
    に発砲し迅速に装填して再び次の号令を待つ艦橋に於ては弾着を観測し
    上檣楼の報告を斟酌して新苗頭及距離を令し再三同一の試射を繰返し
    弾着正確と認むるに至らば決定距離及苗頭を砲台に令し 「打方始め」 の
    号音を以て諸砲台の砲火を開始す


(備考)

  一、本法は努めて多数の弾丸を某点に集ぎんし以て弾着点の識別を容易ならしめ斯くのごとき落弾の集束を前後左右し結局此を以て目標を掩ふに至らしむるを修正の極度となすにあるが故に試砲たるべき各砲は艦橋より令する所の射距離及苗頭を厳守し固有差の外毫も任意の加減を許さず


  一、斉射毎回の間隔は少くも廿秒内外なるを要す


  一、本法は砲戦酣なる時と雖も弾着の観測不可能なる場合には此を用ゆることあるべし


  一、混射、斉射共に 「殆ど一斉に発砲す」 とは 「打て」 の時機に於て各砲照準線の目標に来れる者より号令に従て発射し照準線の来らざるものは尚ほ一、二秒の間隔を置き正視の時機に於て発砲するの猶予あるを示す


   (丁) 六尹砲射程以上の砲戦に於る試射
  右の場合に於ては前部十二尹砲の試射に依り射程を定む試射は独立打方
  の要領を基本とし同一の苗頭距離を以て砲塔長及砲塔次長をして別個に照
  準せしめ砲塔士官の号令に従い砲塔長の発砲に従て砲塔次長も殆ど一斉に
  発砲する準斉射法を用ゆ
  後部十二尹砲は前項の試射を了り決定距離及苗頭を得 「打方始め」 の号音
  ある迄は発砲するべからず


 試射の要領について、(甲) 〜 (丁) の4つの方法が規定されています。 そして注目していただきたいのは、先の 『八月十日の海戦に於て砲火の指揮に関し得たる実験要領』 において “ダメ” とされた方法である (甲) の1門をもってする試射法の優先度が最も高く、通常の方法であるとされている点です。

 そして当該文書には出てきませんでしたが、当時としては一般的に用いられていた 「混射法」 と言うのが新たに付け加えられ、2番目の方法とされていることです。

 その理由については記されておりませんので詳細は不明ですが、結局のところ加藤寛治が当初主張した (丙) の6インチ砲の斉射による方法では、当時の装備・設備をもってしては、その後の訓練などでも思った程上手く行かなかったものと考えられます。

 それは上記の備考で色々細かく指摘がなされていることからも推測できます。

 これを言い換えると、当時としては 「斉射」 ということだけをとってもそれが如何に難しいものであったか。 即ち 『別宮暖朗本』 の著者や遠藤昭氏などが机の上で空想に耽って出来る様な簡単なものではない、ということです。
(この項続く)
posted by 桜と錨 at 18:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/43344330
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック