2011年02月06日

加藤寛治の砲術 (5)

四、砲台区分
   新式艦砲操式に拠る

 明治36年版 『海軍艦砲操式』 に基づく砲台区分は、「三笠」 では前部主砲、後部主砲、前部右舷6インチ砲、同左舷、後部右舷6インチ砲、同左舷で、後は補助砲の砲台です。 そして各砲台の砲台長が自己の各砲を指揮します。

 更に、既に 「距離通報器について (2)」 でご説明しました下図のとおり、明治36年の通信装置改善工事後においても、前部主砲〜後部主砲間、及び6インチ前部砲台〜同後部砲台間の通信装置 (伝声管など) が無いことにも注意してください。

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( 元画像 : 防衛省防衛研究所所蔵史料より )

 したがって、主砲、6インチ砲共に、先任の砲台長が他の砲台の指揮を採ることはできません。 つまり、砲台長では、全主砲又は片舷全部の6インチ砲の射撃指揮ができず、艦橋・司令塔からそれぞれの砲台へ号令等を発する以外にはない、ということです。

五、砲火の指揮法

  一、艦長は発砲開始に先ち彼我の速力を令し射撃すべき目標を示す


  一、砲術長は射距離、風向、風力、敵の針路角に対し射角正横に於ける六尹砲苗頭を算定し基準苗頭として之を砲台に令す


  一、砲台長砲台附は六尹砲に対しては射角の改正を施し十二听砲及び十二尹砲に対しては艦橋より令せられたる基準苗頭と本艦固有苗頭との対照差を施し各砲に復令す(対照表は別表に示す) (別表は省略)


  一、試射の方法 左の如し (主として同航の場合に適用す)

甲、六尹砲射程以外の砲戦
 一、前砲塔二門の斉射を以て行う 但し独立打方の要領に従い砲塔長及び砲塔次長をして別個に照準発射の機会を持たしめ砲塔士官の令にて一斉に発射す 此の場合に用ゆる射距離及び苗頭は全て艦橋より令する所に従う

乙、六尹射程以内の砲戦
 一、六尹砲台全部若は六尹前砲台の一舷砲を以て行う
 一、号令
  右 (左) 舷六尹砲或は六尹前砲台一斉に試し打方 某目標何浬右 (左) 苗頭何千何百
(距離及び苗頭は試砲にあらざるものと雖も戦側の諸砲は総て之を照尺に整う)
  砲台長は之を復令す 但し射角正横にあらざるときは之に対する修正を行う 各砲は砲台長より令せられたる苗頭及び距離に照尺を整え令されたる目標を照準し発砲の令を待つ
  試砲発射用意 打てー (電気通報器亦は言令を用ゆ)
  砲台長は之を復令し命ぜられたる各砲は努めて一斉に発射し迅速に装填し再び次の号令を待つ 砲術長は上檣楼の報告及び自己の観測に依り弾着点を推断し射距離及び苗頭適当ならざるときは之が修正を行い再び同一の試射を繰返し 「打方始めー」 の号音を以て諸砲台の砲火を開始す


(備考) 艦橋より令する苗頭は常に各砲の射角に対する改正の外一斉に諸元を修正したるものとす
本試射法は努めて多数の弾丸を某点に集中し以て弾着点の識別を容易ならしめ如斯落弾の集束を前後左右し結局此を以て目標を掩うに至らしむるを修正の極度となすにあるが故に各艦砲は艦橋より令する所の射距離及び苗頭を厳守し已知修正率 (例ば射角及び号令伝達に要する秒時内距離の変率) の外毫も任意の加減を許さず


 最も重要な射撃指揮に関する規定です。

 まず注意していただきたいのは 「基準砲」 という考え方についてです。

 既にご説明しました様に、砲術長は全砲種どころか、6インチ砲でさえもその総てを一括指揮することが出来ません。 したがって、砲術長が令する射距離、苗頭はその6インチ砲の内の特定の1門に対するものであり、それしか出来ない、ということです。

 即ちこれが 「基準砲」 という考え方で、この基準砲においては砲術長から令された射距離と苗頭をそのまま照準器に調定するものの、その他の砲においては、この基準となる射距離と苗頭に対して各砲ごと予め規定された方法による固有の修正を加える必要がある、と言うことです。

 つまり、ここに砲台長や各砲射手による判断が入る余地があります。 例えば、射撃をしながら自己の砲・砲台の弾着を見て射距離や苗頭を微妙に修正する、伝達所要秒時を変えて射距離を修正する、等々です。 それは上の最後の条項にも規定されているとおり、砲台長や各砲にある程度の自由裁量・任意修正が認められていたことからも明らかです。

 したがって、これがあると言うことは、射法としての 「一斉打方」 は出来ないと言うことになります。

 また、前部主砲による試射にも注意してください。 砲塔長に右砲、砲塔次長に左砲をそれぞれ照準させて斉射を行います。 これは “わざと” 散布を作るためです。 これにより決定距離を得やすくなりますが、しかし逆にそれによる修正は、砲塔長、砲塔次長のどちらの照準による弾着に合わせたのか判りません。

 したがって、以後の主砲の本射は砲塔長の照準による斉射ではない、できない、ということになります。 これは一斉打方の基本からも外れます。

 次に注意していただきたいのは、試射に続く本射のやり方についてです。

 確かに試射を6インチ砲で実施する場合には、前部砲台の3〜4門又は片舷全砲の7門をもって斉射を行うこととしていますが、それによって適正照尺 (決定距離) を得て本射に移行した後は、発砲の管制は各砲台長が実施するということです。

 つまり各砲台ごとの射撃であって、主砲、6インチ砲それぞれの全門をもってする一斉打方ではありません。

 当然のことながら、射法としての 「一斉打方」 とは試射だけのことではありませんから、上記の試射の方法をもって 『別宮暖朗本』 の著者が言う “斉射法を行った” などには勿論なりません。

 以上のことからも、加藤寛治が当時 「一斉打方」 を全く考えていなかったことが明らかです。

六、砲戦中の守則

  一、遠戦中射程以外の砲員は努て防禦部内に存在せしむべし


  一、砲台長は非戦側砲員中より若干の伝令を手裡に存し艦橋との連絡を確保すべし
(附記) 四七 「ミリ」 砲員を使用するを適当とす


  一、砲台将校及び伝令は必ず黒板と白墨を携帯し一切の号令を復令伝令したる後更に筆記して各砲に指示するの方法を執るべし


  一、砲員にして指揮将校を失い号令途絶するときは必ず艦橋に来りて必要なる射撃諸元を知り迅速発砲に従事すべし


七、艦隊戦闘に於ける目標距離の通信

  一、艦隊戦闘に在りては右の如くにして得たる決定距離及び苗頭を目標と共に旗艦若は殿艦より総艦に信号す
(例) (図は省略)


  一、旗艦及び殿艦の外は本信号掲揚さるる迄は戦機の許す限り発砲開始を待つものとす


  一、艦隊戦闘に於ては豫め目標変換の時機及び各艦其の最近艦を射撃すべき命令等の信号を定め置くを要す 八月十日の海戦は各艦の射撃目標余り個々に分散され過ぎたるやの嫌あり 亦二月九日の旅順砲撃の際は之に反し必要なる砲火の区分を実行されざりし


(了)

 この最後の2項目については、前半の教訓部分とも併せてお考えいただけば十分お判りいただけると思いますので、更に追加してご説明を要するものはないでしょう。

 これにて 『八月十日の海戦に於て砲火の指揮に関し得たる実験要領』 の全文のご説明は終了ですが、加藤寛治の砲術についてはまだ続きます。
(この項続く)
posted by 桜と錨 at 11:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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