2011年02月02日

加藤寛治の砲術 (3)

一、遠戦に於ては一時に艦隊全艦砲火を開始せざるべからざる時期多からず 故に艦隊戦闘に於て発砲開始の初期は特令なき限り旗艦及び殿艦のみ先ず射撃し二艦各別個の目標 (最近) を選定して試発数回の後決定距離を発見し本信号を以て目標及び射距離を全隊に報じ然る後全線の砲火を開始するの方法を講ずる必要あり 然らざれば僚艦の弾着相混交して彼此の識別に難く全く射距離の修正を不可能ならしむ


 試射により適正照尺 (当時は 「決定距離」 という用語を使っています) を把握するまでは、弾着錯綜を避けるために旗艦又は殿艦の1艦のみが射撃し、その把握した適正照尺を他の艦に伝達通報した後に全艦の射撃を開始するべきである、と言っています。

 これもつまり裏返せば、黄海海戦時にはその様なことにはなっていなかった、ということです。

 この僚艦に対する射距離の通報については、日本海海戦の直前の4月18日になって 『戦闘及戦闘射撃中射距離信号法』 (聯隊法令38年20号) として定められました。

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( 同法令の1頁目   防衛省防衛研究所所蔵史料より )

 しかし、この時でも試射は旗艦又は殿艦のみとはされず、しかもこれに基づき僚艦に射距離を通報するのは海戦初頭の試射の時であり、かつ状況による任意規定に過ぎませんでした。

 因みに、日本海海戦における初頭の砲戦開始時に 「三笠」 がこの方式で2番艦の 「敷島」 に通報したのかどうかは、両艦の戦闘詳報及び戦訓にも記載がありませんので不明です。 しかし、対勢からすると 「三笠」 と 「敷島」 では射距離が異なりますので、おそらく実施していないものと考えられますし、また実施したとしても 「敷島」 にとっては役に立たないデータです。 

一、反航中の射撃は近距離の外命中は殆んど僥倖に属す


 先にご説明した 「発令所」 の組織がなかったどころか、「変距率盤」 や 「距離時計」 さえもまだ無かった当時においては、当然のことといえば当然のことです。

 つまりこれは、急激な距離の変化となりますので、測的誤差と大きな変距とにより、当時としては適正照尺を得ることが極めて困難だからです。

一、音声を用ゆる砲火の指揮は全く実用に適せず 出来得る丈け目視法に依り諸令伝達を図らざる可らず (本艦に於ては黒板を各伝令に携帯せしめ必要の号令及び射距離等を記入し砲台を回らしむるの手段を取れり)


一、「バー」 式距離通報器は発砲及び敵弾命中の激動に依り用を為さざりしもの多し


一、一連の本管より各砲郭に枝管を設けて号令を通ずる各戦艦新装置の伝令管は如斯枝管を以て相連絡する諸砲郭の音響を混通し囂々として伝令を妨げ毫も欲する所の某砲に伝声すること能わず 故に発令点より各砲郭に独立の伝令管を設くるの必要あり


 砲戦指揮装置・要具に関する事項ですが、それぞれの内容についてはともかくとして、一体こういう状況・状態でどのようにしたら一斉打方による斉射の管制が可能になるのでしょうか?

 もちろん申し上げるまでもなく、既出のように 『別宮暖朗本』 の著者が言う

 元来、艦砲の狙いとは左右 (Bearing) と高低 (Elevation) でしかない。 そして、これは機械の目盛りで決定される。 ・・・・ (中略) ・・・・ 艦砲で敵艦に狙いをつけるというのは、旋回手 (Trainer) と俯仰手 (Layman) の機械操作でしかなく、いずれもポイントを目盛りのどこにあてるかだけが課題である。 (p63) (p67) 

 などと言うことには、絶対になり得ない、にも関わらずです。

一、同航の場合なれば四千米突内外と雖も照準点を要する区画に導くこと容易なり


一、上甲板最前部六尹砲は最も熟練なる砲手を以て一番となすを要す


 各砲の射手による砲側照準・砲側発射であれば当然の帰結で、しかも1艦の主砲・6インチ砲・補助砲の全てについて、「基準砲」 として指定した6インチ砲を中心に据えた射撃を実施する (せざるを得ない) のであれば、その6インチ砲の基準砲 (即ち、左右舷前部砲台の砲台長が位置する3番砲及び4番砲) の射手の重要性は明らかです。


 前半の教訓事項は以上ですが、さて、何処をどう採ったら 『別宮暖朗本』 の著者の勝手な造語である 「斉射法 (パターン射撃)」 「完全な斉射法」 なるものを実施したことになるのでしょうか?
(この項続く)
posted by 桜と錨 at 12:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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