2011年01月18日

斉射のやり方 (3)

1.射撃の手順 (承前)

(5) 発砲

 斉射における発砲は、単に 「発射よ〜い (用意)」 「て〜 (打て)」 の号令をかけ、それに併せて射手が引金を引けばよい、という単純なものではありません。

 そうです、斉射は1回だけでは無いからです。 そこで問題となるのが 「斉射間隔」 です。 射距離、射法、砲機の能力、関係員の練度 (更には風向きや海象) などによって適切な斉射間隔で発砲して行かなければなりません。

 射撃計算には必ず色々な誤差が存在しますから、例え夾叉弾を得て適正照尺・苗頭を把握したといっても、時間の経過と共にその誤差の累積によって弾着が段々ずれてきます。

 したがって、この微妙な誤差は正確な斉射間隔による弾着観測によって把握し、射弾を修正していかなければなりません。 これは近代射法の基礎です。

 またこれによって、目標 (敵艦) の僅かな変針・変速も迅速・確実に看破することができます。

 適切な斉射間隔というものについては、機会があればまた別に詳しくお話しすることにしますが、簡単には、例えば飛行秒時30秒の射距離の時に30秒間隔で発砲していたのでは弾着と発砲時期が一緒になりますから、発砲の振動と砲煙で弾着を観測することができません。

 弾着観測が正しくできて、それによる射弾修正が迅速に行われる。 これができなければ射法そのものが成り立たないのです。

 したがって、発砲が弾着の前か後のいずれかに適度な秒時離れるような斉射間隔を設定しなければなりません。 それも同航・同速の場合のように射距離が常に一定ならまだ良いですが、そうでない場合には射距離 (=飛行秒時) の変化に応じて変えていく必要があります。

 特に、射距離が遠い場合や元々の砲種の発射速度が高い場合には、打ち方によっては、前 (あるいは2斉射前) の斉射弾が弾着する前に次の斉射弾を発砲する (これを 「空中弾がある」 と言います) ことになります。 すると、発砲時期と弾着時期が非常に錯綜してきますので、この 「適切な斉射間隔」 というのが重要になってきます。

( 因みに、近代射法が確立した以降では、「急斉射」 というのは空中弾があるような間隔で斉射を行うこと、「緩斉射」 というのは空中弾が無い、つまり前の斉射弾が弾着してそれを観測してから次の斉射弾を発砲することを言います。)

 しかも、射撃指揮官による射弾修正が加えられなくとも、(1) に基づき時間経過と共に新たな (2) の結果が (3) 及び (4) として行われ、次の発砲の時には指定全砲が最新の射撃諸元 (当然ながら発砲瞬時までの見越・費消時が加えられたもの) に調定されていなければなりません。

 そして、この斉射間隔は “砲種によって異なる” のは当然のことですから、「一斉打方」 や 「交互打方」 で斉射を行おうとするなら、それぞれの砲種ごと別個にこれを管制する者 (と設備) が必要になります。
(この項続く)

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 ところで、既に 「連装砲塔の発射法」 などのところで、日露戦争期における発射速度による打ち方の区分として 「徐射 (緩射)」 「並射 (常射)」 「急射」 というものをお話ししました。

 これは発射速度を、砲手の (装填速度の) 体力や射手の照準の程度 (善し悪しのレベル)、射撃の効果などにより区分したものです。 日露戦争期の黄海海戦でも、また日本海海戦でも、この明治36年に全面改訂された 『海軍艦砲操式』 に従って射撃指揮を行っていたことは間違いありません。 例えば、日本海海戦における 「三笠戦闘詳報」 の砲銃の部の冒頭です。

mikasa_SOJ_gunnery_01_s.jpg
( 元画像 : 防衛省防衛研究所所蔵資料より )

 では、この3つの射撃速度区分と、一斉打方や交互打方における斉射での 「斉射間隔」 との関係はどうなるのでしょう?

 そうです。 相容れないのです。

 一斉打方や交互打方における斉射では、上でご説明した条件にしたがって1箇所 (一人) で準備門数全門の発砲を管制します。 したがって、砲手の体力や照準の善し悪しなどによって、各射手がそれぞれ自分で自分の砲の発砲時期を決めるものではありません。

 また、適切な斉射間隔というのは発砲時と弾着時との兼ね合いでもあるとご説明しましたが、これは即ち弾着観測及び射弾修正を行う射撃指揮官自らが決める必要があるということです。 「徐 (しずか) に打て」 などと令するだけで斉射間隔の決定を他の者に任せる、などと言うことは出来ないことなのです。

 したがって、日本海海戦時にこの発射速度による射撃指揮を行っていたということは即ち、「一斉打方」 や 「交互打方」 による斉射は実施していないという証明でもあるのです。
posted by 桜と錨 at 17:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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