2011年01月14日

斉射のやり方 (1)

1.射撃の手順

 前回 「打方」 という用語についてお話ししましたので、それでは 「一斉打方」 や 「交互打方」 においてどの様にしたら 「斉射」 が実施できるのか? ということに入りたいと思います。

( なお、本項で使用する 「一斉打方」 「交互打方」 という用語は昭和12年以降の定義によります。 それ以前は既にご説明しましたようにそれぞれ 「斉発打方」 「一斉打方」 です。 念のため。)

 まず最初は、射撃の手順についてです。 つまり、射撃 (砲火) 指揮官 (通常は砲術長は主砲の指揮官で、副砲及び分火は別) の指揮の下に、どの様な手順によって射撃がなされるのか、と言うことです。

 ごく簡単に項目を列挙しますと、次のようになります。

      (1) 測距と測的
      (2) 射撃計算
      (3) 各砲台へ発砲諸元の伝達
      (4) 砲台における調定と照準
      (5) 発砲
      (6) 弾着観測
      (7) 射弾修正
      (8) 以後 (3) からの繰り返し、ただし (1) 〜 (4) はその間も連続して実施

 各項目の内容については、ご来訪の皆さんには一々ご説明するまでも無いと思いますが、少し補足をしておきます。


(1) 測距と測的

 基本的には、測距儀による測距と、方位盤による照準線をもって測的を行うことは既に 『艦砲射撃の基礎 −測的について』 及び 『同 補』 でお話ししたとおりですので、まだお読みになっていない方はまず先にそちら ↓ をどうぞ。


 旧海軍では、この上記の方法に併せて、目視によって目標 (敵艦) の対勢、即ち照準線に対する向きと速力、を判定しました。 大正期以降は 「測的盤」 というものを使いましたが、方位盤やこの測的盤が無かった日露戦争期は、艦長や砲術長の “頭の中” で判定します。 (既にお話ししましたように、まだ 「変距率盤」 さえありませんでしたから。)

sokutekiban_01_s.jpg
(  一三式測的盤  )

 これに加えて射撃計算に必要なデータは、自艦の速力、風向風速、温度・湿度・気圧などです。 日露戦争期は、最期の3つはともかくとして、自速や風のデータは今日のような満足な計測機器がありませんのでしたので、最終的には艦長や砲術長が射撃計算に使用する値を自分で決定しなければなりませんでした。


(2)射撃計算

 射撃計算の理論と方法については、本家サイトの 『射撃理論概説 入門編』 でご説明しておりますので、そちらをご参照ください。


 測的の結果に基づいて射撃計算、即ち発砲諸元の算出を行いますが、ここで注意していただきたいのは、この射撃計算に使用する目標の現在位置データは手順 (5) の発砲時の値でなければならないということです。

 つまり、(1) の測距儀で計ったその時の値ではなく、その後の (5) までの時間経過後に予測される目標位置でなければなりません。

 ですから、この (1) から (5) までの時間 (費消時) を、その艦のそれぞれの砲種についてどの様に見込むかも艦砲射撃における大きな要素の一つであると言えます。

 そしてまたこれは、その艦の通信機器・設備や乗員の練度などによって大きく左右されます。

 この測距時から、計算・伝達・照準器への調定が完了し引金を引くまでの費消時が正しく設定できるかどうかは、射撃の成果に直接関わってきます。

 そして、もう一つ注意していただきたいのは、(1) 項の測距と測的は1箇所で実施したものが共通して射撃に使えますが、(2) 項以降は全て “各砲種ごと” に異なる (別である) ことです。

 これはそれぞれ弾道が異なりますので当然のことです。 当然のことですから、射撃指揮において、この (2) 〜 (3) だけをとってみても、砲術長が一人で主砲も副砲も、そして補助砲もその全てを指揮・監督することは不可能なことがお判りいただけるでしょう。
(この項続く)

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 ここで余談ですが、話しのついでに。

 射撃指揮装置・要具が発達していなかった日露戦争期では、手計算をし、距離通報器を使用する以外ではそれを伝声管、メガホン、示数盤、黒板などで各砲台へ伝達し、各砲の砲側照準器に手動で調定しなければなりませんでした。

 東郷長官が、「射距離ハ艦橋ヨリ号令シ砲台ニテ毛頭之ヲ修正セザルヲ可トス」と訓示してみたところで、その射距離の伝達一つをとってみても、この費消時の見越が重要問題として存在することが明らかでしょう。

 したがって、自艦又は目標 (敵艦) が変針・変速中の場合、例えば日本海海戦の初頭における連合艦隊の敵前大回頭、即ち 「東郷ターン」 の最中には、照準 (操作) と射撃計算における見越の問題の他に、この所要費消時の点からも日露双方がまともな射撃が出来ない、ということはお判りいただけると思います。

 つまり、発砲から弾着までの射撃計算における弾丸飛行秒時分の見越だけでなく、この発砲までの費消時分の見越においても、自艦及び目標の両方が “針路・速力を変えずに” 直進していることが大前提だからです。

 回頭中は射撃計算 (というより、発砲瞬時の 「目標現在位置」 と 「目標未来位置」 の算定) ができません。 これは敵味方相互に同じことが言えます。

 ですからこれを要するに、敵前大回頭においては、東郷長官が危険を冒したわけでも、賭をしたわけでない、ということです。

 こんな事は今まで誰も言ったことがありませんが、砲術の観点からすれば当たり前のこと、です。

 したがって、『別宮暖朗本』 の著者が言う

 司馬 = 黛の 「東郷のえらさは大冒険をやったことではなく、それを知りきって 『不安なく回頭を命じた大英断』 にある」 (『坂の上の雲 (八)』 157ページ) といった表現が適当とは思えない。
 敵前回頭は、司馬 = 黛の言うように 「弾が当たらないこと」 を、英知をもって計算して実行したものではない。 東郷司令部は、これが丁字の理想であり、「弾が当たること」 を、覚悟して実行した。 (p298) (p309)

 は、何らの確たる知識・根拠にも基づかない素人さんの “空想” “妄想” の作文にすぎない、と断言できます。

posted by 桜と錨 at 20:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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