2011年01月10日

回想録 『第12震洋隊物語』 − (101)

著 : 辰巳 保夫 (乙飛練19期)

 震洋特別攻撃隊の出撃 (承前)

 「出撃準備よし」 整備係の先任下士の手が上がった。 既に水上にあった部隊長の艇のエンジンが回転数を上げ 「出撃用意」 と合図し、水際を離れた。 続いて 「行くぞ!」 部隊長の元気に溢れた声と共に、さっと右手が上段から振り降ろされ沖を指す。

 水の中にいる基地隊員も陸の上にいる基地隊員も、次から次へと震洋艇を繰り出すため無我夢中となって働いた。 2番、3番、4番艇と部隊長の艇に続く。 搭乗員達は飛行帽の上から締めた “日の丸” の鉢巻きをもう1度締め直し、自艇へサッと跳び乗って行く。

 この瞬間まで海軍で鬼兵曹とアダ名され通してきた自分であった。 だが、この時になって鬼の仮面が取れ人間に帰った?

 横須賀を発って以来、長かった数々の苦難の日々をともに乗り越えてきた彼らが、今自分達 (基地隊員) だけを残して旅立って行く。 死出の旅路へ。 もう2度と再び私達は彼らの顔を見ることのできない時となった。

 これが最後だ。 そんな感情が頭の中に ・・・・。 それからというものは、彼らの出撃して行く後ろ姿を追いながら ・・・・。 可愛い我が子を人身御供に出すかのような悲痛な面持ちに変わる。

 無性に熱い涙が湧いてきた。 こんな涙顔を見られれば彼らに笑われるかもしれないと、堪えようとするがよけいに止まらず、私の両頬を涙は伝い、そして流れ落ちていった。

 そんな自分の気特とは裏腹に、若い搭乗員達は笑顔で 「御苦労様でした」 と我々に手を差し伸べながら握手を求めた。 一人一人震洋艇に跳び乗って行く。 落ち着き払った別れの態度であった。

 基地隊員のある者はこの日のためにと胸まで水に浸かりながら艇を海の中へ押し出していた。 懸命になり過ぎて足を滑べらし、アップ、アップする者さえいた。 それを見てどこからか 「慌てるな」 と叱咤の声が飛ぶ。

 愛艇に乗った搭乗員に向かった基地隊員から 「しっかり頼むぞ!」 と激励の言葉が飛ぶ、「ワッハッハッ、大丈夫、大丈夫」 と疲らは大声で返しながら固めた掌で我が胸を叩き、その腕を直角に折って胸を張る。

 あたかも彼らは沖へ訓練に出るかのように深刻な表情は何一つ見受けられなかった。 誰1人として死期を目前にした人間とは思えない。 見送る我々に向かって彼らは皆張り切れんばかりの元気のこもった最後の挙手の敬礼を返した。

      国おもう この日のために若桜
                散って甲斐ある命なりせば

 満ち満ちた真のこれこそ誠の武人、大和魂軍人の姿であろう。

 艇隊長以上が持っている赤い懐中電燈の信号が闇の海の上で点滅していたが、それもやがて見えなくなり、最後の艇の姿も闇に消え、エンジンの音すらも聞えなくなった。

(続く)
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