2010年12月24日

回想録 『第12震洋隊物語』 − (85)

著 : 辰巳 保夫 (乙飛練19期)

 あっ、グラマンの編隊だ

( 12月14日、敵機動部隊が近海を行動しているのも知らずに ・・・・ )

 この分で行くと今夜半コレヒドール島の北水道を通過し、マニラ湾に進入できると皆に告げられた。 「神福丸」 はなるべくロスを少なくするためジグザグ運動を止め、昨日と同じように海岸線に寄れるだけ近寄って直線に近いコースを採って走った。

 ゴールを目指し一目散に走る 「神福丸」 はいつもよりは数倍も早いような気もする。 マニラは我々キャラバンの求める砂漠の中のオアシスみたいに感じないでもなかった。

 午後1時頃、後方から単艦行動の輸送艦が高速で追って来る。 そしてみるみるうちに追い越されてしまった。 やはり軍艦は通いや、と感心しながらちょっとの間それに見とれていた。

 そんな時であった。 爆音、と誰かが言った。 その時もうすぐ目の前の上空に、ずんぐりもっくりした敵コンソリデーデット (B−24) 1機が飛来していた。 全く機先を制せられた感じだ。 間髪を入れず 「対空戦闘」 の号令が掛かる。

 大型機にしては爆音が余りにも低い、全く我々は虚を突かれた。 これこそ招かざる客の到来であった。 我が方の兵力には幸いにも、今追い越さんとする輸送艦が加わっていた。

 B−24は我々の上空を軽く一周すると、改めて一隻、一隻の艦船を見物でもするかのように、高度3〜400メートル、いやもっと低空にし、悠々と旋回飛行を始めた。 別に攻撃をすぐにかけてくる気配もない。

 我々は、今まさに、海空の決戦が始まるかと固唾を飲んだ。 時間が経つほどにB−24は太々しく我が方を侮るかのような態度に見えた。

 B−24は少しスピードを上げたかと思うと高度を下げ始めた。 そして輸送艦に向かって近づいていった。 輸送艦は 「神福丸」 から大分の距離があった。 我々はまず高見の見物である。

 輸送艦はB−24が上空近くなって一斉射撃の砲火を放った。 黄色の硝煙をかぶりながら走っていた。 ところがB−24は鈍重そうな機体をのらりくらりさせながら輸送艦の上空を飛び去り、旋回する。 「神福丸」 護衛の各艦は漸次距離を開き戦闘隊形をとった。

 次は駆逐艦 「呉竹」 へ向かった。 「呉竹」 の前甲板の水上砲が、パーッと火を吹く、それに続いてズズンと大きな昔が伝わってきた。 その一瞬皆は、B−24が撃墜されるのでないかと思った。 ところがいかに、その砲弾の落下点にポチャンと水柱が上がった。 ありゃ、なあんだ! あべこべの方向ではないか。

 このとき初めて水上砲による応戦の効果を見た。 案外と目標に当たらないものだということを知る。 B−24は爆弾で攻撃はしなかった。 純然たる偵察だけか任務なのだろうか、それとも小型で小数な艦艇と見くびっているのか、飛んでいる様子の太々しさが憎い。

 日本側の艦艇はB−24が十分射程距離内に来てからでないと射撃をしない。 まるで飛行機の側は遊び回っているようである。 各艦は上空に近づくと、たちまち砲火の火蓋を切った。 黄と黒と紫の硝煙の花を自己の艦上に咲かせた。 「神福丸」 とその後に続く大型漁船には一度も訪れなかった。

 このB−24の飛来は戦争の厳しさの中にも、何かしらのんびりとしたような戦闘にしか見えなかった。 実際の戦闘は、こんなものかと錯覚を生じる。 B−24はこんな動作をしながら20分以上も我が方の上空を旋回し続ける。

 「あいつは偵察専門だ、いまに艦載機のお客が来るぞ!」

 と部隊長が全員に喚起した。 私も一瞬そうだったのかと思った。 道理で爆弾の一つも、機銃掃射もやらなかったのだ、と。 十分にこちら側のことを偵察したのであろうか、旋回の途中からぐいと機首を上げ、上昇姿勢を続けながら入道雲のある面の空に機影を消して行った。

 「その場に休め」
 「対空見張りを厳となせ」

 次に来るお客様に備えることになった。 我々は実の空襲の恐ろしさは何も知らない。 意外と平気な気持ちで敵機の飛来を待った。
(続く)
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