著 : 辰巳 保夫
特攻兵器の猛訓練 (承前)
この特別訓練中、またこんなことがあった。 他の隊で起こったことである。 巡洋艦「大淀」に向かって突入訓練を行なっていたとき、ある艇があまり近くまで近づきすぎ、回頭する際バランス代りを努めていた者が回頭の煽りを食って海に投げ出され、その同僚を救助するという一幕もあったようである。
振り落とされた者は艇の頭部にある舫索をしっかり握り最後まで放さなかったとのことであり、落ちた者の上を艇が通れば人身事故になるところであった。
海上訓練中、時折り空襲に対する警戒警報が発せられた時もあった。 私達が突入訓練の目標として 「大淀」 を利用していた時、警報が出た。 「大淀」 の方では警戒配備に就き、艦橋付近には大分多くの人が現われ始めていた。
ところが 「大淀」 の当直士官か副直士官かはっきりしなかったが、我々の方に向かって盛んに手を振っていた。 あっちに行けという感じであった。 しかし我々にあっては警戒警報も何のそのであった。
とうとう腕にマークをつけた当直の士官がメガホンを持ち出し、堪りかねたのか 「あっちに行け、警戒警報発令中だぞ!」 と怒鳴られたこともあった。
警戒警報が出てからこんなこともあった。 長浦から潜水艦 (呂号) が急拠出港してきた。 警戒のための分散避泊であろう。 緊急出港のため、長浦港の出口を過ぎる頃から相当スピードを出していた。 もうその時は 「大淀」 は出港していなかった。
適当な突撃目標もなかったため、丁度良い目標が出て来てくれたわいと咄嗟に考えが浮んだ。 「よし、あいつだ」 とばかり潜水艦の方へ艇首を向け、相対的に良い状態になったとき突っ込め、とそんな荒計画を立て実行に移った。
ぐんぐん相方は接近した。 潜水艦からは何の注意の喚起もなく進んでくる。 この場合は小型の船が避けることになっている。 潜水艦の右前方から突入訓練を開始した。 潜水艦まであと50メートル、「取舵一杯」、左に我が艇を緊急回頭した。
ところが潜水艦から出てくるウェーキ、それが案外と大きい。 突然目の前にウェーキの山。 「あっ!」 と思わず声が出た。 このままでは潜水艦のウェーキと平行になり煽りを食って転覆する。
速断速決、今度は面舵に転舵、ウェーキを間切ぎろうとした。 自分の艇もスピードがかなりあった。 ウェーキの山の向うは凄い谷。 「あっ、ウェーキが谷になっている」 一瞬困った、がもう遅い。 山のようなウェーキを跳び越すことにした。
ウェーキの山に上がりフワーと艇が空を飛んだ。 その一瞬ズドン、べリッという音が一度に起こり、乗っていた者にはかなり物凄いショックを感じた。
ベニヤだ、すぐ浸水してくるぞと予想した。 しかし何ともなく、浸水もなく心配はいらなかった。 案外強い船体であることを逆に驚かされた。 その時からベニヤだがこの船は相当の強度があるという自信を持っことになった。
この時、艇には3人が同乗していた。 村岡と関根と私の3人はお互い顔を見合わせた。 ところが関根は軽いウインクをし、村岡は口をとんがらせ、お前相当無茶をやるなあと言わんばかりの表情をし、私はペロリと舌を出した。 操縦は私がしていたからである。 大事に至らなくてよかった。
(続く)