2010年10月01日

回想録 『第12震洋隊物語』 − (10)

著 : 辰巳 保夫

 特攻兵器の猛訓練

 特攻兵器、それはマル四艇であった。 私はがっかりした。 それもそのはず特攻兵器というからには、精巧を極めたものを頭に画いていたからである。 あまりにも自分の想像していたものと違いすぎるような感じがしてならなかった。 それは空を飛ぶ特殊兵器、または人間魚雷等を予想していたからである。

 私の本心を言うと、「特殊兵器とはこれか、こんなベニヤ板のボートか」 と口にこそ出さなかったが、思わず嘆息を漏らさざるを得なかった。 これは私唯一人の感じだったかも知れない。 飛行機とマル四艇の差 ・・・・。 死を覚悟して来たものの、こういうところが人間の弱さなのであろう。

 「こんなものが海水に保つものだろうか?」

 海水といっても幅が広い、荒天時のことも考える。 いくらか不安は残る。 少年の頭をして考えても、大分危っかしい代物である思いがした。 複雑な感懐が小さな頭の中をかけ巡って行った。 あまりにも酷いとも思えた。

 着いた日の一日は何も手につかなかった。 一夜明け、海軍水雷学校教頭の某大佐 (有賀幸作、海兵45期)、目玉のぎょろりとした、そして赤ら顔のきつい人であった。 元気は人一倍あるかのように、軍服 (第三種軍装、俗にいう陸戦服) から張り切った気力が溢れ出ているような感じが受け止められた。 その軍服が木綿でなく絹だったのか、生地が普通のものと違った感じであった。

 マル四艇の実物を見学に行った。 大佐は現物を目の前にして我々に語った。

 「これから私が君達の面倒をみることになった。 力一杯に勤めるつもりでいる。 どんなに小さなことでもよい、君達に心配なことがあればどしどし私に相談してくれ、お世話させていただく。 この特攻兵器は極秘ものである。 当学校のうち、私達関係者以外は何をするものか誰も知らない。 軍規厳正な諸君にあっては、このようなことは絶対にあり得ないことと思うが、くれぐれも他にどんなことがあっても口外しないようにしてくれ。」

 というような話であり、また大いに奮起せざるを得なくなる激励の言葉もほかに続いた。

 この時までに、既にマル四艇の特別訓練は第1次として一般兵科出身の兵曹の志願者をもって実施され、既に戦場に配備中とのことであった。 いつまで迷っていて何になる。

 「よし、やるぞ! 先に行った奴に決して負けないぞ。」

 今までの訝っていた気持が一変した。 それから以後というものは、毎日の訓練も熱が入り、若い我々は和気藹々のうち、特別訓練に邁進して行ったものである。
(続く)
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