2010年08月20日

「飛翔雲」 第6章 戦場回想 −その34

著 : 高橋 定 (海兵61期)

 その3 ザンボアンガ (4)

 昭和17年5月下旬頃であった。 党員の一人に MOSCARDON という青年がいた。 彼は悲憤憤慨型の党員達の中にあって、いつも冷静であった。 年令は他の党員と同じく22、3才であったが、皆から信頼されていた。 出身地はミンダナオ島の北部であった。

 その頃、ミンダナオ島の北岸カガヤン附近で一部族と敗残ゲリラ兵との間に衝突事件が起こり、党員達のうち5人がカガヤンに潜入することになった。 その時、5人の人選と携行する武器について論争が起こった。 一人の党員が言った。

 「武器をどこから入手するか? 敗残兵は優秀な武器を特っている。」

 別の党員が答えた。

 「部落にある。」

 「部落の武器は古いし数も足りない。 あんな武器で敗残兵と戦って死ぬのは嫌だ。」

 この時、MOSCARDON は、

 「私は武器は要らないと思う。 相手は私達と同族だ。 話し合って解らない筈はない!」

 彼の断固たる言葉に、党員達は沈黙した。 彼は続けた。

 「私は素手でミンダナオへ行く。 敗残兵がどうしても私を殺すつもりなら死のう。 それでも私と一緒に行こうと思う者があったら一緒に行ってくれ。」

 青年達は誰も一緒に行こうとは言わなかった。 重苦しい空気が流れ始めた。 すると、女党員の MOLE が、

 「私が一緒に行ってはいけないかしら?」

 と言ったので、私は、

 「MOLE ! 黙りなさい。 MOSCARDON は今から小舟に乗って荒海を渡り、野に伏し泥水を飲み山を越えるのだ。 女のできることではない!」

 と叱ってから、次のように提案した。

 「MOSCARDON ! 俺は君達にアメリカ製の拳銃5丁と弾丸100発を貸そう。 しかし、君の言うとおり、それは君の同族の青年を撃ち殺すためのものではない。 野獣と戦うこともあるからだ。」

 と言った。 それは以前に、MOSCARDON に次のように言ったことがあるからであった。

 「生命は尊い。 相手の武器に一方的に狙われてばかりいては駄目だ。 時には互いに撃ち合って、弾丸の下で生命の尊さを理解することも必要だ。」

 と。 しかし、彼は私の意見に賛成しなかった。 だから、野獣と戦うために持てと言ったのであった。

 私が貸そうという武器は、米軍が逃げる時に、マニラのニコルスフィールドに置き忘れた12丁の拳銃と2百数十発の弾の内の5丁であった。 更に、12丁の他に婦人用のコルトの拳銃があったが、それは MOLE に与えていたからそれも使える筈であった。

 MOSCARDON は答えた。

 「ありがとう。 Mr. TAKAHASHI、お言葉のとおりにします。 挙銃4丁と弾丸を40発貸して下さい。 帰って来たら必ずお返しします。」

 「よし! 明朝までに MOLE の家へ届けておく。」
(続く)
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