2010年08月13日

「飛翔雲」 第6章 戦場回想 −その27

著 : 高橋 定 (海兵61期)

 その2 セブ島 (12)

 それから一週間ばかり経った或る日、MOLE に案内されて、中国人街の飯店でミンダナオから帰ったばかりの5人の党員に会った。 私は質問される前に、独立運動について一方的に喋った。 MOLE が通訳した。 要約すると、

 「君らの独立運動を支持してくれるのは日本軍でもなければアメリカ軍でもない。 何故かと言えば、これらの軍隊は何れも君らの要求を素直に受け入れるとは思われないからだ。 ましてや、フィリピン軍の敗残ゲリラなどは思想も主義主張もなく、君らの切実な要求を理解するとは思えない。 このことは軍人である私にはよく解るのだ。」

 MOLE が懸命になって通訳すると、一人の青年が、

 「私達の国は父祖代々数百年に亘って、他国軍によって全土を支配されたことがありませんし、日本軍のことがよく解らないので迷っているのです。 今、日本軍は私達独立党のために力を貸してくれないとあなたが言われるのを聞いて、私達は残念に思います。」

 と言った。 私は、

 「気の毒に思う。 しかし、君らもよく考えてくれ。 日本軍は他国を全面的に占領した経験は今回の戦争が初めてだから、占領地城に対する軍政的手腕は私にも解らないのだ。 しかし、日本軍が今、君の国の内政上の難しい問題に手をつけたくないのは当然ではないか?」

 と答えた。 そして最後に、

 「せめて、日本軍の力を利用する方法を考えることが賢明だと思う。」

 と言った。

 「正直に教えて頂いてありがとうございます。」

 と彼らの一人が礼を言ったが、嬉しそうな表情ではなかった。

 「利用するってどうするの?」

 と MOLE が言ったが、相手にしないで、5人に中国料理と酒を御馳走して別れたのであった。

 それから二、三日後に彼女に会うと、

 「党員達はまた、ミンダナオとビサヤンへ散って行きました。」

 「MOLE ! 君は親しかった党員達にも注意しなさい。 もし党員達が敗残ゲリラと手を結んだら、君は危険にさらされるからだ。」

 と言って、コルトの拳銃を渡した。 拳銃を受け取る手が震えていた。

 それから約一週間後に私はフィリピンを去った。

 「MOLE ! 好きな人ができたら田舎の家に帰って、その人だけを待って暮らしなさい。」

 と言って MOLE と別れたのであった。

 それから2年半後の19年9月に彼女に会った時は、彼女は米軍のために日本軍の情報を集めているようであった。 しかし、日米の大勢はどうにもならなくなっていたので、私は知らん顔をしていた。 その半年後に日本軍はフィリピンから敗退したのであった。
(続く)
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