著 : 高橋 定 (海兵61期)
その2 セブ島 (11)
昭和17年5月7日にコレヒドール要塞が陥落したので、私達第三十一航空隊は補給路の遮断作戦を止めて、南部フィリピンのゲリラ部隊の制圧作戦をすることになった。
ところで、当時のフィリピンのゲリラには二つの系列があった。 一つは敗残兵ゲリラであり、もう一つは独立党であったのである。 もっとも、セブの独立党は日本軍の占領行政に協力的であったので、私達は敗残ゲリラの拠点の覆滅に力を入れたのであった。
5月の中旬になって、独立党と敗残ゲリラがミンダナオで衝突したという情報があったので、確かめるためにバーに行くと、MOLE が待ち構えていたように、
「SADAMU! アメリカ軍は皆帰ってしまったけど、また来るの?」
といつもに似ず思い詰めた口調で質問した。 私は短刀直入に、
「 I shall return というマッカーサーの言葉を信じていいかどうかということだろ?」
「 ・・・・・・ 」
MOLE は返事ができなかった。 私もそれについては言明したくなかったので、
「MOLE! 答えなくてもよいのだよ。 君にとって大切なことは、君自身がどう思うかということだよ。」
と言った。 すると MOLE は、
「私には解らないの・・・・ 」
と答えて、世にも寂しそうな顔をした。 それは、単にアメリカ軍と日本軍の強さを秤にかけてみて、解らなくて困惑している姿ではなかった。 巨大な力に振り回わされている人間の消え入るような弱い美しきであった。 何かに鎚りつきたいと願いながら、善良で気が弱く、何もできなくて恐れ戦いて (おののいて) いる孤独な人間の姿であった。 私は、しっかりと支えてやりたい衝動を感じたが、どうすることもできなかった。
暫くしてから MOLE に言った。
「君はまだ若すぎる。 マッカーサーの言葉を信じていいかどうかは私が説明しても解るまい。 ただ言えることは、2、3年のうちにアメリカ軍が帰って来るわけではないということだ。 MOLE! 2年後に考え始めても遅くはないのだよ。 その時は君は大人になっているからね。」
と。 そして私は逃げるようにバーを飛び出した。
(続く)