しかしながら、旧海軍そのものが英海軍に範をとったことから、敬礼などについてもほぼそれを踏襲したものと考えられます。
現在のところ、この旧海軍における敬礼について定められた最も古い公文書は、明治18年制定の 『海軍敬礼式』 と思われます。
この中で、挙手の敬礼は次の様に規定されています。
「 第四条 凡そ軍人の敬礼は挙手注目とす其方姿勢を正ふし右手を挙げ五指を伸し掌を左方に向け食指を帽庇の右側に当て敬礼を受く可き人に注目す答礼も亦之に準ず (後略)」
ここで、注意していただきたいのは、この時の規定においても、肱の位置がどうのこうの、等という “形” を画一化する文言は入っていないということです。
これは、海軍における挙手の敬礼の原型が、脱帽に至る手の動きであることを考えればその理由がお判りいただけるでしょう。
そして、国旗 (明治22年以降は軍艦旗に対して) と、天皇以下の皇族に対しては “脱帽” によることとされています。 例えば次のとおりです。
「 第二条 凡そ軍人 天皇に行ふ敬礼は正面して其姿勢を正ふし帽を脱し之を右手に持ち体の上部を傾け拝するものとす」
「 第十三条 軍艦停泊中国旗昇降のときは (中略) 甲板上の者及び端舟番は之に面し直立脱帽し (後略)」
即ち、上記2つの場合の様に、まだ脱帽による海軍の伝統と慣習が完全に無くなってはいません。
しかし、この国旗・軍艦旗及び皇族に対する脱帽による敬礼も、明治30年の 『海軍敬礼式』 の全面改訂で無くなり、全て挙手の敬礼となりました。 この挙手の敬礼のやり方は改訂前と同じです。 つまり、
「 第三十六条 軍人室外の敬礼は挙手注目とす其の法姿勢を正し右手を挙げ五指を伸ばして之を並べ掌を左方に向け食指を帽の前部右側に当て受礼者に注目す答礼亦之に準ず」
ここにおいて、旧海軍においても敬礼というのが伝統と慣習に基づく 「礼儀」 「躾け」 から、完全な 「儀式」 「儀礼」 に切り替わったと言えるでしょう。
(続く)
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海軍式敬礼?
http://navgunschl.sblo.jp/article/39335366.html
海軍における挙手の敬礼 (前)
http://navgunschl.sblo.jp/article/40065243.html
海軍における挙手の敬礼 (中) ← 現在の頁
海軍における挙手の敬礼 (後)
http://navgunschl.sblo.jp/article/40098164.html