2010年08月07日

「飛翔雲」 第6章 戦場回想 −その21

著 : 高橋 定 (海兵61期)

 その2 セブ島 (6)

 10時になったので、私が10ペソずつを二人の娘に渡すと LIZA が、二人で10ペソ貰えば十分だと言って、10ペソを私に返して外で待っていてくれと言う。 加藤とき子とよく似た顔で、笑い声も笑い方も日本娘とそっくりであった。

 私は明朝の予定が忙しいと言って LIZA を断わり、青年と一緒にキャバレーを出て、歩きながら改めて彼に質問した。

 「Miss. LIZA は何故私に興味を持ったのか? 日本人とフィリピン人との混血者の評価は現在のフィリピンではどうなっているのか?」 と。

 言うまでもなく、西暦1632年に、徳川家光はフィリピンとの国交を断ち、秀吉が造ったマニラ市の日本人町が亡んだ。

 そのために、それ以降約3百年間、この国の娘達は国際結婚の希望相手として、スペイン人アメリカ人中国人日本人という優先序列をつけ、日本人を最下位に置いた。 この序列はこの国に住むこれら外国人の地位の順位でもあった。

 今 LIZA が私に興味を示したのは、この地位の順序を否定するものか? それは LIZA に限らず、フィリピンの現在娘の一般的な考え方だと思っていいか? その理由は何か? という質問をしたのであった。

 難しい質問のようであったが、ESPINA 青年は懸命になって考えながら答えてくれた。

 「私は昔のことは知りませんから、昔と比較することはできませんが、現在の気持を卒直に述べましょう。 また、若い娘達の考えていることはよく解りませんが、私には妹がいますから彼女の気持もお伝えしましょう。」

 と前置きして、ポツリポツリと話し始めた。 要約すると、

 「今のフィリピン人は日本人を尊敬している。 しかし、兄貴のように思って近づいていくと、日本人は逃げてしまう。 中国人は決して嘘は言わないし私達と気持よく付き合うが、誰にも心の底を見せない。 アメリカ人は威張っていて私達を馬鹿にするが、良い人がいないわけではない。 スペイン人はフィリピン人になり切っている。 これらを比較すると、親しみたい外国人は、現在日本人が第一だ。 私の国の娘達も、私と同じょうに考えている者が多い。 私の妹 (LIZA と同じ大学生) はその一人だ。」

 と言った。 そして最後に、

 「日本人はフィリピン人から兄貴として慕われても、フィリピン人を弟とは思わないような気がする。 それは、私達があまりにも貧しいからではあるまいか?」

 と寂しそうに、半ば呟くように言った。 皮肉を言っているようには思えなかった。

 私は ESPINA 青年と別れてホテルへの夜道を歩きながら考えた。 フィリピンの青年達は日本人を尊敬し仲良くしようとしている。 しかし、日本人は彼らを尊敬しょうとしない。 そして、アメリカ人やヨーロバ人ばかりを信用し尊敬しようとしている。

 それは、日本人がアメリカ人やヨーロッパ人に対する劣等感を裏返えしにして、フィリピン人に対して優越感を誇示している姿のように思われてならなかった。 ESPINA も、それに気がついているのではないかと思うと気が重くなるのであった。

 セブ市の夜の街は静かに更けて、南の海上には、マクタン島が白く浮いているように見えた。 南十字星は、午前2時に見え始める筈であった。
(続く)
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