2010年08月05日

「飛翔雲」 第6章 戦場回想 −その20

著 : 高橋 定 (海兵61期)

 その2 セブ島 (5)

 タワーの見学を終えて、私達は空港長の自動車でセブ市のマゼランホテル (注) へ送ってもらった。 シャワーで汗を流すのももどかしく、この国の観光大臣の秘書官の招待でセブ市の南西部にある中国飯店へ案内され、中華料理を御馳走になった。

(注) : 「マゼラン・ホテル」 というのは現在では無くなっているようで、またこの後で当時のセブ市の地図も出てきますが、当該位置に現在ではホテルらしいものは見あたりませんので、今となっては詳しいことは判りません。


 私の隣席には ESPINA という青年がいた。 彼は、この町の農業と水産業を営んでいる青年実業家であった。 日本の農村の青年と全く区別のつかないような素朴で無口な男であったが、この青年とゆっくり話したくなったので、夕食の後で彼を近くのキャバレーへ案内した。

 彼はキャバレーで飲んだ経験はないらしく (セブ市のキャバレーは東京と全く同じであったが、平均10ペソ、約500円のチップを置かねばならない。 フィリピン人の平均所得は日本人の百分の8だからフィリピン人には高すぎた)、落ち着かない様子であったが、私は彼に酒をすすめ、パートナーになる女性を選ばせた。 (女性は客の方から一方的に見える別室にたむろしていて、客から指名されるのを待っている。 日本の戦前の女郎屋と同じだった。)

 私のパートナーは LIZA RAMOS、彼のパートナーは GRACE ARCIAGA という娘で、二人はセブ大学のアルバイト学生であった。 喧ましいジャズがガンガン響く中で、薄暗いローソクに照らされながら4人はボックスで向かい合った。

 彼女達は初めのうちは遠慮していたが、よく飲みよく食べよく喋った。 英語がもどかしくなるとピサヤン語で喋るので、青年が私のために英語で通訳した。 LIZA は私に、

 「32才の日本人の収入は平均いくらか?」

 「日本人は厳密に一夫一婦主義か?」

 「国際結婚はどの程度あるのか?」

 というような質問をした。 私の方は、青年とここの二人の若い娘から対日本人観について聞くつもりであったが、喧騒なこの部屋ではとても駄目だと思っていると、たまたま次のようなトラブルが起こったので少しは理解することができた。 それは LIZA が会話の途中で、

 「私は朝御飯を作るのがとても上手よ。」

 と言って彼女の家の電話番号と場所を私に説明し始めたので、青年が真剣になって反対したらしい。 (ピサヤン語で論争を始め、それを通訳してくれないのでよく解らなかった。 キャバレーを出てから説明してくれた。) 青年は、

 「この人 (私のこと) は老人で日本海軍のアドミラルだから、お前なんかの家へは遊びに行かない。」

 と言うと、LIZA が怒り出して、

 「この人を遊びに誘ったのではない。 アメリカ人や中国人には聞きたいことは何もないが、日本人には聞きたいことが沢山あるから誘ったのよっ!」

 「そんなら、この人を君の部屋に泊める必要はないじゃないか。」

 「このキャバレーは10時で閉店だから時間が足りないから。」

 ということであったようだ。
(続く)
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