2010年08月04日

「飛翔雲」 第6章 戦場回想 −その19

著 : 高橋 定 (海兵61期)

 その2 セブ島 (4)

 1730、飛行機はセブ島上空にさしかかった。

 セブ島はフィリピン群島のほぼ中央、北緯10度、東経124度附近にあって、北東から南西に伸びた棒状の島である。 長さ約70浬、巾10浬、平野は猫の額程で台状の痩せた土地が多く、パイナップル、砂糖黍、タロイモが主要な産物であるが、所所に水田があって米作も僅かに行なわれていた。

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(原著より)

 この島の海岸線は古代の地層が隆起して形成されたもので、数千万年の長い期間を海底深くで過ごした珊瑚礁が地表に現われているわけだから、黒くて怪異な岩が到る所にある。 その岩を抱えて蛸の足のようなマングローブの根が海底まで伸び、真白い新生の珊瑚礁がそれらを取り巻いている。

 今、落日が迫り、それらを機上から見ると薄墨色にぼけているのが、白日のもとでは鬼気迫るような所もあるのだ。

 1745、飛行機はマクタン島のセブ国際空港に着陸した。

 マクタン島はセブ島の中央の南岸にあって、セブ市と約三千米の水路を挟んで向かい合った小さい平板のような島だ。

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( Google Earth より )

 この空港の滑走路は方位047度 (227度) 長さ3千米、巾40米、短辺の両側は海、長辺の両側を含めた着陸帯は約千米、エプロンは千5百米と百米の短形で、フィリピン空軍のC−131型機が15機並べられてあった。 エプロンの北隅に約千坪の格納庫が2棟あったが、正面のドアはなかった。

 保安管制施設と装備は、NDB、VOR、TACAN、ILS、VASIS、Approach Light、Maker 等があり、巨大なRAPCON用のASRが、イタリー人の技術者達の手で建設中であった。

 このマクタン空港の空港長はマニラからずっと私達と同行していたので、早速彼の紹介で空港の主要メンバーに会った。 時刻は既に午後6時を過ぎていたので、この日は24時間オペレーション中のタワーだけを見せてもらうことにして、20数米のタワーの階段を汗を流しながら昇った。

 気温は27度前後であった。 管制官は、アプローチ4名、飛行場2名でチームを組み、4チームが編成され、各チームは8時間当直で、一年中エンドレスに勤務しているということであった。

 意外に思ったのは、私達が会ったチームのボスは女性であった。 彼女は若くて頭の良さそうな人で、皮膚は灰色であったが、伊藤ゆかりを繊細にしたような美人であった。 彼女は、

 「遠い日本からお見えになったのに、見て頂くものが少なくて残念です。 今はオペレーション中ではありませんから、飛行場内のライトを点滅して歓迎に代えます。」

 と挨拶して、ランウェイとタクシーウェイのライトを点滅した。 嬉しい歓迎ぶりであった。 彼女の5人の部下もとても親切な青年達で、私が額に汗を流しているのを見て、ニッパの扇で風を送ってくれた。

 こんな歓迎を受けたから言うわけではないが、私はこの国の青年男女を見ると、訳もなく親しさを感ずる。 大げさに言うと、私の体内に眠っている血が騒ぐような気がしてならないのだ。

 例えば、マニラの街で多くのスペイン系やアリアン系の娘を見たが、美しいとは思っても女性としての魅力も親しみも感じなかった。 それに比べて、モロ族やピサヤン族の若い女性の華奢な骨格、扁平な胸、そして、肉の締まった細い腰の線が軽妙自在に動いているのを見ると、強い親しみを感じた。

 それは、30年前の青年時代にもそうであったし、今も変わっていない。 これは私ばかりではなく、日本人に共通の感情ではなかろうか?

 というのは、現に、私達は女性管制官から飛行場施設について説明を受けているが、私の若い同行者達は小さいテーブルの上に細かい図面を拡げ、薄暗いライトの下で彼女と一緒にそれを覗き込んでいる。

 彼らの肩と彼女の肩が触れ、図面の細かい数字を読む時には彼らの頬が彼女の煩に触れそうになっている。 しかし、お互いに気がつかずに説明と質問を続けているが、あまりに体がくっつき過ぎているのにふと気がついて、顔を見合わせて図面から身を引きお互いに笑っている。

 些細なことのようだが、このような場面は、お互いに血の繋がりのある者達でよく体験する素朴な愛情や寛容な親しさの現われなのだ。 子供が成長する過程で、6、7才の頃に、初めて会った従弟妹達の間で見せ合う血縁意識の中にもこのようなことがある。

 これは、人間の本能的な親しさ、血液の親しさと言えるものだと思う。 このような親しさを、私はこの国の人達に感ずるのだ。 私の同行者達もそれを今感じているように思うのであった。
(続く)
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