2010年06月30日

「飛翔雲」 第5章 航空事故 −その53

著 : 高橋 定 (海兵61期)

 第4話 航空母艦と航空事故 (9)

   その4 母艦機の事故 (承前)

 いよいよ旋風の東側が目前に迫って来た。 雲は南側にどの程度広がっているのか解らないが、その下に敵の母艦がいることはほぼ確実である。 猪突猛進だけが残されていた。

 その時であった。 後席の偵察員の国分飛曹長が、

 「隊長! 今うちの母艦が敵機の攻撃を受けています!」

 と言う。

 「結果はどうだっ!」

 「よく解りませんが、「翔鶴」 がやられたようです。」

 「何っ! 沈んだのかっ?」

 「いいえ、沈んだのではありません。 母艦上空の味方の飛行機に対して収容不能と言っています。」

 「無線封止を解いたのか?」

 「そうです。 それと、第三次攻撃の準備を指令しているようですが、よく聞き取れません。」

 「その他に何か情況は放送していないのか?」

 「ありません。 「瑞鶴」 は完全に沈黙を守っています。」

 私は前方の雲に注意力を集中しながら、この情報から更に戦況を考えた。 敵の攻撃隊が数分前に 「翔鶴」 に攻撃を加えた。 幸いに、被害は軽微のようだ。 1時間後には復旧し、私達の帰るべき背中は健在となろう。 それはいい。

 私の関心は、「翔鶴」 を攻撃した敵機がどの方向に帰ったかということが重大なのだ。 それを私は知りたい。

 もし、敵機が南西ガダルカナル島に向かって帰ったのであれば、敵空母群はわが第一次攻撃隊によって被害を受け、南東方向に遁走中だと判断する。 もし、敵機が南南東に帰ったのであれば敵母艦群は健在であり、われに決戦を挑もうとしていると判断する。 そのどちらであろうか? 味方司令部からは何の知らせもなかった。

 私は5分前に決心したとおり、約10度東へ変針して雲の側面を航過した。 右側の鶴翼の9機が薄い乱雲の中に見え隠れした。 いよいよ5分後には敵が現われるだろう。 全神経を右前方の雲下に集中しながら徐々に針路を南にとった。

 そして5分経った。 しかし、敵影は見えない。 念のため更に5分間敵の出現を待って南進したが敵輪型陣も見えず、敵機も現われない。 この時初めて、敵は確実に遁走中だと判断した。

 私達は、高高度に上昇するために時間を浪費し過ぎた。 燃料の続く限り急追しなければ逃げてしまう。 高度8千5百米から3千米に下げながら全速で南下を始めた。 今、敵空母は傷ついている。 絶好のチャンス到来だ。 戦々兢々の緊張は消えて意気天を衝く気概に変わり、54機全機に気魄が溢れてきた。

 「無線封止を解く、全軍突撃準備隊形のまま進撃、雷撃隊は高度2千米とせよ。」

 檮原大尉 (ゆずはら正幸、66期) は9機の 「瑞鶴」 雷撃隊を率いて左翼前面へ、「翔鶴」 雷撃隊清宮 (鋼、65期) 隊は右翼前面へ降下進出した。 艦爆隊27機は、中央に私の指揮中隊9機、左翼に石丸中隊9機、右翼に 「翔鶴」 の山田 (昌平、65期) 中隊9機、これら攻撃部隊全機の正面巾は約5千米、その上空3千米に零戦9機が蛇行しながら続いた。
(続く)
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