2010年03月22日

「距離通報器」 について (2)

 さてこの 「距離号令通報器」 ですが、「三笠」 ではその戦時日誌などを見る限りにおいては日本海海戦までには少なくとも主砲、6吋砲及び12听砲に砲台単位で装備されたと考えられます。

 つまり、この 「砲台」 とは各砲のことではないこと、そして通報器は砲術長から砲台長への伝達手段であるに過ぎないことに注意して下さい。

 しかも、装備位置はそれぞれの砲台長の目の前ではありませんし、また砲台長はそれを見ることにだけ専念できるわけでないことは当然です。 したがって、この通報器の指針が変わる度に専従の伝令員がそれを砲台長に伝えることになります。

 そして、通報器によって指示された距離及び号令に基づいて、砲台長が自己の所掌する各砲に対する指示・命令を出すために、砲台長 → 各砲間に別の通報器が装備されていたわけではありません。

 ですから、「三笠戦時日誌」 に艦長訓示として度々でてくるこの通報器を使用した通信訓練とは、砲術長 → 砲台長間の発信器側、受信器側の伝令員の読み取り・伝達訓練であったわけです。 つまり、戦闘時の喧騒、砲煙、被弾などの中でどれだけこの通報器を使って正確に伝達ができるか、です。

 当然ながら、通信の確達性を確保するために、この通報器のみならず、伝声管、高声電話、黒板、示数盤などが併用されました。 そしてこれらの総てを同時に使用した訓練がなされていたのです。 伝声管などの使用は砲台長 − 各砲間でも同じです。

 皆さんは 「え〜っ、黒板?」 などと思われるかも知れませんが、戦闘の最中にこの手持ち黒板が通信手段として極めて有効であることは、黄海海戦や日本海海戦での戦訓として知られています。

 通報器以外の通信系統については、例えば 「三笠」 では開戦前に次のとおり増設・改装されています。 特に 「交換室」 と呼ばれる、通信中継所を艦内の防禦区画内の前後2か所に新設して、各部との通信連絡を確実に行えるようにしています。

mikasa_commline_01_s.jpg
( 明治36年7月の訓令による 「三笠」 砲戦関係通信装置系統 司令塔〜各砲台間 )

 したがって、

 ただ、実際の砲戦中は、砲の轟音で伝声管からの連絡は不可能である。 このため、バーランドシュトラウト社のトランスミッターが必須であり、日露戦争の日本の主力艦にはすべて装備されていた。 (p67) (p71) 

 最も重要なのは、トランスミッター (Transmitter) である。 すなわち砲術長は目標・苗頭・距離を各砲台に連絡する手段が必要である。 これを伝声管でやることは不可能で、電気的に数字を示す機械が必要だった。 当時これができるメーカーはバーアンドシュトラウト社だけだった。 (p75) (p78) 

 は誤りです。

 「三笠」 の戦闘詳報にあるように、通報器が有効なものであったことは確かですが、その一方では砲戦に限っただけでも砲術長−各砲台長間の指揮・命令・報告には 「通報器」 のみではとても足りるものではありません。 それは前回ご紹介したこの「通報器」の種類とその盤面をご覧いただければ明らかでしょう。

 しかも、戦闘時喧騒、騒音、砲煙などや戦闘被害等の場合を考慮すると、これだけに頼ることは不可能であり、必ず他の手段との併用によらなけければなりません。

 そもそもこの 「通報器」 は一方的に指示命令を流すだけで、受信側がそれを了解したかどうかの応答を発信器側に返す機能がありません。 それをこの著者はどうやったと言うのでしょう?

 したがって、この著者の言う 「伝声管からの連絡は 不可能 」 でもなく、「トランスミッターが 必須 」 だったわけでもありません。

 「伝声管からの連絡は不可能」 ならば、なぜ砲戦系統に伝声管が装備されているのでしょうか?

 もし 「不可能」 ならば、戦闘・砲戦訓練はこの伝声管なしで行われていなければならないはずです。 一体どうやったら通報器だけでその様なことが可能にあるのでしょうか? その様なことになっていたと、例えば 「三笠戦時日誌」 に一行でも書かれているのでしょうか?

 そして、先にも書きましたように、当時この通報器は呉工廠のみならず、工作艦 「関東丸」 でも現地工作で製造しており、「当時これができるメーカーはバーアンドシュトラウト社だけだった」 も誤りです。
(この項続く)

(注) : 本項で引用した史料は、防衛研究所図書館史料室が保有・保管するものからです。

posted by 桜と錨 at 20:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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